9-10. 依頼
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翌朝。
午前6時半。
通りを歩く人もまだマバラである早朝。
陽はまだ昇ったばかりで、草原から流れてくる風は冷たい。
まだ街は静寂の中にあり、チュンチュンという雀のさえずりが良い背景音になる。
そんなテイラーの街中を歩く4人の人影。
「よっしゃ、依頼探しだ!」
「ふわぁー……先生、起きるの早いよー……」
「あぁコース、ちゃんと前を見て歩いて下さい」
「うぅん……目が開かないぃ……」
勿論、僕達だ。
歩き旅をしないで済むかもしれないというドキドキで、今朝は早々に目覚めてしまったのだ。
キュースー荘を出て、ギルドのテイラー支部に向かって大通りを歩いている。
「眠いよぉぉぉ……ダン……」
「駄目だ。起きろコース!」
「んん…………」
……のだが、コースだけは寝ながら歩いていた。
まだイマイチ目が覚めていないご様子だ。
「んんん………………むにゃ」
「おっとっと……危ねぇぞコース。起きろ!」
前のめりになるコースを支えるダン。
全く目覚める気配が無い。
「……これはダメですね」
「何をしても起きないな」
「ああ。何をしても起きねえんじゃ、こうなったらもう……」
「「「……」」」
シンと僕、ダンが目配せ。
「よしダン、【硬叩Ⅳ】でコースの目を覚ましてやれ!」
「お願いします、ダン!」
「おぅ、絶対起こしてやるぜ!」
そしてダンが背中から大盾を取り出すフリをする。
「よし行くぞコース!」
「んんっ……?」
「歯ぁ食いしばれよ!」
「……えっ?! エエェッ!?」
「硬叩————
「先生おはよー! 起きたよ起きたよ!」
一瞬でコースが目覚める。
「おぅ、おはようコース。目覚めたか?」
「うん! もうバッチリ!」
「よろしい」
よし、コースもお目々パッチリになっただし、ギルドに向かおう。
大通りにも陽が差して来た頃。
「あ、あそこですね」
「ココのギルドも久し振りだな」
テイラーの冒険者ギルドが見えて来た。
横に巨大な建物だ。
「よっしゃ、探すぞ! 待っててくれよ依頼!」
「あ、先生! 私も探すー!」
「俺も行くぞ!」
「ちょちょっ、待って下さーい!」
もうドキドキを抑えきれない。
僕の足はほぼ無意識にギルドへと走っていってしまった。
その勢いのまま、ギルドの建物に進入。
「よし、まだ人も少ないな。これなら……」
テイラーのギルドはとても広く、それこそ『アリーナ』というくらいの広さだ。
だが、ギルドの中にはまだ数える程しか冒険者が居ない。
全部で40程あるカウンターも、人が座っているのは7箇所くらいだ。
「依頼票ならあそこだ、先生」
後ろからついて来たダンが、ギルドの中央を指差す。
その先を見れば、大きなコルクの掲示板。
その上にビッシリと紙が張ってある。
「おっ、本当だ。行くぞ!」
「「おう!」」
「えーと、ココが『護衛』関連だな」
「この中から俺らの条件に合った依頼を見つけて、依頼票をカウンターに持って行きゃ良いんだ」
「ふーん、成程な」
そういえば僕、ギルドで『依頼』を受けたこと無かったな。
ギルドには魔物の買取ばっかりでお世話になっていたし。
「えーっと……それじゃあ……」
ビッシリと掲示板に張られた依頼票とニラメッコ。
「せんせーい。その辺には、たぶん良い依頼ないと思うよー」
「え、マジ?」
「その辺には、行先がテイラーより西の護衛依頼しか無えぞ」
依頼票をよーく見る。
…………知らない地名ばっかりだ。しかも町とか村しかない。
王都はともかく、街すら見当たらない。
「うわ、本当だ……」
「王都方面はこっちです」
「おぅ」
いつの間にか追いついていたシンに呼ばれ、3人の方に移る。
「おっ、ココは行き先が王都ばっかりだな」
「王都行きの依頼票が纏められてますからね」
しかも枚数もこっちの方が多いし。
「では先生、僕達が選ぶ『護衛の条件』について説明しますね…………」
