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9-11. 勿体無

白のタンクトップを着たイカツい顔のギルド職員、マッチョ兄さん(テイラー)の居るカウンターへと向かう。


「久し振りだな、白衣の数学者さんよ。こんな朝っぱらからご苦労さんだな」

「どうも、お久し振りです」

「連れの3人も皆元気そうでなによ……おっ、嬢ちゃん眠いか?」


マッチョ兄さんの言葉につられ、後ろを振り向くと。


「ふわああぁぁぁぁ…………」


コース、大欠伸。


「……あっ、大丈夫だよ! 起きてる起きてる!」

「…………だそうなので、3人とも元気です」

「そうか、そりゃ良かった。ちなみに数学者さん、今王都じゃ『アイツは何処だ!?』って捜索対象になってるらしいぞ。ちょっとした騒ぎになってるとか。いとこ曰く」


……ゲゲッ。

マジかい。コレは王都に戻って面倒な事になりそうな予感が……。


「しかも何だよその格好。モロ血に塗れし狂科学者ブラッディ・マッドサイエンティストじゃねえか! 聞いた通りだ! ハーッハッハッハ!」


マッチョ兄さんが、血痕の残った僕の白衣(ロングコート)を見て大爆笑。

……その渾名(あだな)って、おい。

マッチョ兄さん(テイラー)でさえ既に知ってるって事は、もう王都では広く知れ渡っているかもしれない。


えぇ、王都に戻ってそんな風に呼ばれるのとか嫌だよ!

呼ばれるコッチが恥ずかしいわ!






まぁ、それは置いといて。

早速、本題に入る。


「そんじゃあ、依頼票を渡してくれ。全員、ステータスプレートをコレ(青水晶)にかざすように」

「はい」


僕が依頼票を渡し、4人でステータスプレートを開いて青水晶にかざす。



「…………うーん……」


マッチョ兄さんは青水晶と依頼票を何度も見比べ、悩んだような顔をする。

何だろう? どっか引っ掛かってるのかな?

条件は全部オッケーなはずなんだけど。


「何かありました?」

「んんー……ステータスを見る限り、お前らにこの依頼を()()()()()()心配でな」

「と言いますと?」

「この依頼票には『人選はギルドに委任』ってあるだろ? お前らが護衛依頼に相応しい力・経験を持っているか、俺が判断しなくちゃいけないんだが……」


あぁ……。

確かにそう書いてあった。

Lv制限の条件は無かったけど、代わりにそんな事があるのか。


「お前らは若いし、ステータスも低い。コレだとちょっと危ないんじゃないの?」



……ほぉ。ステータスが低い、ね。


「じゃあ、ステータスがもう少し高ければGOサインを出してくれるって事ですか?」

「勿論。だが、只のステータス強化くらいじゃダメだ。それこそ、この倍くらいのステータスが有れば————

【乗法術Ⅲ】(マルチプリケーション)・ATK4、DEF4! ……コレで如何ですか?」


とりあえず、僕自身のATKとDEFをそれぞれ4倍してみた。

マッチョ兄さんが水晶を覗き込んで、僕のステータスを確認する。



「……うわっ、何だコレ!?」


目を見開いて驚くマッチョ兄さん。


「お前、今の魔法って……ステータス強化魔法か?」

「はい、そうです。ATKとINTにチョチョっと」

「ステータスを4倍で『チョチョっと』ね……全力出して1.5倍の強化魔術師が泣くわ、こりゃ」


驚きと呆れを同時に体験しているかのような表情のマッチョ兄さん。


「だが、聞いた通りだな。お前について従兄弟が『謎に強いステータス強化魔法を使う』とは言っていたけど、コレほど謎スペックな魔法とは思わんかったわ」


おいおい。

謎スペックな魔法とか言ってくれるな。

……まぁ、否定はしないけど。



「まぁ、ちなみに、僕のこのステータスならどうですか?」

「全く問題無い。むしろこれほどのステータス強化が出来て、こんな低報酬の依頼で良いの?」

「大丈夫です」


まぁとにかく、マッチョ兄さんからのお墨付きゲット!

