10-11. 文字式I
目が覚めた。
……うぅっ、寒っ。
無意識にブルッと身体が震える。
すっかり冷えてしまった腕で身体をベッドから起こすと、部屋が真っ暗になっているのが分かる。
「(おっ、もう夜か)」
部屋はすっかり真っ暗。
開きっぱなしだった窓からは冷たく湿った風と、白い月光が入ってくる。
「(うぅー、寒々っ……)」
とりあえずそう呟きながら、ベッドを下りて白衣を取りに行く。
……あぁー、毛布を被って寝ないと風邪引くな、これ。
ヒンヤリとしている白衣を羽織り、ガラララと窓を閉める。
窓を閉めると風は入らなくなり、少し暖かくなった気がした。
ちなみに窓はガラスで出来ているので、一応部屋に月光は入ってくる。
……ふぅ。
よし、これでとりあえず寒くはない。
のだが、寝起きで頭が冴えない。
とりあえずベッドに腰を掛け、そのまま少しボーッとしていた。
しばらくボーッとしていると、身体が段々暖まってきた。
昼寝のお陰もあり、頭もシャッキリしてきた。
壁時計を見ると、現在時刻は午後6時半過ぎ。
まあまあ寝たな。いい感じの昼寝だ。
よし、そんじゃあ何をしようかなー……。
眠気は昼寝で消えた。二度寝する気は無くなってしまった。
シンは隣でスヤスヤと寝ている。
窓から外を覗くと、人の姿は1人も見えない。まぁ、こんなに真っ暗になっちゃ、外を出歩く人なんて居ないよな。
……暇だ。
暇になってしまった。
だが、僕は暇な時間の活用法を知っている。
『数学の勉強』だ!
ココは数学者らしく、勉強と行きましょうか!
バックから[参考書]と紙、ペンを取り出し、机の上に置く。
机の上に置かれた燭台の蝋燭に火を付けて灯りをとり、椅子に座ったら準備完了だ。
蝋燭の火に手をかざす。
あー……あったかい。冷えた手先が温まる。
あ、そうそう。
一度椅子から立ち上がり、シンのベッドに向かう。
「(風邪引くなよ)」
そう呟きつつ、シンに毛布を掛けてあげるのも忘れない。
体調を崩されても困るからな。
再び席に着いてと。
じゃあ、始めよう。
[参考書]の目次を開く。
確か、この前から『中学数学』の範囲に入ったんだっけな。
前回は『負の数』だ。
……あの酷い詛呪の魔法、『-1倍』を思いついた単元だったな。
って事は、その次は……『文字式』か。
よし、そんじゃあ行きますか!
●文字式
文字式とは、数字や演算記号と共にアルファベット・ギリシャ文字等の文字を用いた数式の事である。
……まぁ、難しい事言われても困るよね。
この単元では、『文字式』を6つのポイントに分けて説明してあるので、順に見ていこう。
Point①
『文字』
小学校の算数の授業で、こんな問題を解く時を想像してほしい。
『1本120円のペンを何本か買ったら、代金が480円になりました。何本買ったでしょうか?』
この問題、高校生や大人が解くなら『480 ÷ 120』で、答えは4だと直ぐに分かる。
だが、もしこれを掛け算・割り算覚えたての小学生なら、こんな式を立てて解いていくよね。
『120 × □ =480』
分からない所を□にして解くヤツだ。
小学生の頃は、こうやって□や○、△や☆を使って問題を解いた事があるんじゃないかな。
だが、中学からは違う。
『算数』も『数学』にレベルアップしたんだ。それじゃあ、□や○や△もレベルアップさせて、カッコよくさせてあげよう!
使う文字を□とかの代わりにa、b、c、……といったアルファベットを使えば、見た目もカッコよくなるじゃんか!
『120 × □ = 480』も『120 × a = 480』になって、見た目カッコ良くない?
