9-2. 勧誘
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ルビが間違っていたので修正
まぁ、『血に塗れし狂科学者』とか呼ばれてるって新事実に驚きはあったものの、手の空いていた可合に手当てをしてもらう事になった。
可合は重要物の[救急箱]を取り出し、消毒液と【光系統魔法】の回復用魔法、【回復照射】を使って僕の傷口を治してくれている。
「(どう、効いてるかな?)」
柔らかい光を帯びた手を僕の傷口にかざす可合。
「(うん)」
「(そう、良かった! まだ回復魔法は使い慣れてないから心配だったんだけど……)」
可合は自信なさげにそう言うが、魔法を受ける側からすれば結構効いてるのが分かる。
傷口がメッチャクチャ痒いのだ。
傷口を今すぐにでも掻き回したいくらいだ。
「痒いのかぃ、小僧」
「(え……あ、はい。死ぬほど痒いです)」
そんな事を考えていると、コレレさんがそう聞いてくる。
なんで分かった!?
「ハハッ、だろうね。手がピクピクしているじゃないか」
……しまった。
気持ちが手に出ていたか。
「昔から云われている事だけど、良い回復魔法ほど良く痒いんだ。娘さんの質の良い回復を受けられる事、感謝するんだね、小僧」
「(……はい)」
へぇ。
そんな言い伝えみたいなのがあるんだな。
良薬口に苦し、的な感じかね。
「(本当によく効いてるよ。ありがとう、可合)」
「(いえいえ)」
まぁそんな感じで、皆が寝静まっている中、ちょっと嬉しい気持ちで回復して貰っていた。
その後もしばらく可合の【光系統魔法】による回復が続いたが、ある時。
「(……ちょっと休憩して良いかな。MPがそろそろ無くなってきたから)」
可合が回復を中断し、自分のリュックをゴソゴソ漁る。
「(あぁ、勿論。無理しないでね)」
「(フフッ。こんな傷を抱えておきながら、数原くんも優しいね。ありがとう)」
そう言って、MPポーションの蓋を開け、口をつける。
「あぁ、そういえば小僧」
「(はい、なんでしょう)」
可合の休憩中に、話を挟み込んでくるコレレさん。
「アンタ、さっき変わった魔法を使っていたね。あのステータス強化の。なんて言う魔法なんだい?」
あぁ、【乗法術Ⅱ】の事ね。
渋々コレレさんにもINTを3倍してやった奴だ。
「あぁ、アレは【演算魔法】です」
「【演算魔法】、かい……? 聞いたことないね。その魔法が馬鹿みたいなステータス強化用の魔法なのかい?」
『馬鹿みたいな』っておい。
まぁ確かに、普通のステータス強化魔法がせいぜい1.5倍行くかどうかだ。それに対し、初期レベでステータス2倍の【乗法術】。
……うん、こりゃ馬鹿だわ。否定しません。
「まぁ、そうですね。本来は魔力を使って足し算や掛け算、引き算、割り算をするっていう魔法です。ですが、オプションでステータスの数字をプラス30したり、3倍したりする事も出来ます」
【状態操作Ⅲ】万歳。
貴方のお陰で【演算魔法】はとても活躍しております。
「さ、3倍……!? やっぱり、あの数字は間違いじゃなかったんだね。アタシゃてっきりステータスプレートがいかれちまったのかと思ったよ」
まぁ、上昇率1.5倍に行くかどうかの世界で3倍にされちゃ、疑うわな。
……にしても、魔術師連合の会長・コレレさんでも【演算魔法】を知らないのか。
過去に【演算魔法】使いとか居なかったのかな?
「ところでアンタ、そういえば所属先は『ギルド』だけだったね」
「(はい、そうです)」
学者の職が集う『学会』は王国から無くなっちゃったからね。
「それなら、『魔術師連合』に入らないかい?」
「えっ……」
おぉぉ……
まさかの、”要注意人物”老魔女コレレからのお誘い。
あれだけ僕の事を酷く言ったり見捨てたりした癖に、突然妙に優しくなったな。
『ボロクソ言った詫びに仲間に入れてあげるから許して』的な感じか?
「アンタのステータス強化魔法があれば、今から入っても連合内で大活躍間違い無しだよ。それこそギルドの『依頼』でチマチマ稼ぐのの比にならないくらい、お金も沢山稼げるだろうね」
コレレさんの激しい勧誘攻撃は続く。
「ギルドに所属し続けて生死の危険を冒してでもお金を稼ぐのと、連合で大活躍して危険もなくガッポガッポ稼ぐ。アンタの……ナントカ魔法、ステータス強化があれば出来る。どうだい?」
……あぁ、成程ね。
物凄い勢いで勧誘する真意が分かった。
コレレさんはただ僕の『ステータス加算』だけが目的だ。
ギルドから僕を奪い取って連合で独占し、ステータス加算を自由に使おう、ってか。
連合に入って、ステータス加算係として扱き使われる僕が頭に浮かぶよ。
ってか、本当に連合に勧誘したいんなら【演算魔法】の名前くらい覚えろってんだ。ステータス加算にしか目が無いからそんな事になるんだよ。
はい。ちょっと熱くなっちゃったな。
落ち着いて、お断りのお返事をしよう。
「(お誘いは嬉しいですけど、お断りさせて頂きます)」
「……あらま、そうかい。良い話だとは思うんだけどね」
目に見えて機嫌が悪くなるコレレさん。
「(そ、そうですけど……まぁ、クラーサさんにも色々とお世話になっているので)」
「フンッ、あの女にか。まぁ、仕方ないね。だけど気が変わったらいつでもおいで。アタシ達ゃいつでも小僧を歓迎するよ」
「(はい、ありがとうございます)」
とりあえず無難に返しておく。
そして、コレレさんは転移魔術師さんの回復に戻った。
……フゥ。
僕自身でも酷いと思うくらいの作り笑いを浮かべたけど、なんとかこの場をやり過ごせたようだ。
この後も1時間くらい可合に回復をして貰った。
「(はい、数原くん。一応、激しく動かなければ血は出ないくらいまで回復したよ)」
「(うん……おぉ!)」
軽くウトウトしていた所に、可合から声を掛けられる。
30分ぶりに見た傷口は水っぽさが抜け、所々にカサブタが出来ていた。
まるで怪我した直後とは思えない。1日、2日経ったかのような感じだった。
「(歩く、登る、軽く走るくらいなら問題ないと思うよ)」
「(おぅ! ありがとう可合!)」
「(フフッ、どういたしまして!)」
痛みもだいぶ引いた。
コレはマジで助かったよ。
そんな感じで回復も一段落したので、1時間半ほど遅れて僕と可合もそれぞれテント、寝袋へ。
同級生達の跡を追って夢の世界へと旅立った。




