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8-12. ロックオン

矢野口を押し倒した姿のまま。

飛んできた矢は、僕の腹にブスブスと入っていく。



「グウゥゥアアアァァァッ!」



い、痛っ……!


思わず膝をついて倒れる。


矢は白衣(ロングコート)と麻の服の上から突き刺さり、左腹に刺さっている。

真っ白だった白衣(ロングコート)の周りが徐々に赤く染まっていく。



「か……数原っ! ま、まさか、私の代わりに……!?」


矢野口の声が聞こえるが、それどころじゃない。


呼吸をする度に、矢が擦れて傷口が痛い。

……痛みで脳みそが焼ききれそうだ。


「クゥッ……」


抜かなきゃ、呼吸ができない……。

ほぼ無意識に、腹に突き刺さる矢に手を掛ける。


「だ、駄目よ! そのままにしといた方が————

「息が……苦しいんだよッ……!」


矢野口の制止も払い、矢を両手で握る。

矢が傷口に擦れて痛む。


……よし、引き抜く、一気に。


いち、にぃ————






「ガアアアァァァァァァァァッ!」


抜いた。


右手には、先が赤く染まった矢。

左手は、痛みで思わず傷口を押さえる。



呼吸をする時の痛みは消えた。

多少は楽になったが、代わりに更に酷い激痛が傷口を襲う。


それと同時に、血が身体から抜けていく感覚。

傷口を押さえる左手からは、白衣(ロングコート)がどんどん湿り気を帯びていく感覚が伝わる。



「クッ……」


【加法術Ⅲ】(アディション)・DEF30が効いたからか、幸いにも傷はそこまで深くはないようだ。

意識もなんとか保てている。


……だけどそのせいで逆に苦しい。

むしろ痛みで意識が飛ぶ方が楽なんじゃないのかなっ……!



「……大変っ!……ねぇ、しっかりして! 大丈夫なの数原!」


……ハッ、そうだ、矢野口っ!

とりあえず、伝える事は伝えねば……!


痛みを堪えて声を出す。


「ゃ、矢野口ッ」

「数原っ! 大丈夫なの!?」

「僕は大丈夫ッ……それより、お前、狙われてるぞっ……!」

「分かってるわよ! そのせいで数原が……」


段々と涙声になってくる矢野口。


「ゴメン、数原……ワタシのせいでそんな深手を————

「そんな事は良いっ、僕は大丈夫だからッ……!」


矢野口の目からは涙が溢れ、頬を伝う。



「矢野口ッ、土壁を降りて狙撃から逃れろッ! ……ココじゃまた、狙われるぞッ!」

「……うん」


そう言って涙を拭い、目を擦る矢野口。



「……だけど」


そう呟き、涙を拭いていた手を下ろすと。


そこには、普段よりも更に切れ長になった矢野口の眼があった。

まるで、何かを決意したような、鋭い眼光。



そして、()()()()()()()()()()()



「……ぉ、おい、なんで立つんだよ! それじゃあ余計ッ————

「良いのっ! ワタシは、自分が犯したミスは自分で責任を取るっ!」



矢野口が、矢野飛んできた方向を見つめる。


「弓を射たのはあのエルフ?」


矢野口が指差す先には、例のエルフが居る。


「……あ、あぁ、そうだけどっ……」

「……そう、分かった」


おい、何をするんだよっ……


そんな僕の心の声に答えるかのように、矢野口は()()()()()()()()()()



「自分のミスは自分で責任を持つ、これがワタシのルール」


左手で弓を持ち、構える。



「ワタシのミス(不注意)で、数原が怪我した」


エルフも同様に弓矢を構えるのが見える。



「数原を治すのは出来ないけど……」


お互いに矢を目一杯引き。



「代わりに、敵を倒す(責任を取る)事なら出来るっ!! 【強射Ⅱ】(ストロング・ショット)!!!」


両者同時に、矢を放った。






エルフの放った矢は、矢野口へと。

矢野口の放った矢は、エルフへと。


それぞれの放った矢が、それぞれに向かって真っ直ぐに飛ぶ。

どちらも、()()()()()辿()()ように。



そして。



2本の矢は()()()()した。


「矢が撃ち落とされた……!?」

「いえ、ワタシの矢はそんなんじゃ落ちない」



衝突と同時、エルフの放った矢が真っ二つに割れ、落ちていく。


「これが、合宿の成果、新スキルよ!」



それらの間を抜け、勢い衰えずに飛ぶ矢野口の矢。


そのまま矢はエルフへと一直線に向かい。



ブスブスッ!!



エルフの()()に直撃した。






「狙い通り、左腕に的中ね」


弓を落とし、矢を受けた左手をブランブランするエルフを見て、矢野口がそう呟く。


「……マジかよ」


驚いた。

ココからだとあんなチッポケにしか見えない人の、しかも腕を狙うなんて。

しかも同時に放たれた矢と接触しつつも、だ。


この瞬間だけは、傷口の痛みを忘れていた。



「数原、ワタシこれでも弓道部の部長なんだから!」


…………ん?

そこでふと、ある騎士が目に入る。



「今まで6年間、伊達に弓道やってないわよ!」


勇者達の方を向いて攻め時を伺う騎士の群勢、その中に慌てるようにして振り向く騎士が居た。

まるで、()()()()()()()()()()()()()



「という事で、これで責任はとっ…………ねぇ、聞いてるの数原!」


だが、それも一瞬。

すぐさま周りの騎士と共に攻め時を伺う。



「……あ、アイツ……なんか怪しいッ」

「……全く聞いてないじゃないの! もう……」


僕の視線を例の騎士にロックオン。



【解析】(アナライズ)ッ!」

ピッ



===Status========

セット 26歳 男 Lv.37

状態:普通

HP  98/98

MP  57/74

ATK 48

DEF 43

INT 39

MND 42

===========



名前はセット、変化じゃない。

状態欄は普通。

歳もLvもステータスも高い。



……い、居た!!

本物発見だ!!!

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Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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