……という事で、中学からは『分からないモノ』を□や○という形ではなく、アルファベットで表す。
アルファベット1つには□や○と同じく数が1つ入るぞ、って事だ。
ちなみに、高校に行くと更にレベルアップして、アルファベットだけでなくαやβといった『ギリシャ文字』というのも頻繁に使うようになるぞ!
Point②
『文字式のルール(×)』
さて、それじゃあ数式に文字を使う方法は分かった。
□とかをそのままaとかに置き換えれば良いのだ。
だが、それだけじゃパワーアップは終わらない!
文字式を扱うに当たって、新たにルールが出来るのだ!
まず、『文字』や『文字入り()』の直前の×は省略!
どういう意味かは、例を見てもらった方が早いな。
例えば『3×a』や『-4×b』、『2×(c-1)』という式があるとしよう。
これらは×を省いて『3a』『-4b』『2(c-1)』という風に書き換えられるのだ!
見やすくなったよね? カッコ良くなったよね?!
ちなみに、『-7 × a × b × c』みたいに×が幾つあっても『-7abc』と省略できる。どんどん省略していこう!
Point③
『文字式のルール(順番)』
Point②では、×を省く文字式の書き方をやった。
だけど、ただ×を外して書けばいいって訳じゃないのだ。
実は×を外した時、文字や数字は『背の順』みたいに並ばなければならないんだ!
その順番とは『+-』『数字』『ギリシャ文字(α、β、γ……)』『アルファベット(a、b、c……)』って感じだ。
例えば、『a × 8 × d × b』だと『8abd』ってなる。
『u × t × s ×(-3)』なら『-3stu』って感じ。
『a × b × π × 2』だと『2πab』って感じだな。
Point④
『文字式のルール(÷)』
さて、×は省略が出来るようになった。しかし、実は÷の方も省略できる。
方法は簡単、÷の直後の数を『分数の分母』にすれば良いのだ!
『1 ÷ 3』『7 ÷ a × b』『4 ÷(c- d)』なら、それぞれ次のような感じになるぞ。
1 7b 4
― ―— ―――
3 a c-d
まぁ、最初は分数には違和感があるかもしれない。
だけど、中学数学以降では滅多に÷の記号を使わなくなるので、どんどん分数での書き方を使って慣れていこう。
Point⑤
『累乗』
さて、それでは。
『7 × a × a × a × a』
コレを今まで通りに省略して表すと次のようになる。
『7aaaa』
……だけどさ、aを4個も書くとか面倒極まりないよね。
aを100個掛けた時の式とか、もう書くだけで計算する気が失せる。
ということで、同じ文字を繰り返し掛ける時には『累乗』を使って表す。
aを4つ掛ける時なら、『a』の右肩に4と書いて『a⁴』と表す。これなら楽チンだな。
勿論、aを100個掛けた時も『a¹⁰⁰』とすれば良いので、わざわざaを100個書く必要は無いのだ。
『6abbbccd』みたいに何種類かの文字が掛かっていても、それぞれの種類ごとに累乗を使って『6ab³c²d』とすれば良い。
ちなみに、累乗については参考書の後のページで詳しく解説しているらしい。今はコレだけ分かれば良いんだってさ。
Point⑥
『1は省略』
それじゃあ、『文字式』最後のルールだ。
『4 × a』なら、×を省略して『4a』だ。
『3 × a』なら『3a』。
『2 × a』なら『2a』。
じゃあ、『1 × a』なら『1a』?
いや、正しい答えは『a』だ。
文字式を扱うに当たって、『1×』とか、『×1』ってのは全部省略しなきゃいけないのだ。
なので、『b × 1』も『1 × b』も『b』。
『(c + 3) × 1』も『c +3』でオッケー。
ちなみに、(-1)を掛ける時もルールは同じ。『(-1)×a = -a』となるから注意だ。
『1 × ab²c³d』も『ab²c³d』にしなきゃいけないのだ。
場合によっては敢えて『×1』を書く時もあるけど、ソレは例外中の例外。
基本的には省略を忘れないようにしよう。




