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8-14. 逃走

活動報告にてお知らせを載せました。


また、少しお休みを頂きたいと思います。

毎日拙作を楽しみにされている方には申し訳ありませんが、どうかご容赦ください。

光線指示(レーザー・ポイント)によってセットの腹に浮かび上がった、白い点。


そこに、矢野口が【精貫Ⅱ】(エグザクト・ショット)を使って放った矢が突き刺さった。



「グウァァッ……!」


未だに周囲は乱戦となっている中、セットの声が聞こえてくる。

セットは身体をくの字に曲げ、両手で弓の刺さった場所を押さえる。

矢は結構深々と刺さっているようだ。



「あ、(あた)った!」

「的中、ヤッターッ!」


驚きと喜びで思わず叫ぶ僕。

単純に喜んで叫ぶ矢野口。


「これで、この戦いも……!」

「多分、プロポートさんの言う通りならな」


土壁の上からセットの苦しそうな呻き声や姿を見聞きしつつ、そう2人呟く。



「ありがとね数原。数原が居なかったら、誰も本物のセットを見つけられなかったわ」

「おぅ」

「あと、所でさっきの白い光の(まと)? みたいなやつ。アレは何なの?」

「あー、えーっとね……まぁ、レーザーポインター、みたいなヤツだよ」


どうせ【演算魔法】を説明したって矢野口が分かってくれる訳が無いので、そう言っておく。






さっきの『光線指示(レーザー・ポイント)』は、可合の【光源Ⅱ】(ライト・ソース)と僕の【直線比例Ⅰ】ライナリー・プロポーションの合わせ技だ。


【直線比例Ⅰ】ライナリー・プロポーションの魔法は、『比例』や『比例のグラフ』に関するモノを扱える。

さっきのはこの魔法を使って、『球状』だった光を傾きが-1/15(マイナス15分の1)になる『直線のグラフの形』に変え、セットに白い光を当てたというわけだ。


ちなみに『傾き』ってのは、グラフで『右に1マス進むと、上に何マス進むか』を示した数字らしい。



で、なんで傾きが-1/15(マイナス15分の1)なのかって言うと。


セットまでの横の距離は30m、高さは2m。

右に30m進むと下に2m下がる。

一マスを1mとすれば、30マス進んで2マス下がるのだ。


じゃあ、1マス進んだ時は何マス下がる?


それは【除法術Ⅰ】(ディビジョン)を使えば一発。

2÷30=1/15、つまり1マス進むと1/15(15分の1)下がる。



つまり、僕からセットへと真っ直ぐ繋いだ直線の傾きは-1/15(マイナス15分の1)だ。


1mセットへと近づけば、高さが僕より(1/15(15分の1))m下がる。

2mセットへと近づけば、高さが(2/15(15分の2))m下がる。

3mセットへと近づけば、高さが(3/15(15分の3))m、つまり(1/5)m下がる。


15mセットへと近づけば、(15/15(15分の15))m、つまり1m下がり。


28mセットへと近づけば、高さが(28/15(15分の28))m下がり。

29mセットへと近づけば、高さが(29/15(15分の29))m下がり。

そして、セットの居た30mでは高さが(30/15(15分の30))m、つまり僕より丁度2m下がるのだ。



こうして、可合の光の球を使って直線のレーザーポインターを作り、傾きを操って本物のセットを照らしたという訳だ。


いやー、『光の球』を『光の直線』に形を変えられるかどうか心配だったけど、なんとか出来て良かったよ。






「へー、レーザーポインターね。プレゼンとかでよく使う、あの緑とか赤の」

「そうそう」

「ただの照明だと思ってたあの球を、レーザーポインターにしちゃうなんて。貴方の魔法、なかなか便利じゃない」



……『ただの照明』って。

その言い方、可合に失礼じゃない?

照明を出して貰ってる側の言うことじゃないぞ。


とはいえ、僕の【演算魔法】を褒めてくれると、ちょっと嬉しいな。



なんて事を言っている時。

戦場となっている広間に、異変が起こり始めた。

痛みに苦しむセットの周囲、そこに居る騎士達が突然暴れ出したのだ。


騎士の群勢の中、そう動く余裕もない場所で左右の騎士にぶつかっては前後の騎士にぶつかり、徐々にどこかへと移動していく。


それはまるで、()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()



「え、何が起こっているの?」

「分かんない」


状況が分からぬまま、土壁の上で立ち尽くす2人。


次第にその混乱は規模を増し、セットの近くの騎士からその近くの騎士へ、更にその近くの騎士へ、また更に近くの騎士へと逃げ回る騎士が増えていく。


なんなんだ、コレは……

まるで何かの細菌がパンデミックを起こしているかのようだ。



「何これ……怖っ……」



逃げ回る騎士病はそのまま、戦線にも到達。

騎士達の連携は崩れ、こちらに背中を見せて駆ける騎士まで現れる始末。


当然、勇者・戦士・魔術師達はその隙を逃さず、騎士達を一掃していく。



逃げ回る騎士は、皆一様にある方向へと向かっている。


彼らの視線の先には、階段。

殆どの騎士が、5層目へと逃げているようだ。



「セットを倒して、騎士達が混乱し始めた……って事はつまり、大将が落ちて指揮系統が一気に終了しちゃったって感じ?」

「あり得るわね」



その階段は今、無数の騎士が我先にと集っており大混乱状態だ。

首都近郊の朝ラッシュなど比では無い程、カオスになっている。


対して勇者達は、突如背を見せて逃げ始めた騎士達に一瞬驚きつつも、その背中をバッサリ。



逃げ惑う騎士達の、前方には大渋滞する階段への通路。

後方には凄い勢いで襲い来る勇者・戦士・魔術師達。



あれ程居たはずの騎士達が、逃げ延びるか倒されるかして居なくなるまでに時間は掛からなかった。






【強斬Ⅷ】(ォ面エエエェェェェン)ッ!!」


最後の一騎が神谷の持つ日本刀によって斬り伏せられる。

バタンという音と共に、騎士が落馬してフォレスト・ラクーンの姿に戻り、ウッドディアーが頭から倒れる。


神谷の掛け声と、騎士の倒れる音が広間内に反響。



やがて反響も鳴り止み、沈黙が広間を覆う。


そんな誰も喋らない広間に残っているのは、僕達勇者・戦士・魔術師の計30人、それとセットとエルフだけだった。

※10/9

タイトルが間違っていたので修正

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『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
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