9-15. 発車
「お、おはようございます。護衛を依頼された方でしょうか?」
恐怖からか、無意識に声が震える。
「左様。依頼番号『テイラー・379-254-107』、『ディバイズ商会』のシーカントと申す。貴方々が護衛をして頂く冒険者の方か?」
シーカント、と名乗るグラサン男が凄く低い声でそう言う。
見た目は怖いが、『ディバイズ商会』ってのは依頼票に書いてあった名前と一緒だ。
「はい。よ、よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします」」」
「…………」
黙ったまま僕達をサングラス越しにジッと見るグラサン男、シーカントさん。
……怖い。
「……どうかしました?」
「手前の護衛を受けた冒険者がこんな子供達だとは、と思い」
……何!?
いきなり失礼な!
「ど、どういうことー!?」
「ちょっ、コース落ち着け」
シーカントさんの突然の発言にコースが怒るが、ダンが止める。
「歩き旅が嫌で此の依頼を受けた事は分かっている。手前が依頼する『速達の護衛依頼』では、引き受ける冒険者は毎度こういう使えない者ばかりである故に」
「……っ」
……図星。
駄目だ、僕からは言い返せない。
「馬車に乗って王都に行きたいってのはホントだけど、私たちは『使える』冒険者だよーっ!!」
「コース、駄目です! 魔法の杖をしまって!」
後ろで、暴れるコースをダンとシンが押さえる。
……お前も『馬車で戻りたい』ってのは認めるんかい。
「まあ構わぬ。結局手前が魔物なり盗賊なりの相手をすることになるのは承知済。依頼開始のサインをしてやるので、依頼票を」
「ハ、ハイッ」
そんな事も気にせず、シーカントさんは僕にそう言う。
ちょっと声がひっくり返りながらも、依頼票をシーカントさんに渡す。
「……依頼票の依頼番号は此の依頼人控えと一致。封緘印も一致。ほぅ、偽物の依頼票では無いか。更に『人選は良好』、と……」
そう呟きつつ、依頼開始の欄にサインをする。
が、呟きを聞く限り、まるで僕達がニセモノの冒険者だと言わんばかりの発言。
なんだよコイツ、僕達の事を疑ってんのか?
「依頼票だ。サインしてやった」
「あ、ありがとうございま――――
「だが、手前の眼からは、ギルド職員が貴方々を『人選良好』とする理由が分からない。ギルド職員を買収でもしたのか? 子供の可愛さを用いて熟女職員にサービスでもして貰ったか?」
……シーカントさんは僕達どころか、ギルドの職員さえ疑い始めた。
依頼票を見ても尚、僕らを認めないようだ。
なんでだよ。僕らの見た目が若すぎるからか?
「ムキーーーーッ! 先生、私たちの本当の強さを見せてあげてよーーーーーッ!」
「ほう、貴方々は実力で『人選良好』を掴み取ったと仰るか」
「そうだよー! なんなら、今ココで先生が見せてくれるもん!」
怒りに狂うコースがそう言う。
「そうであるか。ではその『強さ』、今此処で手前にお見せ頂こう」
シーカントさんも『気を付け』の姿勢のままそう返す。
「先生、頼んだ! このままじゃコースの暴走が止まんねえ!」
「シーカントさんに私達を認めてもらうためにも、お願いします!」
シンとダンからも、後ろからそう言われる。
……そうだな。このままじゃ埒が明かないし、今ココで見せてやるか。
「分かった。シン、ダン、コース」
そう言い、恐怖心を抑えてシーカントさんに正対する。
「シーカントさん、お見せしましょう。ギルド職員さんも認めてくれた、僕達の強さを!」
「「「【状態確認】!」」」
「【解析】!」
シーカントさんの前に、同時に4枚の青透明な板が現れる。
「ステータスプレートか。……このレベルでは至って年相応。此れの何処に『人選良好』の要素があるか全く理解できな――――
「舐めんな」
シンとダンと僕自身に『【乗法術Ⅲ】・ATK4、DEF4』、コースに同じく『DEF4、INT4』を掛ける。
「むっ、ステータスが……」
ステータスの数字がノイズに包まれ、一瞬驚くシーカントさん。
そして、数瞬の後。
「…………値が、上昇……。 されどステータス強化に於いてこの上昇率……」
シーカントさんは目を見開いてそう呟いた。
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.5
職:数学者 状態:普通
HP 51/51
MP 12/45
ATK 34
DEF 56
INT 19
MND 18
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化I】
