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9-10. 依頼

※11/8

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翌朝。

午前6時半。


通りを歩く人もまだマバラである早朝。

陽はまだ昇ったばかりで、草原から流れてくる風は冷たい。

まだ街は静寂の中にあり、チュンチュンという雀のさえずりが良い背景音になる。


そんなテイラーの街中を歩く4人の人影。


「よっしゃ、依頼探しだ!」

「ふわぁー……先生、起きるの早いよー……」

「あぁコース、ちゃんと前を見て歩いて下さい」

「うぅん……目が開かないぃ……」



勿論、僕達だ。

歩き旅をしないで済むかもしれないというドキドキで、今朝は早々に目覚めてしまったのだ。

キュースー荘を出て、ギルドのテイラー支部に向かって大通りを歩いている。



「眠いよぉぉぉ……ダン……」

「駄目だ。起きろコース!」

「んん…………」


……のだが、コースだけは寝ながら歩いていた。

まだイマイチ目が覚めていないご様子だ。



「んんん………………むにゃ」

「おっとっと……危ねぇぞコース。起きろ!」


前のめりになるコースを支えるダン。

全く目覚める気配が無い。



「……これはダメですね」

「何をしても起きないな」

「ああ。()()()()()()()()()()()()、こうなったらもう……」

「「「……」」」


シンと僕、ダンが目配せ。



「よしダン、【硬叩Ⅳ】(ハード・バッシュ)でコースの目を覚ましてやれ!」

「お願いします、ダン!」

「おぅ、絶対起こしてやるぜ!」


そしてダンが背中から大盾を取り出す()()()()()


