8-9. 高台
「草津、居るかー?!」
「なーにー?」
さて、草津の土壁を出す魔法で『ミッション:敵の数を調べる』がなんとかクリア出来そうだ。
「ちょっとお願いがあるんだけど、来てくれー!」
「わかったよー」
そう呼ぶと、直ぐに草津がやって来る。
火村も一緒に。
「草津。さっきの土壁出すやつ、もう一回出来る?」
「出来るけどー、なんで?」
「壁の上に立って、戦場がどんな感じか見たくてね」
「なるほどー!」
「ふーん。頭良いわね、数原くん!」
いやー、そんな褒めないでおくれよ、火村。
照れちゃうじゃんか。
「じゃあ、壁というより正方形の柱? みたいな方がいいかなー」
マジ、形変えられるの!?
「出来るんなら、その方が良いな」
「オッケー!」
壁みたいに薄っぺらい形しか出せないのかと思いきや、どうやら形を変えられるようだ。
凄い便利な魔法じゃんか、系統魔法。
「それじゃ、数原くん、動かないでねー」
「分かった」
ここで立ち止まる。
丁度、銀色の魔法陣の中心だな。
「幅を2m、厚みを2mにして、高さも2mにしてーっと。よし、【土壁Ⅱ】ー!」
そんな締まりの無い感じで、草津が魔法を唱える。
その瞬間。
ガガガガガガガガッ!!!
「うおおぉっ!」
僕の足元から、正方形状に土が盛り上がって来る。
「ゔゔぅっ」
身体が床に押し付けられ、床にうつ伏せで倒れる。
まるで爆加速エレベーターに乗っているような、強烈なGを全身に感じる。
そんな事を考えている間にも、一瞬で土壁は2mの高さまで盛り上がった。
僅か1秒程の出来事だったが、僕には結構長く感じたよ。
「ケガしてないー?」
「唸ってたけど、大丈夫?」
下から火村と草津の声が聞こえる。
ハイハイで床の端まで行き、そこから2人の方を見下ろす。
……うぉっ、結構高い。
「あ、あぁ。大丈夫」
「人を載せて使うの初めてだったけど、数原くん無事でよかったー」
え、マジで!?
そういうの先に言ってくれよ!
「……お、おぅ」
「それじゃ、私たちはまた長田の後始末してくるわね!」
「私も行ってきまーす」
……そうか。
長田、まだ反省してないのかよ。
「ま、まぁ、頑張って。ありがとな草津」
「はーい。数原くんもガンバー」
「おぅ!」
「ほら佳成、早く行くよ!」
「あ、待って彩ちゃーん」
そんな感じで、火村と草津の2人は再び長田の後処理係へと戻って行った。
…………ってか、今更僕が言うのもなんだけど『爆加速エレベーター』ってなんやねん。
という訳で、ミッション続行だ。
立ち上がって周りを見回す。
「おぉ……」
まず何より、高い。
戦っている勇者達や騎士達の頭が下に見える。
2mの土壁に立つ僕の視界は、地面から3m半以上。
ここまでくると怖さを感じる。
そして、手前から奥へと目をやると。
「うわっ、マジかい……」
『あのドーム丸々一個分』程の広間には、未だに騎士が沢山残っていた。
包囲の輪から広間の壁際の方まで、未だ騎士がウジャウジャだ。
……既にあんだけ皆が騎士を倒したっていうのに、それでもまだこんなに残ってんのか!?
もう少し減っててもいいと思うんだけど。
それにしても、その騎士達が皆同じ姿、変化セットなのだ。
気味悪いな。
さて、果たして何騎くらいいるんだろうか。
もう一度周りをグルッと見回しつつ、考える。
えー、大体……
南門の襲撃の時がウッドディアー1万頭だったから……
あの時と同じくらいかな————
「ん? アレって……」
周りを見回している時、ふと目に留まってしまった。
気付いてしまった。
あ、あの穴……最下層と5層目を繋ぐ階段への通路だよな。
昨晩、僕らが通って来た所だ。
そこから、騎士が次々と湧き出している。
「えぇ、マジかよ……」
これ、文字通り終わりがないじゃんか。
エンドレスだよ。
そんな事を考えている間にも、続々と騎士が階段の方から現れ、広間へと補充されていく。
……これ、ずっとこのままだと詰むな。
戦っても戦っても減らない相手。
戦って戦って蓄積する疲労、怪我。
そして体力が尽き、いずれ皆揃って串刺しだ。
どうしよう……
ま、まぁ、とりあえず神谷に報告だ。
「神谷ー!!」
壁の上から神谷を呼びかける。
「ん? 数原君…………何処だい?」
2m下の神谷が僕を探してキョロキョロ。
「上上!」
「……おぉ、そんな所に! 転落しないよう、気を付けてくれよ!」
「おぅ! 所で、敵の数なんだが……」
「どうだったかい?」
「えーっと…………」
なんて言おうか、一瞬詰まる。
「エンドレスなんだよ、見た所」
「ん? どういう事だい?」
上手く言い表せないな。
「うーん……魔物が増え続けてんだよ、階段から!」
「…………ぇ、本当かい!?」
理解に一瞬の時間を費やした後、目を見開いて驚く神谷。
有り得ないと思うか、神谷?
思うよな。僕もだよ。
僕の頭の中でも、多分神谷の頭の中でも、『残り何千騎』とかだろうと思ってたからさ。
まさか補充され続けてたなんて、考えてもいなかった。
「それはマズいな」
神谷の近くで戦っていた団長・プロポートさんがそう呟く。
「プロポートさん!」
「団長! 何か策は……!」
「…………」
プロポートさんは騎士を相手に戦いつつ、何かを考えているような表情をしている。
「団長、敵は減るどころか、増え続けていると――――
「あぁ、聞いていた」
「このままでは私達はいずれ追い詰められ――――
「聞いていた」
「何か逆転の策は――――
「分かっている」
焦る神谷。
だが、団長は焦ってはいなかった。
「…………」
表情を崩すことなく、心を乱すことなく、戦いながらも何かを考えている。
何か打開できる方法があるんだろうか?
そして沈黙したまま騎士を4騎沈めた後、口を開いた。
「……これしか無いな」
「「団長!」」
そして、プロポートさんは僕達の方へと振り向いて言った。
「敵の軍は数知れず、援軍は無し。このような際に状況を一変させる、起死回生の策。それは」
「「それは……」」
「敵の親玉を落とす事だ」




