10-8. 適性Ⅰ
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二度目の襲撃は、『魔法戦士』アークが一人で、たったの一撃と一言によって片付けてしまった。
その後、僕達は再び馬車に乗り込み、今日の目的地、リーゼ村へと向かっていた。
「アーク、本当にカッコよかったねー!」
「本当だな。炎が溢れ出したときはビックリしたぜ!」
さっきの襲撃から30分くらい経っているけれど、馬車の上は未だにアークの話題で持ちきりだ。
「あの炎を纏った槍……美しかったです!」
「本当だな。僕も憧れちゃうよ」
「……………………ん」
そんな僕達4人からベタ褒めの弾幕を受けているアークは、さっきから照れと恥ずかしさで耳を真っ赤にして俯いている。
「あの一撃で10頭程のウルフを一気に薙ぎ払い……壮観でした! 私もあんな風にやってみたいです!」
「俺も盾に炎とか風とか纏えねえかな……」
「私もナイフに水を纏わせるの、やってみよ!」
「僕も憧れちゃったよ。【演算魔法】で何とか出来ないかなー……」
「それと、あの槍を構えた立ち姿、凄くカッコ良かったです!」
「うんうん!」
「まるで本物の槍術戦士みたいだったねー!」
「……………………ん」
僕達のベタ褒め弾幕は止まらない。
「なぁシン、職に『魔法戦士』ってのはあるのか?」
「いえ、多分無いですね。全ての職は『戦士』『魔術師』『産業人』『識者』のどれか1つに当てはまります。なので、2つに当てはまる『魔法戦士』という職は多分無いのでは」
「……そうか」
『魔法戦士』を授かることは出来ないのか。残念。
少し落ち込んでいると、御者席からシーカントさんが話しかけて来た。
「ケースケ様。手前の今迄の商人経験にて『初歩魔法を操る戦士』や『武器に手慣れた魔術師』を見かけた事は幾度」
「成程」
……それじゃあ、見た目魔法戦士っぽい人はたまに居るって事か。
「されど、アーク様ほど容易く『魔法と武器を同時に扱う』者は未だ初見」
「おぉ!」
マジか!
シーカントさんがそう言うんなら、やっぱりアークは凄いんだろうな。
そう思ってふとアークを見ると、彼女は顔を両手で覆って俯いている。
相変わらず耳は真っ赤っか。
ベタ褒め弾幕にシーカントさんも加わったことで、恥ずかしさが倍増してしまったようだ。
「ん? どうしたんだよ、アーク? 体調悪いのか?」
弾幕が続く中、ある時ダンがアークの様子の異常に気づいたようだ。俯くアークに、ダンがそう問いかける。
……が、多分その原因は僕達です。
僕達がアークを褒め殺してるからです。
「………………い、いえ。こ……こんなに褒められた事、無かったからッ……」
今にも恥ずかし過ぎて死ぬんじゃないか、っていう勢いで首をブンブン振りながらそう返すアーク。
長髪が邪魔していて顔を見ることは出来ないが、きっと顔も真っ赤にしているんだろう。
……こんな姿を見ていると、さっきまでの淡々とした感じのアークの印象が吹っ飛んでしまいそうだ。
「そ、そうなのか!?」
「えっ、あんなカッコいい戦い方なのにー!?」
「……うん。妹達に比べたら、わたしの魔法はまだまだ。褒められるどころか、怒られてばっかりだったわ」
えぇっ、僕から見たらアークの魔法も十分凄かったんだけどな。
あの技術を以ってしても怒られるなんて、考えられない。
というか、アークの上を行く『アークの妹さん』ってのも、どんな人なんだろう?
「なぁ、アーク。僕達からすればアークの戦い方は十分凄いと思うんだけど、なんで怒られるんだ?」
「先生の言う通りです。私にはアークが怒られる所を想像できませんが……」
「悩みがあるなら、俺らに話してみろよ」
僕、シン、ダンがそう言うと、アークは少し悲しげな顔をして俯く。
……何かあったのかな。なんか聞いちゃいけない事を聞いてしまったかも……。
そう思っていると、アークは顔を上げて言った。
「少し長くなるけど、良いかな」
「勿論だ!」
「はい!」
「おぅ!」
「うん!」
「みんなありがとう。それじゃあ………………」
そう言って、馬車の上でアークのお悩み相談が始まった。
アーク曰く、彼女の実家は『風の街・テイラー』の中でも割と有名な【風系統魔法】に優れた血筋の家で、家族は皆『風系統魔術師』。【風系統魔法】の才能も高く、子どもの頃から自由に風系統魔法を操るんだって。
だが、アークだけは違った。
【風系統魔法】の適性は皆無で、最も初歩的な魔法の【風源Ⅰ】すら使えなかった。
「というか、今でも【風源Ⅰ】は使えないわ。わたし、本当に適性無いのね」
「……そっすか」
……そんなアークの自嘲めいた一言は置いといて。
そんな彼女が代わりに持っていたのは【火系統魔法】と【槍術】。
どうやら、遠い先祖からの隔世遺伝が現れたようだ。
そのせいで、【風系統魔法】で有名な一家の中ではアークだけが仲間外れ状態になってしまった。
そんな中、更に悪い事が重なる。
アークの持つ適性は、【火系統魔法】【槍術】のどっちも微妙で、何とも言えないレベルだった。
魔物と戦う分には不自由ない程度なんだけど、イマイチ光らない。
【風系統魔法】は、どれだけ練習しても全く習得できる気配が無く。
【火系統魔法】の練習をしても、槍の練習をしても、なかなか上達しない。
ましてや、『魔法』と『槍』を同時に扱う事なんてモッテのホカ。
それに対し、【風系統魔法】を得た2人の妹はグングンと力を付けていく。
子ども時代のアークは、毎日毎日憂鬱な気持ちで過ごしていた。
そんな中、アークが10歳になった日。
妹達には実力がとっくに抜かれていたが、そんな彼女も職を授かる日だ。
アークは家族と共に教会に行き、クリスタルに触れる。
ステータスプレートの職欄に『火系統魔術師』の文字が刻まれ、グンッと上昇するステータス。
「あの時は、火系統魔術師になって上昇したステータスを見て、『これなら行ける』って思ったわ」
職を授かった後は、アークの予想通りだった。
火系統魔術師になった事、ステータスが増えた事で【火系統魔法】の扱いがグンと上手くなった。
それによって生まれたのが今の戦い方、『魔法戦士』スタイル。
火系統魔法を自身の持つ槍に掛ける事で、燃え盛る槍を作り出したのだ。
このスタイルを見つけた後のアークは、今までとは全く違った。
炎を纏った槍は魔物に火傷の状態異常を与え、その分多くのダメージを与えられるようになり。
扱うモノが『槍』『魔法』の2つから『燃え盛る槍』の1つになって、行動が格段に素早くなり。
そして何より、滅多に見ない魔法戦士スタイルは見栄えが良かった。
これが、アークの一番しっくりくる戦い方になっていった。
転機は訪れたのだ。
「これをマスターすれば、わたしも妹達に追いつけると思ったんだけどね……」
だが。
一難去ってまた一難、とも言う。
新たな戦い方を続けるにつれて、段々と分かってきた事があった。
攻撃力が伸び悩んでいた。
槍と魔法を同時に扱えるようにはなったが、飽くまで職は『魔術師』。それ故にATKは中々上がらない。
職を授かって【火系統魔法】も扱い易くなったとはいえ、元々適性は高くない。
俗に言う、器用貧乏。
一瞬は近づいたとも思えた妹達との距離も、結局はそれほどでもなかった。




