8-13. 狙撃
※12/10
間違っていたスキル名を修正
「居た、本物のセット……!」
僕の目の前に浮かぶステータスプレートには、確かに『セット』の名が書いてある。
「本当!? どいつ!?」
「あ、アイツだっ!」
そう言い、僕の視線がロックオンしている存在に向かって指を差す。
頼む矢野口、やっちゃってくれ!
早くこの戦いに終わりをッ————
「…………え、どれよ?」
「……ぇ?」
あ、アイツだって! 早く射抜いて————
「いや、あんな群勢に指差されても、どれが本物か分からないわ」
「え……あぁ……」
そう言われて、ふと気付く。
……『アイツだ!』って指差して、分かる訳無いじゃんか!
ロックオンした本物のセットは、騎士の群勢の中で、変化の騎士に混ざり込んでいる。
戦況を見る訳でもなく、指揮を執る訳でもなく、防御をギチギチに固める訳でも無く、団長・プロポートさんの言った通り周囲にウジャウジャと居る大勢の『変化セット』に紛れていた。
行動も振る舞いも、見た所周囲の騎士と変わらない。
ただ一つ、『騎士の中で唯一エルフの方を振り向いた』事を除いて。
僕がもしも『その行動』を見逃していて、かつ【解析】を持っていなければ、恐らく目にも留まらなかっただろう。
そう考えると、少し怖い。
「あの群勢の中の、どの騎士よ!」
「え、えーと……群勢の真ん中からちょっと左の方に居て、今右を向いて————
「分かんないわよ! みんなこっち向いてるし……
うーん、上手く伝わらない……。
「えー、今右に歩いてて……あっ、今一歩下がった————
「動きも皆同じよ! なんか特徴は無いの!?」
お団子状態の群勢なのだ。
そりゃ、行動でも見分けられないか。
「じゃあ、見た目は…………」
「皆同じに決まってるじゃない!」
あ、そうだった。
……えぇ。
駄目だ。
矢野口に伝える方法が無い。
クソッ!
矢野口が本物のセットを分かってくれれば良いのに!
そうでなくとも、僕が銃でも弓でも持ってれば速攻でセットを倒せるかもしれないのにッ!
あぁ、アレが有ればなぁ。
重要物を『指し棒』、いや『レーザーポインター』にでもしてれば、こんな時に役立つのになッ!
日本から取り寄せられれば————
「あ、あぁ」
そんな時。
ふと頭の中に、とんでもないアイデアが浮かび上がる。
僕がロックオンしているセットを、矢野口が射抜いて倒すためのアイデア。
完全なる思いつきだ。
どういう過程で思いついたか分からない。
果たして本当に出来るかどうかも分からない。
だけど、僕の直感がそれを訴えている。
…………やるか。やってみるか。
「可合! 光の球をコッチにくれ!」
土壁の上から、下で救護を続ける可合に向かって叫ぶ。
「え、【光源Ⅱ】を?」
「そう! 僕の所に1つ出してくれ!」
「う、うん、分かったよ! 【光源Ⅱ】!」
怪我人の看護を続けながらも可合がそう唱えると、僕の目の前に光の球が現れる。
「うぉっ、眩しっ!」
「あぁっ、ゴメン数原くんっ!」
目がチカチカする。
「……多分大丈夫。ありがとう、可合!」
「うん!」
まだ目はよく見えないけど、光の球・準備オッケー。
光の方から騎士の群勢の方へと振り返り、セットを再びロックオン。
一応、【解析】でも確認してみる。
ピッ
……ステータスプレートには『セット』の文字。
よし、敵のロックオン・オッケー。アイツが本物のセットだ。
さて、ここからが本命だ。
「矢野口、今から本物のセットを示すから」
「ぇえ、どうやって? ……まぁ良いわ。よろしく頼むわね。狙撃なら任せて」
「おぅ、こちらこそ頼んだ」
そう言って、矢野口が弓を構える。
まだ矢は引かない。
よし、狙撃部隊・準備オッケー。
さぁ、行こうか。
大きく深呼吸を1つ、気持ちを入れる。
そして、視線を本物のセットに合わせ、右手を可合の出た光の球に触れる。
セットの高さは僕から2m下。
距離は僕とエルフの丁度中間くらい。エルフが『遠的、60m』って言ってたから、セットとの距離は僕から約30m。
つまり……
「【直線比例Ⅰ】・(-1/15)ッ!」
そう唱えた瞬間。
右手で触れていた光の球が収縮する。
「おっ」
バスケットボール大ほどあった光の球はみるみる小さくなっていく。
その光の球がピンポン球ほどまで小さくなった時。
「おおぉっ!」
「え、えっ!? 何よこれ!」
突然、光の球から白い光のビームが飛び出す。
光のビームは少しずつ下がっていき、そのままある騎士の胴体を明るく照らし出した。
「光線……!?」
よし、作戦成功だ!
僕しか分かっていなかった本物の個体を、僕以外の人に伝える魔法。
名付けて『光系統・演算複合魔法 光線指示』ッ!
「本物はアイツだ矢野口!」
「分かったわ!」
素早く狙いを定め、矢を引く。
そして。
「行けェェェェッ!!!」
「【精貫Ⅱ】!!!」
矢野口の弓から、矢が放たれた。
ビュンという音を伴い、物凄い勢いで一直線に飛ぶ矢。
本物のセットも眉間に光線が当てられているのに気が付くが、時既に遅し。
矢野口の弓から放たれた弓は、ブレることなく真っ直ぐ進んで行き。
そのまま、本物のセットは避けるのも守るのも出来ず。
白い光線が指し示した点にピッタリ重なるように。
セットの腹に、矢が突き刺さった。
投稿が遅れ、毎日ご愛読くださっている皆様には大変ご迷惑をお掛けしました。
申し訳ございませんでした。