ここで、シンに護衛依頼の条件について教えてもらった。
商人などの非戦闘職の人が街から街へと移動する時には、冒険者に護衛を依頼するのが一般だ。
幌馬車に一杯の荷物を積み込み、依頼人は御者として馬を操る。
その周りを護衛が囲って歩き、ゆっくりと目的地に向かって行くのが普通らしい。
「って、結局護衛は歩きなの!? 馬車に乗れるんじゃなかったのか!?」
「いえいえ、話には続きがありますから」
「……そうか」
で、商人が護衛依頼を出す時には依頼を引き受ける冒険者に『条件』を付けることが出来る。
必須事項である『報酬』にも違いは出るし、依頼によっては『必要Lv.○』とか『○人以上』とか、『護衛経験回数』とかだ。『職』に制限を付ける事もある。
だが、全てが制限を掛けるものではない。
『食事は依頼者持ち』とか、『Lv.○以上は報酬1.5倍』とか、冒険者側に有利な条件もあるのだ。
依頼人が宿を営んでいる時には、『目的地で○泊の宿泊保証』とかも結構あるようだ。
で、今回僕達が狙っているのは『護衛用の座席有り』ってやつ。
急ぎで荷物を運ばなきゃいけない時や、悪くなりやすい生物を運ぶ時によく使われる条件だ。
馬車にはあえてパンパンには荷物を積み込まず、その分護衛の乗るスペースを作るっていう方法らしい。
そうすれば、『護衛を付ける』事と『荷物を速達する』事を両立出来る。
但し、馬車に席を作る代わりに報酬は低いようだけどね。
「…………とまあ、依頼についてはそんな感じです」
「オッケー、分かった。そんじゃ、『護衛用の座席有り』って書いてある奴を探せば良いのな」
「はい。あと、人数は『4人以上』でお願いしますね」
「あぁ、そうだったな」
それ大事だ。
忘れちゃいけないやつだな。
「おっ、あったあった」
掲示板とニラメッコする事5分、ついに良い条件の依頼票を発見。
いやー、意外と見つけるの大変だったな。
『座席あり』の依頼はそこそこ有るんだけど、人数指定が大抵2人か3人なんだよね。
「本当ですか!?」
「ちょっと見せてくれよ」
「私にもー!」
「おぅ」
依頼票の画鋲を外し、シンに渡す。
3人がシンの手元を覗き込む。
「ふむふむ……良いですね。条件に問題有りません」
「報酬はショボいけどねー!」
「よく見つけられたな、先生」
3人とも異論は無いようで。
この依頼で良いようだな。
……というか、これ以外に条件の合った依頼が無いので、拒否されると困る。
「じゃあ、その依頼票を依頼のカウンターに出しに行けば良いんだな?」
「はい。よろしくお願いします」
「分かった」
シンから依頼票を受け取る。
ちなみに、その依頼票にはこう書いてある。
---依頼票--------
依頼番号:379-254-107
依頼内容:護衛(テイラー〜王都)
依頼者 :ディバイズ商会
報酬 :金貨3枚
条件 :速達
護衛用の座席あり(5人)
人選はギルドに委任
備考 :明朝8時、テイラー東門を出発
-----------
シン曰く、護衛依頼の報酬は1人あたり金貨1枚半〜2枚が相場のようだ。
なので、4人で金貨3枚はかなり安い方らしい。
で、気になった『速達』の文字。
これは、『王都まで10日のところを4日で行きます』って意味らしい。
決して日本の郵便みたいに『1日で目的地まで行きます』みたいな無謀はしないので大丈夫だ。
ところで、備考欄の『人選はギルドに委任』ってのはなんだろう?
何かの条件なのかな?
……まぁいいや。
「よし。えーとじゃあ、依頼のカウンターは……」
「あそこですね」
「オッケー」
シンが指差す。
その先には。
「はいこんにちは〜」
タンクトップのムキムキ男職員、マッチョ兄さん(テイラー)が座っていた。
こっちを見て手を振っている。
「先生、ギルドに行くとゼッタイ会うよねー……」
「……相変わらず先生の『マッチョ兄さんの呪い』は健在だったか」
「……僕自身もビックリだよ」




