10-16. 求解
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【演算魔法】内、抜けていた【直線比例Ⅰ】を追加
それじゃあ、『方程式』の練習問題だ!
今回も同じくA問題10問、B問題10問の20問構成。
紙とペンを近くに手繰り寄せ、まずはA問題の(1)からだ。
A問題
以下の方程式を解け。
(1) 3x+7 =22
よし、これは……
まずは『数字を右に』だな。『+7』を右に移項してあげれば良いな。
+7を左手の人差し指で触れる――――
「おぉっ」
この感覚……
まるで磁石に吸い付くような、指から魔力を吸い取られる感覚。
「オォォォーーー! ヨシッ!」
久し振りに来た!
思わず一人叫び、広い1人部屋に僕の声が響く。
この感覚が来たという事は、アレだ!
新魔法が手に入る前兆だ!
「魔力、注入ッ!」
興奮気味に適当なキメ台詞を叫び、指から魔力を流す。
……なんだよ今のキメ台詞は。
僕の口から出た一言であるとはいえ、流石に今のはちょっとナシだ。
1人部屋なので誰も聞いてないとはいえ、物凄く恥ずかしい。
「…………うわ、恥ずかしっ……」
思い付きで発した一言を思い出し、頭を抱えて机に伏せる。
そんな感じで一人身悶えていると――――
ピッ
「ん?」
軽い電子音が前から聞こえてきた。
ふと伏せていた顔を上げると。
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アクティブスキル【求解】を習得しました
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目の前に、青透明で横長のメッセージウィンドウが浮かんでいた。
「ぉぉ…………おおぉ! 来たァァーッ!」
思わず、本日何度目かの絶叫。
久し振りの新魔法だ! 待ってたぜ!
もう恥ずかしさなんて一瞬でぶっ飛んじゃったよ。
さて、久し振りに【演算魔法】に新たな仲間が加わりました。
お名前は【求解】です。
それでは、早速【求解】の詳細を見てみよう!
「【状態確認】!」
ピッ
少しおかしなテンションに侵されつつ、ステータスプレートをスマホの如く操作する。
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.5
職:数学者 状態:興奮
HP 49/49
MP 43/45
ATK 4
DEF 14
INT 19
MND 18
===SKILL========
【自動通訳】【MP回復強化Ⅰ】
【演算魔法】
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「えーと……【演算魔法】の……」
ピッ
===【演算魔法】========
【加法術Ⅲ】 【減法術Ⅰ】
【乗法術Ⅲ】 【除法術Ⅰ】
【合同Ⅰ】 【直線比例Ⅰ】
【解析】 【求解】
【状態操作Ⅲ】
===========
おっ、【求解】がちゃんと入ってる。よしよし。
一番下の行に追加されてたから、一瞬無いかと思ってビビったけどな。
「【求解】をーっと……」
ピッ
===【求解】========
魔力を消費して高速かつ正確に解を求められる。
解を求める際には、それを解くための知識が必要。
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……えぇ、説明これだけ!? 短いな。
まぁ、この短い文章から分かる事といえば……つまり、魔力を消費して方程式を解けるって事かな。
【加法術Ⅲ】の効果は『魔力を消費して足し算をしてくれる』だ。
【乗法術Ⅲ】なら『魔力を消費して掛け算をしてくれる』だな。
ってことは、多分【求解】もこれらと同じ感じで『魔力を消費して方程式を解いてくれる』って感じなんだろう。
で、『知識』ってのは何のことだろう?
いまいちピンと来ないんだけど…………多分、【加法術Ⅲ】や【減法術Ⅰ】、【除法術Ⅰ】の事かな。
『移項』には足し算や引き算、『係数外し』には割り算や掛け算が必要だからな。
つまり、知識不足のために僕が自力で解けない問題は【求解】でも解けないって事か。
……よし、それじゃあ練習問題に戻ろう。
A問題
以下の方程式を解け。
(1) 3x+7 =22
じゃあ、この問題に早速【求解】を使ってみちゃいますか!
……あー、ドキドキする。
一体どういう感じの魔法なんだろうか。
もしかして物凄いチート級の魔法だったりして……!?
……いや、でも逆に残念スキルだったら辛いなー……。
そんな期待と不安を同時に抱えながら、(1)の方程式を見つめて魔法名を唱えた。
「【求解】ッ!」
ピッ
その瞬間、僕の目の前に現れるメッセージウィンドウ。
「おぉっ」
いつもの横長なヤツとは異なり、数行にわたって何か書いてある。
なんだろう?
