10-10. 田舎
馬車の上でのお悩み相談は無事終了した。
アークの『攻撃力が足りない』という悩みは、【演算魔法】によって解決できたようだ。
さらに、アークも僕達の旅の仲間になってくれた。
これからは5人旅だ!
まぁ、そんな感じで僕達5人はシーカントさんの馬車に揺られて王都を目指す。
現在時刻は午後3時。
見張りをしながら雑談をしていると、御者席からシーカントさんの声が聞こえてきた。
「間も無くリーゼ村に到着」
「おう!」
「はーい!」
「分かりました」
おっ、もうリーゼ村に着くのか。
まだテイラーを出たその日、しかも陽が昇っているうちに着いてしまうなんて。
流石は馬車だ。歩き旅の速さとは比べ物にならない。
「おっ、見えてきたな」
馬車の荷台から前を見ると、草原の中を真っ直ぐに突っ切る西街道。
その上に、ポツポツと家が建っている場所が見える。
木や畑がその周りに広がっており、畑にはしゃがんで作業をしている人が数人。きっと野菜の収穫とかしてるのかな。
家の玄関でお喋りをする人々も見られる。
「あれがリーゼ村……テイラーの隣町ね」
「隣町というよりは隣村ですかね」
「やっぱり、相変わらずショボい村だねー」
「コース、そんな事言うなよ……」
僕につられてアークとシン、コース、ダンも荷台から顔を出す。
コースの言う事は置いといて……まぁ長閑で良い所だよね。
王都みたいな人々の喧騒も無く、テイラーみたいに観光客が沢山居るって訳でもない。
村の方々の日常、ノンビリとした時間が流れている。
そんな場所だ。
さぁ、村まではもう少しだ!
馬車はそのまま村に入り、村の中でもちょっと大きめな民家の前で停まった。
シーカントさんが御者席から降り、こちらへと歩いてくる。
それに合わせて僕達も荷台から飛び降りる。
「シン様、コース様、ダン様、ケースケ様。そしてアーク様」
「「「「「はい」」」」」
シーカントさんに呼ばれ、僕達5人が駆け寄る。
何か話でもあんのかな。
「本日は護衛、御苦労であった。翌朝は8時より出発、其れ迄は各自自由に御過ごし願おう」
「「「「「はい!」」」」」
「貴方々の部屋は手前が用意しておく。疲労を癒し、英気を養われたく思う」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
「では、明日の護衛も宜しく願おう。以上」
そう言ってシーカントさんは話を締め、建物に向かって歩いて行った。
「フーッ、今日のお仕事終了っ!」
話が終わった所で、腕を上に上げてグーっと伸びる。
馬車の上では座りっぱなしだったから気持ちが良い。
「お疲れ様でした、先生!」
「おぅ、皆もな。お疲れ様!」
そう返すと、皆も一気に緊張が解ける。
「あぁー……初めての護衛楽しかったねー、ダン!」
「そうだな。俺もそう思うぞ」
コースとダンは2人でそう言って笑っている。
うんうん、この調子で明日からの護衛も頑張ろうな。
その2人の隣にいるアークも、ホッとした表情をしている。
家出をして以来、3日ぶりに人の住む地に辿り着いたのだ。そりゃ安心するよね。
「アークもお疲れ様」
「うん、ありがとう。ケースケもね」
「おぅ」
まぁ僕が言うのもなんだけど、僕達が居なかったら今頃アークは未だ草原のどこかを彷徨っているだろうな。
いや、もしかしたらあのカーキウルフの群れに……
ちょっと嫌な想像をして鳥肌がゾワっと立ったが、過去の事はもう良い。僕達はアークを救えたからそれでいいのだ。
昨晩寝れなかった分、しっかり休んでね。
その後もしばらく馬車の近くで駄弁っていると、シーカントさんが建物から出て来た。僕達の泊まる部屋も取ってくれたようだ。