そんじゃあ、機嫌が良いので学生3人にもステータス加算してあげよっと。


「それじゃあ……【乗法術Ⅲ】(マルチプリケーション)・ATK4、DEF4! 同様に(マルチプリケーション)・INT4、DEF4! 同様に(マルチプリケーション)・ATK4、DEF4!」

「あっ……この感覚は!」

「先生、私たちにも掛けてくれたー!」

「この力が漲る感じ……やっぱり先生のステータス強化は良いなぁ!」


ステータス加算の魔法を感じ取ったのか、3人もピクッと動く。



「…………あらら。もう4人揃ってステータスお化けだわ、こりゃ」


青結晶を覗くマッチョ兄さんも完全に呆れ顔だ。


いやまぁ、僕のステータスは所詮4倍したところでタカが知れてるけどさ。

きっとシン達のステータスはマジで『お化け』並になってるんだろう。

どんな風になってるんだろうか。

後で見せてもらおっと。



「そんな馬鹿みてえなステータス強化魔法を持ってるんなら、報酬金貨10枚の依頼でも余裕なのにな。ホント勿体無えよ」

「まぁ、そこは色々あるので」

「……そうだな。まあ、安い依頼は遠慮されて残りがちだからな。受けてくれるんなら俺らとしても有難いわ。そんじゃあ、人選は『良好』って事で、受理しとくぞ」


そう言うと、マッチョ兄さんは備考に『人選良好』と書き、ハンコを依頼票にポンと押す。

赤字で丸の中に『引受確認 テイラー 2』と書かれたハンコだ。


「はいじゃあコレ、無くさないように」

「分かりました」


ハンコが押された依頼票を受け取る。


「護衛依頼が始まった時と無事終わった時には、依頼人からサイン貰うように。その後、王都のテイラーに提出すれば報酬が出るからな」

「はい」

「あとはーっと……あ、そうだ。明日朝の8時、テイラーの東門で依頼人と集合だ。遅れないようにな。そんじゃ、宜しく!」

「「「「はい!」」」」



そんな感じで、僕達の初依頼が決まった。

依頼のスタートは明朝8時。


さあ、頑張っていきますか!











ギルドの建物を出て、テイラーの大通りを歩く。

明朝まで特にやる事は無いので、朝から4人でノンビリお散歩だ。


「フーッ……あー、気持ちいいなー」


現在時刻は朝7時15分。

陽は完全に昇り、光を浴びるとポカポカする。

街に吹く風は、草原から朝露の湿気を運んでくる。


大通りには人が現れ始め、時折馬車も走るようになった。

左右を見渡すと、煙突からは煙が上がっている。

建物の窓からは、美味しそうな匂いが漂ってくる。

通りの左右に並ぶ店では、開店へと準備が進んでいる。



そんな風景を眺めつつのお散歩。

いやー、こんなに朝から気持ちいい日なんてあったっけ。


少なくとも、日本の首都圏では中々味わえないな。



「清々しいですね」

「風が心地いいぜ」

「あぁ、本当だな」


シンとダンとそんな言葉を交わし、暫しゆっくりと朝の散歩を楽しむ。



「ねーねー、今日何する?」


が、そんな雰囲気なんてお構い無しのコース。

今日もマイペースだ。



「そうだな、どうしよっか」


僕は何でも良い。

別に明日の朝まで部屋でノンビリでも構わないし。


「そうですね……テイラーでやり残した事と言えば……」

「観光名所は『風車』も『牧場』も見たしな」

「買いたいモノも昨日買ったよー」

「食いたいモンも食べ物も昨日で一通り回ったぞ」


僕は観光。

コースは買い物。

ダンは食べ物。

全員やりたい事は済ませたようだ。


「先生もコースもダンも、やり残しは無いようですね」

「「「無し!」」」



えー、そんじゃあ今日は何にしようか。

もういっそ今日もフリーにしちゃって————


「ねーねーシン、シンは何かやり残した事とか、やりたい事無いのー?」

「え、私ですか?」


あぁ、そうだ。

シンのやり残した事、聞いてなかったな。



「そうですねー……。『やり残した事』は無いですが、明日からの護衛に備えて『狩り』をしたいです」


……あらま。

本当にシンは真面目でストイックな子だ。


「覚えたての【強突Ⅰ】(ストロング・スラスト)も、もっと練習しておきたいですし」

「そうだねー! じゃあ狩りに行こうよ!」

「そうだな。少し身体も鈍ってた所だし、準備体操と行くか!」


コースとダンも乗り気だ。

そんなら、じゃあ僕も便乗しよう。

やる事ないし、特に断る理由も無いしな。


それに、昨日の勉強の時に思いついた『あの技』をちょっと試したいし。



「3人ともやる気だな。そんじゃ、適当にテイラーの周りで狩りするか」

「「「はい!」」」

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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