===【求解】結果========
x = 5
解: 3x+7 =22
3x = 22-7
= 15
x = 5
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……おいおい。
「マジで?!」
解いてくれちゃったよ!
【求解】が方程式を解いてくれちゃったよ!
しかも解だけじゃなくて、わざわざ解き方まで一行一行載せてくれるという親切仕様。
なんだよ。
【演算魔法】、やるじゃんか。
僕がわざわざ『方程式の解き方』を覚える必要なかったんじゃないの?
「……まぁ、流石にそれはダメか」
【求解】の説明文曰く、『【求解】は僕の知識を使って問題を解く』のだ。
もし僕が方程式の解き方を知らなければ、【求解】も解けないんだろう。
きっと。
「……フゥ」
【求解】の有能さにかなり興奮していたが、やっと落ち着いてきた。
さて、それじゃあ練習問題に戻りますか。
A問題の(2)。
1-x = -5x+9
よっしゃ、もう一回【求解】を使ってみますか!
まるで新しいおもちゃを貰った時のようなウキウキ感と共に、(2)の問題を紙に書き写す。
「よし、【求解】!」
ピッ
===【求解】結果========
x = 2
解: 1-x = -5x+9
-x+5x = 9-1
4x = 8
x = 2
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「うおぉぉー! 解けた!」
いや、別に僕が解いた訳じゃないんだけどさ。
凄い魔法だな、コレ!
改めて【求解】に感動しつつ、紙に問題の結果を書いていく。
えーっと……2行目で移項か。これで左に文字、右に数字が出来たと。
で、3行目で計算、4行目でxの係数を外して解き終わりだな。
よし、続いてA問題の(3)だ。
これも【求解】を使って……
「フゥーーッ、終わったー!」
無事、B問題の(10)まで解き終わった。
いやー、【求解】様々だな。
説明を読んだだけじゃ『方程式の解き方』がまだアヤフヤだった。
けど【求解】が『解き方』を見せてくれたお陰で、『どんな流れで方程式を解けばいいか』が分かってきたような気がするよ。
「さて、今日の勉強はこれぐらいにしてっと」
ペンを置き、[参考書]を閉じて立ち上がる。
歩いて向かう先は……もちろんベッドだ。
ベッドダイブだ。
ボフッ
「ハアアァァァァァーッ」
羽毛布団のフカフカを全身で感じる。
あー、やっぱり一仕事した後のフカフカベッドは最高だな。
勉強後のご褒美を十分に堪能した所で一度寝返り、仰向けになる。
「…………」
視界には、だだっ広い天井。
部屋が広ければ天井も広い。今までのホテルとは格が違う。
「……こんな広い部屋に…………なんでだろ」
日本でもこの世界でも、金欠生活を続けてきた僕にはこんな経験無かった。こんなに広い部屋に泊まれるなんて、とても嬉しい。
……それと同時に、僕達の宿代まで出してくれたシーカントさんに申し訳なさを感じる。
僕達は飽くまで只の護衛だ。なのに、なんでココまで良い待遇を……?
再び、喜びと罪悪感に駆られる。
「でもまぁ、考えても分かんないし」
分からんものは分からん。さっさと諦めるに限るね。
……もし僕がこの宿を拠点なんかにしたら、きっと即破産だ。
一週間もせずに金が底を尽くだろうな。
「……ところでこの部屋、一泊幾らくらいなんだろう?」
ふと、思い付きで独り言を呟いてみる――――
ピッ
軽い電子音と共に、天井を見つめる僕の目の前に青透明の板が開いた。
「えっ!?」
な、何だ!?
突然目の前に現れたメッセージウィンドウを見る。
そこに写っていたのは、二行の文と一枚の画像だった。
===【求解】結果========
銀貨30枚 / 1泊
解:『記憶』
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え、なんでなんで!?
数学の問題でもないのに【求解】が動いちゃったんですけど。
とりあえず、疑問が残ったままメッセージウィンドウを読み進めていく。
『解』の欄には『記憶』と書かれており、その下には画像が貼られている。
「これは……カウンターの写真だな」
写真は、この宿の入口にあるロビーとカウンターの風景だ。
さっき僕達が入った時に見た景色だな。
「なんだろ」
この写真をよく見てみる。
ふと、カウンターの上に置かれた紙に目が留まる。
そこに書かれていたのは。
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宿泊費
1人部屋 銀貨30枚 / 1泊
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「……コレじゃんか」
って事は、既に僕はこの部屋の料金を見ていたって事か。
…………まさか、さっきの『知識』ってコレの事!?
あぁ……。
もしかしたら、またヤバい魔法が手に入ってしまったのかもしれない。




