8-11. 干渉
「居たわ! 本物!!」
矢野口が、目の前の青透明な板を見てそう叫ぶ。
マジで!?
「ちょっとステータスプレート見せて!」
矢野口の前に浮かぶプレートを覗き込む。
===Status========
セット 1歳 雄 Lv.9
状態:普通
===========
名前はセット、本物だ。
うわ、マジか――――
「ん? ちょっと待って」
「どうしたの!? そんな事より早くアイツを倒さないと!」
そう言い、矢野口は弓を構え、矢を引く。
「行くわ!」
ビュンッ!
そう宣言し、矢を射た。
矢は風を切る音と共に、そのまま騎士の群れの中の1騎に的中。
その額を貫く。
ブスッ!
「良し、的中! やったわ!! これで――――
ボフンッ!
「えぇ!?」
「マジかい」
矢野口が額を貫いた騎士は、煙と共にフォレスト・ラクーンの姿に戻った。
「どうして!?」
「うーん……」
ステータスプレートには確かに『セット』って書いてあったのに。
なんでだろ。
「矢野口の【鑑定】がバグってんじゃない?」
「ちょっ、何て事言うの数原!?」
「ゴメン」
「もぅ……だけど、その可能性も無くは無いわね。もう一度やってみる」
という事で、矢野口のセカンド・トライ。
「【鑑定】っ!」
ピッ
現れる、青透明な板。
確認。
「……セットね」
そして、直後矢を射る。
的中。
ボフンッ
狸姿に戻る。
「………………これバグってるわね。私の【鑑定】」
「……そっすか」
ダメだ、矢野口の【鑑定】は使い物にならない。
もうこうなったらコースにお願いするしか――――
「いや、確か『スキルに間違いは決して無い』はずよ」
「あぁ、それ聞いたことある」
「となると……『スキルの干渉』が起こってるのかしら」
スキルの干渉、か。
……聞いたことない。
「何すかソレ?」
「例えば私が【鑑定】を使っても、敵が『【鑑定】を妨害するみたいなスキル』を使っていたら、【鑑定】が上手くいかなかったり、使えなかったりする事」
あぁ、成程ね。
という事は……
「そう考えると、『変化』は姿だけでなく【鑑定】にも影響を与えてるってことか」
「そうなるわね……」
うわー、マジかよ。
僕のは【鑑定】でなく【解析】だから問題ないけど、皆の【鑑定】は使い物にならないと。
何だよ。結局、僕1人でやらなきゃいけないのかよ。
「数原、ごめんなさい。力になれなくて」
「いやいや、気にすんなよ。ありがとう」
「……まぁ、とりあえず矢野口は騎士を倒し続けてくれ。僕が頑張って探すよ」
「分かったわ」
という事で、1人で本物のセット探しを再開。
ちなみに、僕の隣では矢野口が騎士を射抜きまくっている。
うーん、そうだな。どいつが本物だろ……。
適当に【解析】をやっていくか。
……といっても、マジで適当に探しているって訳ではない。
一応、本物と変化の見分けポイントは考えている。
本物のセットは敵の大将。
例えば、戦況が掴めるように広間全体を見渡せるような場所に居たり。
指揮を執りやすくするため、敢えてゴチャゴチャの中に居たり。
はたまた周りに近衛部隊を控え、防御を固めていたり。
そういうような騎士が、本物のセットだろうって考えている。
まぁつまり、大多数の変化セットのような『ただ僕達に群がる』のとは違う行動をするヤツが本物なんじゃないかな。
じゃあ、そんな感じでやるか。
同級生達のスタミナもそう残っている訳では無いし。
周りを見回す。
「おっ」
広間の壁際、キョロキョロと落ち着きの無い騎士発見。
アイツ、きっと戦況を確認してんだ。
「【解析】!」
ピッ
===Status========
フォレスト・ラクーン 0歳 雄 Lv.3
状態:変化中(セット)
HP 19/19
MP 22/36
ATK 19
DEF 15
INT 12
MND 17
===========
ハズレ。
ただ落ち着きが無いだけだった。
「次!」
暴れるぬいぐるみと戦う騎士の軍勢、その最後尾に陣取るアイツ。
きっと『行けー!』とか言って指揮を取ってんだ。
「【解析】!」
ピッ
===Status========
フォレスト・ラクーン 0歳 雄 Lv.2
状態:変化中(セット)
HP 16/16
MP 17/31
ATK 17
DEF 13
INT 9
MND 15
===========
違った。
Lvが低くて、ただ波に乗れないだけだった。
「次!」
長田がバットを振り回している方、騎士達が妙にギュウギュウになっているところ。
その丁度真ん中にいるアイツ。
きっと、近衛を付けて防御ガチガチにしてんだ。
「【解析】!」
ピッ
===Status========
フォレスト・ラクーン 1歳 雄 Lv.11
状態:変化中(セット)
HP 34/34
MP 33/47
ATK 27
DEF 22
INT 19
MND 23
===========
違った。
長田から逃げ回る騎士達がお団子状態になってるだけだった。
「次!」
飼塚がヤバい笑い方を上げてる辺り、動く事無く何かを見つめているアイツ。
……妙に落ち着き過ぎだ。なんか怪しいから、とりあえずやってしまえ!
「【解析】!」
ピッ
===Status========
フォレスト・ラクーン 4歳 雄 Lv.15
状態:変化中(セット)
HP 36/36
MP 37/51
ATK 28
DEF 23
INT 21
MND 24
===========
違った。
妙に落ち着いてたのは歳のせいだったようだ。
「次! 【解析】!」
「……次! 【解析】!」
「…………次! 【解析】!」
「…………あー、次! 【解析】!」
「………………次! 【解……クソッ、魔力切れか」
さっき可合から貰ったMPポーションを一本開ける。
「次! 【解析】!」
「次! 【解析】!」
「……次! 【解析】!」
……そう簡単に相手を見つけられないとは分かってたけど、やっぱり何度も偽物ばっかりだと苛立ちが溜まってくる。
そんな事を考えつつもしている時。
「次――――
ふと、ある一点に目が留まる。
「あ、アイツは!」
金髪に長い耳を持ち、ウッドディアーに騎乗した女性。
さっきセットと一緒に居たエルフじゃんか!
そのエルフは矢を構え、弓を一杯に引き、狙いを定めている。
標的は……僕、じゃない。
僕のすぐ右――――
「矢野口ッ!!!」
「え、どうしたの数原?」
エルフの射撃の標的は、僕の直ぐ右。
恐らく矢野口だ。
だが、彼女は狙われている事に全く気付かない。
「危ないッ!!!」
無意識に身体が動き、矢野口へと足が動く。
それと同時、横目でエルフが弓を放つのが見える。
「え、何――――
矢野口を押し倒す。
少々強引だが許して欲しい。
セクハラとかで訴えないでくれよ。
そんなどうでも良い事が頭の中を過るが、矢の風を切る音が耳に届く。
左を振り向くと、直ぐそこまで矢が来ている。
クソッ!
矢野口は射線外に出せたが、僕が射線上だ。
間に合わない!
「【加法術Ⅲ】……
苦肉の策、DEF加算。
見開いた目で矢を捉えつつ、DEF加算の魔法を唱える。
頼む、間に合ってくれ!
「えぇ――――
矢野口も飛んで来た矢に気付いたようで、驚きの声を上げる。
必死に頭で魔法を思い出す。
しかし、凄い勢いで僕に向かって来る矢。
「……DEF30ッ――――
【加法術Ⅲ】の魔法を唱え終わる。
それと同時。
僕の目は、矢が僕の腹にブスブスと入っていくのを捉えていた。




