10-2. 護衛
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シーカントの一人称を修正
「行くぞ、シン、コース、ダン! 馬車を守るぞ!」
「「「はい!」」」
そう言い、僕達は同時に馬車から飛び降りた。
そのまま即座に散らばり、4人でぐるりと馬車を囲む。
馬車の右前にシン、左前にダン。
コースは左後ろ、僕は右後ろだ。
それぞれ剣、大盾、杖とナイフを構えると同時、草原から走って来たカーキウルフも散開して僕達を囲い込む。
「カーキウルフの狙いはMPポーションである故、手前と馬は心配無用。荷物のみ守られよ」
「「「「はい!」」」」
御者席からシーカントさんがそう教えてくれる。
成程、カーキウルフの狙いはMPポーションか。
まぁ、確かにコレって魔力の塊みたいなもんだもんな。
周りを囲むウルフを見る。
ウルフ達は僕達と馬車を丸く取り囲んだまま、グルグルと歩きながらコチラの動きを伺っている。
ギラギラと光らせた目で、僕達と馬車の上のMPポーションを睨む。
……なんだか、まるで椅子取りゲームだ。
椅子から見た景色ってこんな感じなんだねって思った。
……まぁそんな事は置いといて。
そんなふざけた事言ってられる場合じゃない。
敵の数はおよそ30。
その内、薄い緑色の体毛を持つリーダー格が3頭。
「ねぇ先生、なんかリーダーのヤツ多くないー?」
「あぁ、3頭居るな。どんだけ大きい群なんだ一体」
「否、此れは三つの群れが纏まった物。此れ程の群れ、MPポーションの運搬に於いては茶飯事」
へー。
今までの経験から『カーキウルフの群れ1つに、リーダー格は0か1頭』だと思ってたけど、そうでも無いんだね。
そんな事を考えながらウルフの動きを見ていると、リーダー格の中の1頭が脚を止める。
「襲撃の予兆!」
それを見たシーカントさんもそう叫ぶ。
改めて僕達も身構え、武器をギュッと握る。
そして。
ゥオオオオオォォォォォォン!
リーダー格が大きく遠吠え。
それと同時、周囲のウルフが一斉にコチラへと迫って来た。
「来ました!」
「いっくよー!」
「よっしゃ!」
3人も気合いを入れて応戦に出た。
よしっ、僕も行くか!
「【乗法術Ⅲ】・ATK4、DEF4!
同様にINT4、DEF4! 同様にATK4、DEF4! 同様にATK4、DEF4!」
シン、コース、ダン、そして僕にバフを掛ける。
コレで準備は完了。
さあ、僕達を襲った事、後悔して貰おうか!
「ハァッ! 【強突Ⅰ】!」
「【水線Ⅳ】ーーッ!」
「【硬叩Ⅳ】! ゥオラァ! ダァッ!」
「ぃよっと、うわっ」
続々とウルフが馬車へと迫り来るが、3人が尽く撃ち落としていく。
100を超えるATKで振るわれる剣は、残像が見える勢いで振り抜かれて敵を両断する。
100を超えるINTで放たれる水のレーザーは、掠っただけでも大怪我。
100を超えるDEFで立ちはだかる大盾は、どんな体当たりを受けようとビクともしない。
しかし、3人とも力技で敵をねじ伏せているわけではない。
ただステータスの高さに戦いを任せているのではなく、動きも洗練されている。
動きに無駄が無くなってきている。
合宿の効果が出ていた。
文字通りカーキウルフ達は『指一本触れる』事すら出来ず、どんどんと数を減らしていた。
……ってか、数日前には万単位の敵を相手にして戦ったのだ。
カーキウルフ30頭くらい、どうって事ないんだろうな。
ちなみに、冒険者のナイフ(ATK +15)を携えて4倍した所でATKが76しか無い僕は、とりあえず避けては相手の首元を狙い、避けては相手の首元を狙い、の繰り返し。
自分でも危ういなって思うくらいの戦い方だった。
ヘタレ? それで結構。
僕はシン達学生とは違って非戦闘職なのだ。
馬車の上で司令塔でもやらせて欲しい所だね。
「……カーキウルフはもう居ないようですね」
「コッチも大丈夫だよー!」
「よし、終わったな!」
結局、3分も経たずしてカーキウルフは全滅。
そんな感じで馬車は守られた。
良かった良かった。
護衛依頼を受けて初の襲撃だったが、案外アッサリと終わってしまったな。
「容易く殲滅する事は予想の範疇なれど、此れ程までの早さとは……」
御者席からシーカントさんが声を掛けてくる。
「ステータスの面に於いて全く問題は無く、また技及び体の動きに於いても問題無し。此れ程の冒険者と出会うのは久方振り」
「だろ?」
「どうどう? 見直したー?」
「勿論。久し振りに良い旅となりそうな予感」
そう言われ、ちょっと照れるダンとコース。
僕も少し嬉しくなっちゃった。僕は褒めて伸びるタイプだからな。
あんな堅苦しいSPみたいな大男のシーカントさんだが、今は口元も少し上がり、口調もホンのちょっと柔らかかった。
多分彼も、心からそう思ってたんだろうな。
「ほら皆さん、急いでください! 馬車に乗りますよ!」
「えー、ちょっと待ってよシン!」
「今行くぜ!」
「おぅ」
いつの間にか馬車の上に戻っているシンが、僕達をそう言って急かす。
そんなシンの顔も、少し嬉しそうだった。
テイラーを出て初めての奇襲は何なく退け、馬車は再び街道をひた走っていた。
速達馬車だけあって、そのスピードは速い。
既に周囲に人の影は殆どなく、時々歩き旅でテイラーを目指す冒険者とすれ違うくらいだ。
「先程もお伝え致したが、荷物にMPポーションを積む際には、食料等の荷物に比べ魔物の襲撃が特に頻繁。群れの規模も巨大。それ故、MPポーションを運ぶ今回に於いて貴方々が護衛にお付き頂いた事、真に感謝」
「いやいや、これも私達の仕事ですから」
「僕達も、馬車に乗せてもらって助かってます」
荷台で風を受けつつ、そんな感じの話を交わす。
「いやぁ、久し振りに暴れたな!」
……いやお前、昨日狩りで散々暴れてたじゃんか。
ダンは一晩越したら『久し振り』になっちゃうのか?
「あんなたくさんのウルフに囲まれて楽しかったねー!」
色々と発言がおかしいよ、コース。
まるでカーキウルフ達と戯れていたかのような言いっぷりだ。
……コースにとっては蹂躙こそが楽しみなんだろうな、きっと。
「そうですね。良いストレス発散になりました」
……そうかい。シンは色々溜まってんのな。
こーんな感じの2人をいつも纏めてるんだから、まぁ苦労人なんだろうな。
あと、シンはこのスピードの馬車でも普通に目を開けて乗れるようになっている。
まだちょっと怖がっている所はあるようだけど、このスピードにも慣れてきたようだ。
人間とは、慣れる生き物だからな。
良かった良かった。そのまま、馬車旅を楽しめるようになるといいね。