なんという優しさ……。
どうやら、リーゼ村の中で一番大きい民家で3部屋を借りてくれたようだ。部屋割りはそれぞれ『シーカントさん』『コースとアーク』『僕とシンとダン』って感じなんだって。
シーカントさんは、それを伝えると再び建物へと入っていった。
さて、そろそろお暇しますかね。
「そんじゃあ、僕は部屋に入るよ」
折角、シーカントさんには部屋を取ってもらったのだ。
ありがたくノンビリさせてもらおうかな。
「それじゃー、私はリーゼ村をお散歩して、お土産見てくるねー!」
「おぅ、そうか」
コースはここでもお買い物は欠かさないのな。
……散歩か。悪くない。
僕も後で行こっと。
「じゃあ皆はどうする?」
「そうだな……、俺は何か美味いモンが無いか見てくるぞ」
「それでは、私も部屋に入ります」
「分かった」
食べ物探しのダン。
部屋でノンビリのシン。
で、コースはお買い物で。
……そして、僕は部屋で寝る。
テイラーで自由時間をとった時と全く同じだな。
「じゃあ……わたしもコースと一緒に行動するわ」
「おぅ」
「オッケー! 一緒にお散歩しよ、アーク!」
「ええ、コース」
女子はと一緒に動くのな。
アークは今日初めて出会ったとはいえ、早速馴染んでくれてるようで宜しいね。
まぁ、そんな訳で全員の行動は確認できた。
あとは……話す事も特にないし、そろそろフリータイムといきますか。
「よし、そんじゃあ解散で。暗くなる前には部屋に入るようにな」
「「「「はい!」」」」
ダンとコース、アークと別れて僕とシンは民家に入る。
民家の住人であるお婆さんから僕達の部屋を教えて貰い、部屋の引き戸を開けると。
「「おぉ!」」
田舎の古民家を思わせるような、3人用にしては広い部屋。
その壁際には、ベッドが3つ。勿論、フカフカの羽毛ベッドだ。
窓は開いており、草原に流れるそよ風が土の匂いを乗せて部屋を通り抜ける。
柱には、見た目随分と古そうな壁時計が掛けてある。
部屋の端には、机と椅子も用意されている。
「あー、この感じ……懐かしいな。帰省した時を思い出すよ」
「成程……。先生の祖父母の家はこんな感じなんですね」
「あぁ。小学生の頃は、夏休みに毎年行ってたんだよな。弟と川原で遊んだり、祖父の畑仕事を手伝ったりとか良くやったよ」
「楽しそうですね」
「まぁ、中学に入ってからは中々行けなくなっちゃったけどな。シンもこの感じが『懐かしいなー』っとか思わないか?」
小学生時代の記憶を思い出しつつ、シンにもそう聞いてみる。
「そうですね……懐かしいとは思いますが、つい3ヶ月前まで住んでいた私の実家もこういう感じでした。この長閑な感じがトリグ村を思い出させてくれますね」
「……そ、そっすか」
……あぁ、そういやシン達は山岳地帯のド真ん中、辺境の村出身だった。
首都圏育ちの僕にとって『田舎』でも、シンにとっちゃこれがノーマルなんだね。
「さて、そんじゃあ」
部屋に入り、リュックを適当に壁際に置き、血痕まみれの白衣を脱ぎ、一番手前のベッドにダイブ。
ボフッ
フカフカのベッドが勢い良く飛び込んだ僕をキャッチしてくれる。
ハァァァァァ……気持ちいい…………
「あ、それでは私も」
後ろからそんな声が聞こえる。
続けてドサッという物音。
足音が僕のベッドの辺りを通る。
足音が一瞬止むと、直後隣のベッドからボフッという気持ちのいい音が聞こえた。
「フウゥゥゥ……」
最後に、気の抜けるようなシンの声。
どうやらシンもベッドダイブを堪能しているようだな。
「今日も疲れましたね」
「そうだな。やっぱ、一仕事終えた後のベッドは最高だ……」
「はい……」
その会話を最後に、僕とシンは夢の世界へと旅立った。




