8-10. 識別
「敵の親玉を落とす事だ」
限りなく湧いてくる敵の騎士。
今でこそ順調に敵を倒してはいるが、僕達の体力もいずれ尽きる。
援軍も望めない。
そんな状況を打開する方法。
プロポートさんは『これしか無い』と言ってこれを告げた。
だが。
「だ、団長! ですが、敵は皆変化で『セット』に化けています! どうやって見分ければ……!」
「……成程、これが奴らの狙いか。まさか、そう強くもない魔物であるフォレスト・ラクーンを用いてこの様な落とし穴を……」
あー、そういう事だったのか……。
無数のウッドディアーを、フォレスト・ラクーンを使って騎士に変化させた理由。
それは『単なるウッドディアーの強化』だけでなく、『敵軍大将を狙わせない』事だったのか。
「更に、我々には時間も無いのだ。今でこそ勇者諸君は頑張ってくれているが、正直今がピークだ。もって残り1時間程だろう。昨晩の睡眠不足がじきに効いてくる筈だ」
あぁ……昨日、皆夜更かしを楽しんでたからな。
コンディションは最悪だろう。
「それまでに片をつけなければ、かなり厳しくなる」
成程……。
結構時間が無い。ヤバいな。
「敵の大将が識別できない。私達のスタミナ切れまでも時間が無い。倒せど倒せど騎士は減らない。どうすれば……」
「でもまぁ、僕達のやれることをやるしかないでしょ」
「しかし数原君、敵の姿は皆同じなのだよ! どうやって本物と変化を識別するのかい?」
「それについては多分大丈夫」
本物のセットと変化セット』を見分ける方法に当ては有る。
【鑑定】や【解析】のスキルだ。
これらを使えば『フォレスト・ラクーン』と『セット』くらい見分けてくれるんじゃないかな。
「カズハラ殿。その顔、何か策があるのだな?」
あ、やべっ。
顔に出てたか。
「あ、まあ一応……出来るかどうかは分からないですけど」
「そうか……。分かった。カズハラ殿の『策』を信じよう」
おぅ、マジかい。
プレッシャー掛かっちゃうじゃんか。
「私は戦線の指揮等のためにも此所に居なければならない。カズハラ殿、敵の親玉の捜索、頼めるか?」
プロポートさんからのお願いだ。
まぁ、僕の答えは無論決まっている。
「はい、やってみます」
まぁ、出来る限りやってみよう。
ダメなら別の策を考えるまでだ。
「さて、始めますか」
再び土壁の上に立ち上がる。
さて、僕の【解析】は上手くやってくれるだろうか。
適当にその辺の騎士に目を合わせる。
さて、頼むぞー……
「【解析】!」
ピッ
===Status========
フォレスト・ラクーン 1歳 雄 Lv.9
状態:変化中(セット)
HP 29/29
MP 34/47
ATK 24
DEF 19
INT 14
MND 21
===========
あー、成程ね。
変化中っていう風に出るのか。
……ちょっと、僕の方がLv低いのが悲しいけど。
って事で、本物と変化は【解析】を使って見分けられる事が分かりました。
さすが【演算魔法】に入っているだけの事はある。便利で宜しいね。
……だが、ここで問題がある。
あとは広間中の騎士を【解析】で見分けて回り、セットを見つけて倒せば良いんだが。
まず、【解析】は幾らでも使える訳じゃない。消費MPは2、タダでほいほい使えるってモンじゃないのだ。
次に、【解析】したヤツとしてないヤツの見分けがつかない。
そして、広間内に居る騎士の数。大体1万だ。その中に居る本物1騎を当てられるかって話だ。
……どうしよう。
『やってみます』とは言ったものの、割と問題点が多い。
【解析】作戦、失敗だったかな……。
そんな感じでどうしようか悩んでいた時。
「ぃよっと」
僕の背後から声が聞こえた。
うぉっ、誰!?
少し驚きながらも振り向く。
「数原、良い所に居るじゃない」
「おぅ、矢野口か」
そこには、背中に弓を背負い、2mの土壁を軽々と上ってくる矢野口がいた。
「弓使いはやっぱりこういう遠距離攻撃じゃないとね。にしても此処、眺めが良いのね」
「だろ? 草津に作って貰ってな」
「へぇ、やるわね草津」
そう言いつつ土壁の上に立ち上がる。
「えぇっ……敵、まだこんなに残ってるの!?」
「おぅ。しかもアレ見てみな」
矢野口が広間中の騎士を見てそう驚く。
が、まだまだ驚くなかれ。
今もなお騎士の湧き出ている、階段の方を指差す。
指差した先を見る矢野口。
「……嘘でしょ?」
矢野口、アレが現実です。
現実を受け止めてください。
「まぁそんな感じで、倒せど倒せど騎士は補充されてたって事だな」
「じゃあこれ、どうすれば……」
「団長曰く、『こういう時は敵の親玉を叩けばいい』らしい」
「……成程ね。確かにそれなら一発逆転間違いなしね」
「そうそう。って事で、今僕は【解……あの【鑑定】みたいなスキルで本物を探してんだ」
「あー、だから数原はこんな所に居たのね。てっきり逃げたのかと思ったわ」
失礼な。
非戦闘職とはいえ、それなりの覚悟は出来ているのだよ。
「あ、私も【鑑定】ならゲットしたし、本物探し手伝う? 騎士を射抜きながら」
あ、確かに。
その手があったか!
それなら僕1人で【解析】で頑張るより速い。
何で気付かなかったんだろ。
「お願いします!」
「オッケー!」
「【解析】!」
ピッ
「【鑑定】!」
ピッ
という訳で、2人体制で本物探しスタート。
そういえば、確かコースも【鑑定】持ってたよな。
コースも呼べば3人体制。スピードも3倍に――――
「居たわ! 本物!!」
「マジ!?」
矢野口が、目の前の青透明な板を見てそう叫ぶ。
え、一発目で当たったの!?




