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10-8. 適性Ⅰ

※12/17

脱字修正

二度目の襲撃は、『魔法戦士』アークが一人で、たったの一撃と一言によって片付けてしまった。

その後、僕達は再び馬車に乗り込み、今日の目的地、リーゼ村へと向かっていた。



「アーク、本当にカッコよかったねー!」

「本当だな。炎が溢れ出したときはビックリしたぜ!」


さっきの襲撃から30分くらい経っているけれど、馬車の上は未だにアークの話題で持ちきりだ。


「あの炎を纏った槍……美しかったです!」

「本当だな。僕も憧れちゃうよ」

「……………………ん」


そんな僕達4人からベタ褒めの弾幕を受けているアークは、さっきから照れと恥ずかしさで耳を真っ赤にして俯いている。



「あの一撃で10頭程のウルフを一気に薙ぎ払い……壮観でした! 私もあんな風にやってみたいです!」

「俺も盾に炎とか風とか纏えねえかな……」

「私もナイフに水を纏わせるの、やってみよ!」

「僕も憧れちゃったよ。【演算魔法】で何とか出来ないかなー……」

「それと、あの槍を構えた立ち姿、凄くカッコ良かったです!」

「うんうん!」

「まるで本物の槍術戦士みたいだったねー!」

「……………………ん」


僕達のベタ褒め弾幕は止まらない。



「なぁシン、(ジョブ)に『魔法戦士』ってのはあるのか?」

「いえ、多分無いですね。全ての(ジョブ)は『戦士』『魔術師』『産業人』『識者』のどれか1つに当てはまります。なので、2つに当てはまる『魔法戦士』という(ジョブ)は多分無いのでは」

「……そうか」


『魔法戦士』を授かることは出来ないのか。残念。

少し落ち込んでいると、御者席からシーカントさんが話しかけて来た。



「ケースケ様。手前の今迄の商人経験にて『初歩魔法を操る戦士』や『武器に手慣れた魔術師』を見かけた事は幾度」

「成程」


……それじゃあ、見た目魔法戦士っぽい人はたまに居るって事か。


「されど、アーク様ほど容易く『魔法と武器を()()()扱う』者は未だ初見」

「おぉ!」


マジか!

シーカントさんがそう言うんなら、やっぱりアークは凄いんだろうな。



そう思ってふとアークを見ると、彼女は顔を両手で覆って俯いている。

相変わらず耳は真っ赤っか。

ベタ褒め弾幕にシーカントさんも加わったことで、恥ずかしさが倍増してしまったようだ。






「ん? どうしたんだよ、アーク? 体調悪いのか?」


弾幕が続く中、ある時ダンがアークの様子の異常に気づいたようだ。俯くアークに、ダンがそう問いかける。

……が、多分その原因は僕達です。

僕達がアークを褒め殺してるからです。



「………………い、いえ。こ……こんなに褒められた事、無かったからッ……」


今にも恥ずかし過ぎて死ぬんじゃないか、っていう勢いで首をブンブン振りながらそう返すアーク。

長髪が邪魔していて顔を見ることは出来ないが、きっと顔も真っ赤にしているんだろう。


……こんな姿を見ていると、さっきまでの淡々とした感じのアークの印象が吹っ飛んでしまいそうだ。



「そ、そうなのか!?」

「えっ、あんなカッコいい戦い方なのにー!?」

「……うん。妹達に比べたら、わたしの魔法はまだまだ。褒められるどころか、怒られてばっかりだったわ」


えぇっ、僕から見たらアークの魔法も十分凄かったんだけどな。

あの技術を以ってしても怒られるなんて、考えられない。

というか、アークの上を行く『アークの妹さん』ってのも、どんな人なんだろう?