「よし行くぞコース!」

「んんっ……?」

「歯ぁ食いしばれよ!」

「……えっ?! エエェッ!?」

硬叩(ハード・バ)————

「先生おはよー! 起きたよ起きたよ!」


一瞬でコースが目覚める。


「おぅ、おはようコース。目覚めたか?」

「うん! もうバッチリ!」

「よろしい」


よし、コースもお目々パッチリになっただし、ギルドに向かおう。






大通りにも陽が差して来た頃。


「あ、あそこですね」

「ココのギルドも久し振りだな」


テイラーの冒険者ギルドが見えて来た。

()()巨大な建物だ。



「よっしゃ、探すぞ! 待っててくれよ依頼!」

「あ、先生! 私も探すー!」

「俺も行くぞ!」

「ちょちょっ、待って下さーい!」


もうドキドキを抑えきれない。

僕の足はほぼ無意識にギルドへと走っていってしまった。



その勢いのまま、ギルドの建物に進入。


「よし、まだ人も少ないな。これなら……」


テイラーのギルドはとても広く、それこそ『アリーナ』というくらいの広さだ。

だが、ギルドの中にはまだ数える程しか冒険者が居ない。

全部で40程あるカウンターも、人が座っているのは7箇所くらいだ。


「依頼票ならあそこだ、先生」


後ろからついて来たダンが、ギルドの中央を指差す。

その先を見れば、大きなコルクの掲示板。

その上にビッシリと紙が張ってある。


「おっ、本当だ。行くぞ!」

「「おう(はーい)!」」






「えーと、ココが『護衛』関連だな」

「この中から俺らの条件に合った依頼を見つけて、依頼票をカウンターに持って行きゃ良いんだ」

「ふーん、成程な」


そういえば僕、ギルドで『依頼』を受けたこと無かったな。

ギルドには魔物の買取ばっかりでお世話になっていたし。



「えーっと……それじゃあ……」


ビッシリと掲示板に張られた依頼票とニラメッコ。


「せんせーい。その辺には、たぶん良い依頼ないと思うよー」

「え、マジ?」

「その辺には、行先がテイラーより西の護衛依頼しか無えぞ」


依頼票をよーく見る。

…………知らない地名ばっかりだ。しかも町とか村しかない。

王都はともかく、街すら見当たらない。


「うわ、本当だ……」

「王都方面はこっちです」

「おぅ」


いつの間にか追いついていたシンに呼ばれ、3人の方に移る。



「おっ、ココは行き先が王都ばっかりだな」

「王都行きの依頼票が纏められてますからね」


しかも枚数もこっちの方が多いし。



「では先生、僕達が選ぶ『護衛の条件』について説明しますね…………」






ここで、シンに護衛依頼の条件について教えてもらった。



商人などの非戦闘職の人が街から街へと移動する時には、冒険者に護衛を依頼するのが一般だ。

幌馬車に一杯の荷物を積み込み、依頼人は御者として馬を操る。

その周りを護衛が囲って歩き、ゆっくりと目的地に向かって行くのが普通らしい。



「って、結局護衛は歩きなの!? 馬車に乗れるんじゃなかったのか!?」

「いえいえ、話には続きがありますから」

「……そうか」



で、商人が護衛依頼を出す時には依頼を引き受ける冒険者に『条件』を付けることが出来る。

必須事項である『報酬』にも違いは出るし、依頼によっては『必要Lv.○』とか『○人以上』とか、『護衛経験回数』とかだ。『(ジョブ)』に制限を付ける事もある。


だが、全てが制限を掛けるものではない。

『食事は依頼者持ち』とか、『Lv.○以上は報酬1.5倍』とか、冒険者側に有利な条件もあるのだ。

依頼人が宿を営んでいる時には、『目的地で○泊の宿泊保証』とかも結構あるようだ。


で、今回僕達が狙っているのは『護衛用の座席有り』ってやつ。

急ぎで荷物を運ばなきゃいけない時や、悪くなりやすい生物(ナマモノ)を運ぶ時によく使われる条件だ。

馬車にはあえてパンパンには荷物を積み込まず、その分護衛の乗るスペースを作るっていう方法らしい。

そうすれば、『護衛を付ける』事と『荷物を速達する』事を両立出来る。


但し、馬車に席を作る代わりに報酬は低いようだけどね。



「…………とまあ、依頼についてはそんな感じです」

「オッケー、分かった。そんじゃ、『護衛用の座席有り』って書いてある奴を探せば良いのな」

「はい。あと、人数は『4人以上』でお願いしますね」

「あぁ、そうだったな」


それ大事だ。

忘れちゃいけないやつだな。






「おっ、あったあった」


掲示板とニラメッコする事5分、ついに良い条件の依頼票を発見。

いやー、意外と見つけるの大変だったな。

『座席あり』の依頼はそこそこ有るんだけど、人数指定が大抵2人か3人なんだよね。


「本当ですか!?」

「ちょっと見せてくれよ」

「私にもー!」

「おぅ」


依頼票の画鋲を外し、シンに渡す。

3人がシンの手元を覗き込む。


「ふむふむ……良いですね。条件に問題有りません」

「報酬はショボいけどねー!」

「よく見つけられたな、先生」


3人とも異論は無いようで。

この依頼で良いようだな。


……というか、これ以外に条件の合った依頼が無いので、拒否されると困る。



「じゃあ、その依頼票を依頼のカウンターに出しに行けば良いんだな?」

「はい。よろしくお願いします」

「分かった」


シンから依頼票を受け取る。

ちなみに、その依頼票にはこう書いてある。



---依頼票--------

依頼番号:379-254-107

依頼内容:護衛(テイラー〜王都)

依頼者 :ディバイズ商会

報酬  :金貨3枚

条件  :速達

     護衛用の座席あり(5人)

     人選はギルドに委任

備考  :明朝8時、テイラー東門を出発

-----------



シン曰く、護衛依頼の報酬は1人あたり金貨1枚半〜2枚が相場のようだ。

なので、4人で金貨3枚はかなり安い方らしい。


で、気になった『速達』の文字。

これは、『王都まで10日のところを4日で行きます』って意味らしい。

決して日本の郵便みたいに『1日で目的地まで行きます』みたいな無謀はしないので大丈夫だ。



ところで、備考欄の『人選はギルドに委任』ってのはなんだろう?

何かの条件なのかな?


……まぁいいや。



「よし。えーとじゃあ、依頼のカウンターは……」

「あそこですね」

「オッケー」


シンが指差す。

その先には。


「はいこんにちは〜」


タンクトップのムキムキ男職員、マッチョ兄さん(テイラー)が座っていた。

こっちを見て手を振っている。



「先生、ギルドに行くとゼッタイ会うよねー……」

「……相変わらず先生の『マッチョ兄さんの呪い』は健在だったか」

「……僕自身もビックリだよ」

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
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皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
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