1-9. 配属
「……それでは、国王マーガン・ティマクスの名において、我らが神エークスより授かりし勇者様御一行の配属先を発表する」
配属先の想像が膨れ上がる中、配属先の発表が始まった。
「最初に、戦士の分類の職を有する者。神谷勇太、強羅拳児、……――――
最初は『戦士』からだ。
剣術戦士になった神谷や格闘戦士になった強羅を始め、どんどんと同級生の名前が読み上げられていく。
……あー、クソッ。僕も戦士だったらなぁ。
間違いなく某狩りゲームのスキルを活かせてたのに。
「――――……、矢野口真弓、盾本守、以上8名」
「「「「ハッ」」」」
そんな事を考えているうちに、読み上げが終わったようだ。
……勿論僕は呼ばれていない。
それにしても、戦士だけで8人か。一緒に召喚された20人の半分近くも居るとは。
「皆には『王都戦士団』及び『冒険者ギルド』に所属とする。各人には、それぞれの武器の腕を磨いて頂きたい」
冒険者ギルド……!
聞いた事あるぞ。この世界に有るのか! 気になるなぁ……。
「次に魔術師の分類の職を有する者。可合美優、火村彩夏、……――――
戦士が終われば、次は魔術師だ。
女子の名前がここぞとばかりに呼ばれていく。
「――――……、飼塚養平、以上6名は『魔術師連合』及び『ギルド』に所属とし、それぞれの魔法の腕を磨いて頂きたい」
「「「「ハッ」」」」
光系統魔術師だった可合を含め魔術師は全部で6人だった。そして男子が飼塚くんただ1人というハーレム状態。
……飼塚くんに鋭い視線が集まっていた。
それにしても、戦闘職の戦士・魔術師だけで結構な人数が呼ばれてしまった。8人と6人で……まぁ、結構な人数だってのは分かる。
いいなぁ戦闘職。……僕もソッチだったら良かったのに。
という事を考えてたって何も始まらないので、サッサと頭を切り替えよう。戦闘職は忘れて数学者だ数学者。
早く呼ばれろッ!
「続いて産業人の分類の職を有する者」
……チッ、産業人が先だったか。
「秋内品行、轟翔、加冶鉄平、小作創太、以上4名は『王都商工組合』に所属とし、それぞれの技能を磨いて頂きたい」
「「「「ハッ」」」」
雑貨商人のアキをはじめ、産業人だけで4人。
非戦闘職の奴も結構多いんだな。……そう考えれば、数学者の僕もそう悪くないのかもな。
さて。
戦士、魔術師、産業人が終わった。
という事は――――
「最後に、識者の分類の職を有する者」
……長かったけど、ついにココまで回ってきた。
僕の、『識者』の番だ。
もうほとんどの同級生が呼ばれた。逆に呼ばれていない同級生が思いつかないくらいだ。
僕の名前を今か今かと待ちわびていた身体も、出番が来たと分かるや否や急にヒートアップ。
期待と緊張で湯気が立つくらいに暑い。
戦士の『戦士団』、魔術師の『連合』、産業人の『組合』ときて、数学者。所属は一体どこになるんだ?
誰が僕の先輩についてくれるんだ?
もう気になって仕方がない。
さぁ…………来いッ!
「金澤豊、貴殿は王国議会に『貴族院議員』として所属し、人民の代表たる者としての素質を養って頂きたい」
「ハッ」
お前が居たのかァァァッ!
……思わず叫びそうになってしまった。
けどまぁ、コレで僕以外の19人全員が呼ばれたハズ。
となれば最後は僕。トリもトリ、大トリだ。
気を取り直して、さぁ…………来いッ!
「そして数原計介、君には大変申し訳無いのだが…………」
そう言ったっきり、王様の口が閉じられる。
「えっ?」
思わず声が漏れ、床を見ていた頭が上を向く。
視界に映った国王の顔は……さっきとは打って変わって、気まずそうに困った表情。
――――嫌な予感。
そして、国王は意を決すると徐に口を開いた。
「…………我が国には、学者が居ないのだ」
「え…………?」
学者が、いない?
「我が国には、貴殿の先輩足りえる学者が居ないのだ……ッ!」
ちょ、ちょっとちょっとちょっとちょっと。
じゃあ僕の先輩は?
「我が国に居た学者達は皆、設備の良い帝国に次々と引き抜かれてしまい……今、誰一人として残っていない。貴殿を配属する予定であった『学会』も、今は潰えてしまった」
嘘……だろ?
じゃあ僕の配属先も…………?
「そして、今帝国は滅ぼされつつある。彼らの消息も魔王が現れて以降、分かっていない。学者を引き止めるため、王国の成せる全てをしたとはいえ……彼らを、いや彼らの人生をも引き止められなかった私が恥ずかしくてならないっ…………」
「…………」
…………。
絶望。
もう、それ以上何も考えられなかった。
―――日本の常識すら通じえない未知ばかりのこの世界で、重要物も職もダメだった。
―――そして今、希望の光だと思っていた配属先も、先輩さえも居ないと知ってしまった。
―――何を、誰を頼ればいいのかも分からない。
―――唯一の仲間ともいえる同級生さえもいない。
召喚2日目にして、詰んだ。
詰んでしまった。
「……くっ、済まぬ、数原殿。責任は私にある。恨んでくれても構わない」
「………………もう……いいです」
絶望と憂鬱で埋め尽くされ、頭の中がグチャグチャになった。
なんだかもう、何もかもが面倒臭くなってきてしまった。
そんな僕の口は、無意識にそう呟いていた。
「そんな小さな声では聞き取れないだろ! 物申すときは大きな声で————
「構わぬ」
「ハッ! しっ、失礼しました」
謁見の間に控える兵士の一人がそう言うが、国王の制止に遭う。
「……この責任は私が取る」
すると、今まで歯を喰いしばって俯いていた国王が姿勢を改め。
つい今までとは打って変わり、キリッとした目で僕を見つめる。
「数学者の職を持つ者、数原計介。貴殿の所属先は『無し』とするが……一人の学者としての地位、及び王国図書館の機密書庫を含む全書架の自由閲覧権利を与える」
「き、機密書庫もですか!? 勇者様とはいえ、外部の者ッ。そこまで————
「構わぬっ! 学者も居らぬ今、数原殿に為せる我々の最大限の協力は、先達の遺した物を見せる事しかないのだ! 違うか大臣?!」
「……いえ、仰る通りです」
「ならば良い。…………数原殿、これが我々の最大限の協力だ。どうか、お頼み申したい」
大臣の反対も押し切り、僕に尋ねる国王。
……だが、もうどうでも良かった。
「…………ハッ」
頭はボーッとしていたものの、何とか条件反射のように返事だけは返していた。
「……皆の者、取り乱してしまい、済まなかった。配属の発表は以上、勇者様御一行にはこれに従って加入して頂き、どうか魔王を倒せるような力をつけて頂きたい。皆を頼るようではあるが、王国一同、宜しくお願いする」
「「「「ハッ!」」」」
「謁見は以上だ。では、下がられよ」
その後、国王がそう締めて謁見式は恙なく終わった。
謁見の間の大扉が開かれ、立ち上がってゾロゾロと謁見の間を出ていく同級生。
放心状態だった僕も、アキに半ば引き摺られるようにして謁見の間から出たのだった。




