1-11. 出発
目が覚めた。
今朝の予定は、昨日と同じように食べ、部屋に戻って荷物を纏め、王城の正面玄関に集合とのこと。
昨晩の2人のお陰もあってか今朝の朝食は少し味覚は戻っていた。量も3分の2程度は食べられるようになった。
そして、今食堂から部屋に戻ってきた所である。
纏める荷物と言っても持ち物は数学の参考書しかないが。
これが目に入ると、昨日の謁見の件が頭に蘇る。
重要物とはいえ、触るのもためらいたくなる。
「行く場所も、頼る相手もいない……」
再び絶望感と憂鬱感に苛まれ、そう無意識に呟く。
……っと、そうだった。準備が終わり次第、王城一階の正面玄関に集合なのを忘れていた。
気を抜くとすぐに思考がネガティブになってしまい、何もしたくなくなってしまう。気をつけねば。
とはいえ、やはり昨晩のアキと可合のおかげか、幾分か身体は昨日よりは軽かった。
王城一階の正面玄関へと向かうと、同級生は大体集まっていた。
良かった。今回は遅刻ではなかった。
そう思いつつ全員集合するのを待っていると、最後に到着したのはまさかのアキだった。
「済まねぇ、荷造りしてたら遅くなっちまった」
あぁ、こいつ重要物のキャリーケースに中身パンパンで来たからな。他の奴らは手荷物一つだけだからな。
「では、勇者様方が揃われましたね。これより、支度金の金貨一枚、それと革のリュックをお渡しします」
王女様がそういうと、後ろでリュックと金貨を持つ使用人達がこちらに渡しに来る。
ほぅ、リュックも貰えるのか。
これは聞いていなかったが、確かにあると助かる。
ずっと参考書を手に持ってるのもキツいし。
「こちらが金貨とリュックです。それと、数原様には国王様よりこちら、入城許可証をお預かりしております。王城図書館をご利用の際は、衛兵にこれをお見せ下さい」
「あ、ありがとうございます」
使用人の一人から荷物を受け取る。
金貨とリュックに加えて、僕だけ王城図書館に出入りするために許可証が貰えるようだな。
「この国の通貨には、銅貨・銀貨・金貨があります。銅貨が100枚で銀貨、銀貨が100枚で金貨となります。
金貨100枚以降は、基本的には紙に金額が書かれた約束手形を使います」
リュックと金貨を手渡しながら、王女様がお金についてそう教えてくれた。
街に出たら、金貨にどれくらいの価値があるかを確認せねば。
やがて、皆にリュックと金貨が行き渡った。
「それでは皆様、どうかお気をつけていってらっしゃいませ。皆様のご活躍をお祈りしております」
そういって王女様と使用人達が頭を下げる。
ギイイィィィィッ
それと共に、音をたてて王城の門も開いた。
門からは朝日がこちらに向かって差し込む。
皆が外へと歩き出す。
新たな世界へと旅立つようなワクワク感に、思わず気分が高揚する。
僕も皆に続いて光溢れる城外へと出発した。
門を出ると、そこは大きな噴水のある広場だった。
部屋の窓から眺めた石畳の道、広場の外周にはオレンジ色の屋根と石造りの建物が並ぶ。
幾つもの大通りがここを起点に出ており、朝から沢山の人が働いている。
この景色を見て、僕の憂鬱感は完全に吹っ飛んだ。
どうやら、ここで所属先によって出発する方向が変わるようだ。同級生どうしで、軽く会話を交わし、手を振って別れる姿が見える。
「じゃあな、計介。頑張れよ」
「おぅ。アキもな」
そう言ってアキは産業人のグループへと走って行った。
他の同級生も、所属先ごとに分かれて城を出て行く。
金澤の姿が見えないが、所属先が王国議会なのできっと城に残るのだろう。
さてと。
召喚されて3日目、既に色々あって詰んではいるが、なんとかなるだろ。
現在の服装は部屋着。
重要物は数学の参考書。
職は数学者。
目的は魔王の討伐。
準備は整った。さぁ、出発しますか!
 