「なぁ、アーク。僕達からすればアークの戦い方は十分凄いと思うんだけど、なんで怒られるんだ?」

「先生の言う通りです。私にはアークが怒られる所を想像できませんが……」

「悩みがあるなら、俺らに話してみろよ」



僕、シン、ダンがそう言うと、アークは少し悲しげな顔をして俯く。


……何かあったのかな。なんか聞いちゃいけない事を聞いてしまったかも……。

そう思っていると、アークは顔を上げて言った。


「少し長くなるけど、良いかな」

「勿論だ!」

「はい!」

「おぅ!」

「うん!」

「みんなありがとう。それじゃあ………………」











そう言って、馬車の上でアークのお悩み相談が始まった。



アーク曰く、彼女の実家は『風の街・テイラー』の中でも割と有名な【風系統魔法】に優れた血筋の家で、家族は皆『風系統魔術師』。【風系統魔法】の才能も高く、子どもの頃から自由に風系統魔法を操るんだって。

だが、アークだけは違った。

【風系統魔法】の適性は皆無で、最も初歩的な魔法の【風源Ⅰ】(ウィンド・ソース)すら使えなかった。



「というか、今でも【風源Ⅰ】(ウィンド・ソース)は使えないわ。わたし、本当に適性無いのね」

「……そっすか」



……そんなアークの自嘲めいた一言は置いといて。


そんな彼女が代わりに持っていたのは【火系統魔法】と【槍術】。

どうやら、遠い先祖からの隔世遺伝が現れたようだ。

そのせいで、【風系統魔法】で有名な一家の中ではアークだけが仲間外れ状態になってしまった。


そんな中、更に悪い事が重なる。

アークの持つ適性は、【火系統魔法】【槍術】のどっちも微妙で、何とも言えないレベルだった。

魔物と戦う分には不自由ない程度なんだけど、イマイチ光らない。


【風系統魔法】は、どれだけ練習しても全く習得できる気配が無く。

【火系統魔法】の練習をしても、槍の練習をしても、なかなか上達しない。

ましてや、『魔法』と『槍』を同時に扱う事なんてモッテのホカ。


それに対し、【風系統魔法】を得た2人の妹はグングンと力を付けていく。

子ども時代のアークは、毎日毎日憂鬱な気持ちで過ごしていた。






そんな中、アークが10歳になった日。

妹達には実力がとっくに抜かれていたが、そんな彼女も(ジョブ)を授かる日だ。

アークは家族と共に教会に行き、クリスタルに触れる。

ステータスプレートの(ジョブ)欄に『火系統魔術師』の文字が刻まれ、グンッと上昇するステータス。



「あの時は、火系統魔術師になって上昇したステータスを見て、『これなら行ける』って思ったわ」



(ジョブ)を授かった後は、アークの予想通りだった。

火系統魔術師になった事、ステータスが増えた事で【火系統魔法】の扱いがグンと上手くなった。

それによって生まれたのが()()()()()、『魔法戦士』スタイル。

火系統魔法を自身の持つ槍に掛ける事で、燃え盛る槍を作り出したのだ。


このスタイルを見つけた後のアークは、今までとは全く違った。

炎を纏った槍は魔物に火傷の状態異常を与え、その分多くのダメージを与えられるようになり。

扱う()()が『槍』『魔法』の2つから『燃え盛る槍』の1つになって、行動が格段に素早くなり。

そして何より、滅多に見ない魔法戦士スタイルは見栄えが良かった。


これが、アークの一番()()()()()()戦い方になっていった。

転機は訪れたのだ。



「これをマスターすれば、わたしも妹達に追いつけると思ったんだけどね……」



だが。

一難去ってまた一難、とも言う。


新たな戦い方を続けるにつれて、段々と分かってきた事があった。

攻撃力が伸び悩んでいた。

槍と魔法を同時に扱えるようにはなったが、飽くまで(ジョブ)は『魔術師』。それ故にATKは中々上がらない。

(ジョブ)を授かって【火系統魔法】も扱い易くなったとはいえ、元々適性は高くない。



俗に言う、器用貧乏。

一瞬は近づいたとも思えた妹達との距離も、結局はそれほどでもなかった。

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
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現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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