8-2. 包囲
バキイイイィィィィィィン!!!!
「ぇ…………」
転移魔術師さんの手に持つ魔力結晶が突然砕けた。
パアアァァァァァァァンッ!!!
砕けた魔力結晶は蓄えた魔力を一気に発散し、暴発。
魔力結晶の欠片が更に粉々になり、結晶の欠片を
四方八方に撒き散らす。
「キャアアァァァァッッ!!!」
「「「「「うぉっ!?」」」」」
「「「「「キャッ!?」」」」」
「「「「「ぅわっ!」」」」」
驚きの声を上げる同級生、戦士、魔術師。
爆発と同時に無意識に目を瞑り、腕で顔を守る。
爆発で飛んできたカケラがポツポツと僕の全身に当たる。
欠片が地面に落ち、無数のコツコツという音が聞こえる。
少しして飛んでくる欠片が収まり、腕を下ろして目を開けると————
「あ、ああぁ……」
そこには、全身至る所に水晶の欠片が突き刺さり、銀色のローブを真っ赤に染めた転移魔術師さんが立っていた。
「おお、おぃ……」
「え……」
「マジかよ……」
「バ、バール!」
全身にブワッと鳥肌が立つ。
突然かつショッキングな光景に、頭が真っ白になる。
そして、転移魔術師さんは驚いた表情で意識を失ったまま、背中から地面へと倒れた。
「「「バールさん!」」」
「バールゥゥ! 大丈夫かい! しっかりするんだよ!」
コレレさん達が転移魔術師さんへとすぐさま駆け寄る。
「アンタ達、ボウっとしてないで回復用魔法が使える者は使うんだ! 早く!」
「「は、はい!」」
魔術師達は、コレレさんの焦りを含んだ大声に慌てて魔法を唱える。
「い、一体……何が起こっているんだ……」
「え、これヤバくね……」
「魔術師さん、大丈夫かよ……」
「どうしたんだろぅ……」
僕の目の前に居る神谷がそう呟く。
同級生達も突然の状況に混乱している。
「なあ、魔力結晶って爆発なんてするっけ……?」
「いや、聞いた事ないぞ、そんな事」
「普通に使ってりゃ問題無いはずだぜ、それこそ落としたりして割らなけりゃ」
「でも、なんで突然……」
戦士達も異常な事態に驚きを隠せない。
狼狽する魔術師。
混乱する同級生。
動揺する戦士。
そんな中、さらに追い討ちを掛けるような音が広間中に響き始めた来た。
ドドドドドドドドドドド……
広間内を埋め尽くす轟音。
その源の方を振り向くと、そこには物凄い数の動物、いや魔物が居た。
「こ……コイツは…………」
「数原君、君はこの動物を知っているのかい?」
「あぁ、コイツらは————
鹿のような姿で。
樹のような枝を持ち。
大きな体をした魔物。
僕達が王都で戦った相手、決して忘れる事もない。
「……王都を襲撃した魔物、ウッドディアーだ」
「ま、魔物なのか!?」
「そう」
そんな事を言っている間にも、無数のウッドディアーが階段の方から途切れる事無く押し寄せてくる。
「ちょ、ちょ、この数……」
「……コイツら、もしかして全員敵なの?」
恐らくな。
「俺らに対して多過ぎじゃないっスか?」
「これじゃ戦いにならないよぉ……」
「これ……ボクたち、かなりヤバイ状況じゃない?」
ヤバいよ、かなり。
「まさか……俺達、ここで殺されちまうのか?」
「…………嫌だよ、そんなの!」
「……しし、死にたくなんか無えぞ!」
「……でもどうやってこの数を相手に……」
増え続けるウッドディアーを眺め、ますます混乱する同級生達。
その間にも広間は大量のウッドディアーで埋め尽くされ、僕達は四方を囲まれた。
「……これはマズいな」
団長、プロポートさんがそう呟く。
それを聞いた僕達も、更に混乱する。
「よし、皆落ち着け!」
そんな中、プロポートさんが一喝。
全員がプロポートさんの方を振り向く。
「勇者諸君は魔法陣の内側に! 攻撃魔法を使う魔術師と戦士は勇者を囲み、全力で護衛せよ!」
「「「「「ハッ!」」」」」
プロポートさんの指示が飛ぶ。
戦士と魔術師が隊形を組み、未だ僕達と転移魔術師さんをグルリと囲むように戦士・魔術師が並ぶ。
「戦士、魔術師の諸君、良いか。何があろうと勇者の1人も殺させるな。命懸けで彼らを守れ!」
「「「「「オウ!!」」」」」
戦士と魔術師に話し終えると、今度は僕達の方に向かって話し始めた。
「良いか、勇者諸君。君達は私達が必ず守る。だから、まずは気を落ち着かせろ。まずはそこからだ」
プロポートさんの話が終わると、同級生の皆も多少安心したからか、少し落ち着きを取り戻した。
「「「「「は、ハイッ!」」」」」
それを聞くと、プロポートさんは軽く微笑んでウッドディアーの方を向き直した。
僕達の周りを戦士と魔術師が囲む。
その間からは、四方を囲った無数のウッドディアーが見える。
ウッドディアーは一頭として動かず、またこちらも誰一人として動かない。
誰も喋らず、また鳴かず、静寂の時間が続く。
だが、その均衡が破れた。
ウッドディアーの一部が動き出す。
「攻撃に備えよッ!」
プロポートさんがそう叫ぶ。
……が、ウッドディアーは前には出てこない。
左右に分かれ、真っ直ぐの道が出来る。
その道から現れたのは。
金髪で尖った耳を持ち、右手に弓を持ち、無表情でウッドディアーに騎乗する女。
ほ、本物のエルフがキターーー!!
……いやいやいや、そんな場合じゃない。
そして、エルフに続いて道の奥からやって来たのは。
「王都戦士団、魔術師連合の人間共、久し振りだな。そして勇者共、初めまして」
そう言ってウッドディアーに騎乗したまま礼をする、黒のマントとフードに骸骨の仮面を付けた男。
「あ、あぁ……」
どこかで見覚えがある。
え、ええ、えーと…………
あぁ、そうだ。あの時だ。
「いや、中に隠れている白衣の餓鬼にも『久し振り』と言ったところだな」
そう。
王都南門の襲撃の時、チラリと見えた影。
あの時はてっきり見間違いかと思っていたんだけど。
そして、目の無い骸骨の仮面が僕と目を合わせて、こう言った。
「会いたかったよ」




