8-6. 実力Ⅰ
今まではただ包囲の中心で守られているだけだった僕達も、騎士との戦いに参戦することになった。
『頼むっ』という団長・プロポートさんの言葉に、同級生達の気持ちが引き締まる。
「フッ、勇太も行くのかよ、結局」
「……クラスの皆を失うのはとても怖いが、団長の頼みだ。行くしかない」
僕達の参戦に反対していた神谷も、結局行くんだな。
「それじゃあ計介くん、早速俺に魔法を掛けてくれよ!」
「私にも宜しく頼むわ!」
「じゃあ、俺その次にお願いしゃっス!」
「おぅ、分かった!」
よし、それじゃあ僕も始めますか!
まずは盾本だ。
「【乗法術Ⅱ】・ATK3、DEF3!」
「サンキュー、計介くん!」
「おぅ! 僕は戦えないから、僕の分まで頼んだぞ!」
「勿論、任せとけ!」
そう言って盾本が包囲の方へと走っていく。
「次、よろしく!」
次は火村か。
確かコイツは火系統魔術師だから、上げるのはDEFとINTでいっか。
「おぅ、【乗法術Ⅱ】・DEF3、INT3!」
「……これで良いの?」
「オッケー。ステータスプレートを見てみな」
「わ、分かったわ。【状態確認】……ウッソ、防御と魔攻がこんな値に!?」
「そういう事だ。じゃあ行ってこい!」
「うん、ありがとね、数原くん!」
そう言って火村が包囲の方へと走っていく。
「おぃしゃっス!」
どんどん来るな。
長田は職何だったっけ……
あぁそうだ。棍術戦士だ。金属バットをブンブン振ってたな。
「よし、【乗法術Ⅱ】・ATK3、DEF3!」
「ッ! この感覚、さすが数原君っスね! あざっス!」
「おぅ、よろしくな!」
「任せろ!」
「……フゥ」
ここで少し倦怠感を覚えてきた。
ちょっとMPが減ってきたかな。
「誰かMPポーション持ってない?」
「あぁ、私持ってるよ! ……はいコレ、使って!」
すかさず可合がリュックからMPポーションを取り出し、手渡してくれる。
「おぉう、こんな沢山……」
僕の手の中には、淡い赤の液体が入ったガラス瓶、MPポーションが10本くらいある。
……ええ、こんなに貰っちゃっていいのかな。
「気にしないで、どんどん使っちゃって!」
おぅ、さすが可合だ。優しさがオーバーフローしてるよ。
「済まんな、ありがとう。可合」
「いえいえ。私もお役に立てれば」
そう言って、いつも通りの可合スマイル。
周りの男どもが「ヨッシャー! 元気出たっ!」とか言ってるけど気にしない。
僕は僕ができることをやるだけだ。
よし、それじゃあMPの心配も無くなったし、ステータス強化を続けよう。
「ボクにもお願い!」
よし、飼塚か。お前ならINTとDEFで……
「フゥ……やっと終わった」
なんとか同級生全員分、それと学生3人のステータス加算を掛け終え、一息つく。
ついでに余ったMPで戦士・魔術師達にも【乗法術Ⅱ】でDEF2を掛けておいた。
結構体力使うな。動いていない割には疲れるもんだ。
まぁ、魔法使いなんてそんなモンなのかね。
それにしても、途中でMPポーションを3本飲んだからお腹かタプタプだ。
ちょっと僕も休憩ーっと。
……と言っても、【状態操作Ⅲ】は25分までしか持たないんだよね。
また20分くらいしたら地獄の【乗法術Ⅱ】ラッシュかー、って思うと辛くなるよ。
で、ステータス加算をした奴らは今、戦士や魔術師と並んで戦っている。
それぞれ3倍に増えたATKやINTで敵をボコボコに蹴散らしている。
未だに変化セットの騎士の数は全く減る様子が見えないが、皆早く倒し切ってくれよ。
さて、周りを見回してみる。
今銀色の魔法陣の中に残っているのは、僕、先程負傷した戦士・魔術師と転移魔術師さん、それと怪我人3人を回復用魔法で手当て中のコレレさんと可合だけだ。
「【回復照射Ⅱ】!」
「【体調回復Ⅷ】」
コレレさんと可合の2人が忙しなく怪我人の手当てをしている。
……なんか、僕だけのんびりしてるのも気が引けるな。
「可合、なんか手伝える事ある?」
「ううん、ありがとう。さっきのMNDを強化してくれたお陰で、魔法の効き具合がいつもと全然違うんだよ!」
そうそう。
可合曰く、回復用魔法はMNDの値で回復のスピードが変わるんだとか。
という事で、回復用魔法に優れた【光系統魔法】を持つ可合には、【乗法術Ⅱ】・MND3と【加法術Ⅲ】・MND30を重ね掛けしておいた。
まぁ、コレレさんにも渋々同じ魔法を掛けておいたよ。
この要注意人物にはさっき酷いことを言われたし、ステータス加算をするのも躊躇ったんだけどさ。
やっぱり誰も死んでは欲しくない。
「そうだね。アタシも強化用魔法を掛けて貰ってから、魔法の効きが比べ物にならないよ。小僧、魔術師でもないクセに、便利で奇妙な魔法を使うもんだねぇ」
クッソ、この老魔女が。
調子良い事言いやがって。
『狙うんならケースケの小僧だけを狙うんだね!』
ふと、さっきコレレさんに言われたセリフが頭に蘇る。
見捨てられたような事を言われて、今でも憤りが返ってくるよ。
……だが、これでもコレレさんは回復役。彼女には僕達の生命線を握られているのだ。
万一怪我した時の事を考えれば、嫌々でも魔法を使うしか無い。
まぁ、怪我人の手当ては任せよう。可合も手伝いは大丈夫だって言ってたし。
今は怪我人の3人とも可合の作り出した白い光に包まれ、心なしか落ち着いた表情をして眠っている。
これなら大丈夫そうだな。