【演算魔法】
===========
===Status========
シン・セイグェン 15歳 男 Lv.8
職:剣術戦士 状態:普通
HP 63/63
MP 37/38
ATK 112
DEF 108
INT 12
MND 13
===Skill========
【長剣術】【胆力Ⅱ】
=============
===Status========
コース・ヨーグェン 15歳 女 Lv.8
職:水系統魔術師 状態:興奮
HP 37/37
MP 69/70
ATK 11
DEF 64
INT 120
MND 26
===Skill========
【水系統魔法】【MP消費軽減Ⅰ】
=============
===Status========
ダン・セーセッツ 15歳 男 Lv.8
職:盾術戦士 状態:普通
HP 86/86
MP 28/28
ATK 76
DEF 148
INT 8
MND 14
===Skill========
【大盾術】【守護Ⅲ】
=============
……うぉぅ。
久し振りに加算した後のステータスを見たが、凄いことになってる。
3人とも100超えのステータスが目立っているな。
「……3桁のステータスは、熟練の冒険者と最高級のステータス強化を以って漸くの領域。一体如何やって……」
シーカントさんはステータスプレートを眺めたまま硬直。
「私たちの強さ、どうよー!」
「私達はしっかり護衛を務めるつもりですよ」
「シーカントさん。俺らの強さ、認めてくれるか?」
「…………」
3人がそう言うと、シーカントさんは目を瞑る。
そのまま、ゆっくりと顔を上げて目を開いた。
「……貴方々の実力、確と見た。それほどの力を持つ者ならば、私であれど油断ならぬ。認めよう、貴方々の『実力』を」
「先程は無礼を働き、失礼致した。お許し願いたい」
「もぅっ、分かってくれれば良いのー!」
腕を組んでコースがそう言う。
「改めて自己紹介致そう。手前、『ディバイズ商会』に勤めるシーカントと申す。急遽必要になったMPポーションを王都の商会本店まで速達で運搬するにあたり、依頼を申し込んだ。護衛、宜しく頼む」
サングラスをチャキっと掛け直し、スーツの襟を正してシーカントさんがそう言う。
思ったんだけど、この大男なら護衛無しでも問題ないんじゃないかな?
……まぁ、そんな事は置いといて。
「それじゃあ、コチラからも自己紹介しようか」
「それでは私から。シン・セイグェンです。職は剣術戦士です。よろしくお願いします」
「次は私ー! コース・ヨーグェンっていいます! 水系統魔術師です! よろしくね!」
「それじゃあ、俺だな。ダン・セーセッツ、盾術戦士だ。宜しくな」
「最後に僕、数原計介です。ケースケとでも呼んでください。職は一応数学者やらせてもらってます。どうぞ宜しく」
シーカントさんは順々に僕達と目を合わせていく。
「シン様、コース様、ダン様、そしてケースケ様か。承知」
そしてお互いに握手を交わす。
なんだ。見た目はヤクザだのSPだの物騒な感じだが、結構優しいじゃんか。
「では、王都に向けて出発致そう。様々な話は後程、貴方々は馬車の後部、空けておいた部分に着席願いたい」
「はい!」
「うん!」
「ああ!」
「おぅ!」
シーカントさんに言われた通り、馬車の後ろ側に回り込んで乗り込む。
馬車に幌も座席も無く、ただ床板を壁で囲っただけの『荷台』と言った感じだ。
荷台の前側には『MPポーション』と書かれた箱が積まれており、後ろ側には僕達の乗るスペースが用意されている。
依頼票にもあった通りスペースは丁度5人分くらいなので、その分少しゆったりと座れる。
「おぉ、馬車……初めて乗ります!」
「ワクワクだねー!」
「どのくらい速いんだろうか……」
僕もドキドキしてきた。
まるで軽トラの荷台に乗っているかのような気持ちだ。
そんな事、日本じゃ出来なかったからな。
「シン様、コース様、ダン様、ケースケ様、準備は如何か?」
その間に、御者席に乗り込んだシーカントさんが前から声を掛けてきた。
「「「「大丈夫です!」」」」
「承知。では、発車致す!」
そう言って、シーカントさんは手綱を取った。
さてと。
無事合宿も終わり、行くアテも無い僕達の次なる目的地は『港町・フーリエ』に決まった。王都までの道のりでは初めての護衛依頼を受ける事にしたのだが、まぁ、なんとかなるだろ。
現在の服装は麻の服に血のシミが取れない白衣。
重要物は数学の参考書。
職は数学者。
目的は魔王の討伐。
準備は整った。さぁ、護衛依頼こなして王都に戻りますか!




