7-36. 終了
ついに迷宮最下層への階段を発見した。
賭けゲームでメンバーそれぞれに一喜一憂はあったけれど、階段を発見した事に変わりは無い。
「君達。6日間に及ぶ合宿、お疲れ様だった。この階段を下りて最下層へと向かおう」
神谷がそう言って階段へと向かう。
『お疲れ様だった』って言ってる神谷も十分お疲れ様のはずなのに、それでもリーダーシップを執り続けている。
その辺り、もうコイツは根っからのクラス委員だな。
プロ・クラス委員で確定だ。
「あー、疲れたー……」
「コースちゃん、お疲れ様」
「あ、ミユちゃんありがとー! ミユちゃんもお疲れ様!」
「いやぁ、疲れたぜ。早く宿に戻ってベッドで寝てえ」
「確かにね。寝袋じゃ地面が固くて良く寝れないわ」
神谷に続いて皆が階段を下りつつ、色々と話している。
「あぁ、やっと最下層に着くんだな」
「うんうん。合宿、長いようで短かったよね」
ダンと盾本がそう振り返る。
この2人、すっかり仲良くなったね。
「えぇ、ボクには凄く長く感じたよ!」
「私も。辛かったよぉ……」
「あの時はマジで死ぬかと思ったっス!」
「…………」
飼塚、呼川、長田、森もそう言って振り返る。
一時は脱水症状で危なかったけど、何事も無くて良かったよ。
「そういえばシン、お前の新技、カッコよかったぞ!」
「シンやったねー!」
「あぁ、ありがとうございます、ダン、コース」
学生の3人も揃ってお喋りだ。
学生トリオも本当に仲が良くて宜しいね。
「【強突Ⅰ】を習得できたのもカミヤさんのお陰です! ありがとうございました!」
「いや、飽くまで君の頑張りの成果だ。私がどうした事では無いからな」
「いえ、そんな、カミヤさんの……」
「いやいや、シン君の……」
この2人はお互いに謙虚だからな。
このままだとエンドレス譲り合いになってしまいそうだ――――
「あぁ、そうだ。そういえば、昨晩久し振りにステータスプレートを確認したのだが、私の知らぬ間に【強突Ⅵ】という物が追加されていた。シン君はこれが何かご存知かい?」
「え? それ、私がカミヤさんに教えて貰った技ですよ」
「そ、そうなのか?」
なんと、シンが習得したスキルを神谷も習得していたようだ。
「はい。と言っても、僕のヤツのスキルレベルはⅠですけどね。……というか、カミヤさんのスキルレベル高くないですか!?」
「そうだな。習得した時点で既にⅥか……」
「きっと、前に言っていた『稽古の成果』って奴ですね。きっと、その戦士スキルを使えば『突き』がもっと強力になりますよ!」
「ほぅ、それは面白そうだ。どうやって使えば良いのかい?」
「簡単です。『戦士スキルを使う』って念じながら……いや、そう考えながら技を出すだけで自動的にスキルが使われます。魔力を消費しますが、技の威力が格段に増しますよ!」
へぇ。知らなかった。
と言っても戦士じゃない僕には関係無いけどね。
……あぁ、やっぱり戦士憧れるなぁ。
戦士やりたかったぜ。
そんな話をしつつ階段を下りていると、階段の終わりが見えてきた。
階段の下は明るく照らされている。
きっと最下層には誰かが居るんだろうな。
「あ、皆さん、階段の下が見えてきましたよ!」
「あぁー、やっと最下層だー!」
「もう直ぐ着くな!」
「うぅーん、眠くなってきちゃったー……」
「やっとだな……」
「ボク達が一番かなー?」
「さて、どうかしらね?」
「…………」
メンバーが思い思いに声を上げる。
さて、ゴールはもう目の前だ!
「「「「「着いたー!」」」」」
「とうちゃーっく!」
階段を下りきり、最下層である6層目に到着。
6層目に足を踏み入れ、周囲を見渡す。
壁や床、天井は今までの洞窟と同じ岩であるが、仕切りや柱は無くだだっ広い広間になっている。
天井はドーム状になっており、結構高い。
篝火が広間中に設置されており、暗くは無い。
まぁ、じゃあ明るいかって言われればそうでもないけどね。
広間の大きさは、テレビとかで広さを表すのによく使われる『あのドーム』と同じくらいだろうか。
「おーい!」
「お疲れー!」
「待ってたよー」
そして、その広間の中心に幾つかの人影が見えた。
そのうちの数人がこちらに気付いたようで、何かを叫びつつ手を振っている。
「あっ、あれは……彩夏ちゃん!」
「草津と水沢も居るわね」
「3人とも早いよぉ!」
それに気づいた女子3人が広間の中央に居る火村達の方に向かって走っていく。
「えー、ミユちゃん待ってー!」
……その後ろをコースが追いかけていく。
っていうか、皆『疲れたー』とか言っときながら意外と元気だな。
「矢野口さん達に負けてらんないっス! 俺らも行くっス!」
「俺たちも皆の所に行こう!」
そう言って、男子も可合たちを追いかけるように走っていく。
「よし、じゃあ俺達も行くか、勇太!」
「あぁ、そうだな。私も団長に到着報告をせねばな」
……神谷は一体、どこまでプロクラス委員なんだろうか。
彼1人だけ考えてることが違うよ。
「ボクたちも行こうよ!」
「そうだね。行こう、計介くん!」
「…………」
「あぁ、そうだな」
飼塚、盾本、森が僕を急かす。
よっしゃ、そんじゃあ僕も行くか!
「あ、先生、待ってくださーい!」
「置いてくなよ、先生!」
お前達もついて来い!
広間の中央に居たのは、先に最下層に到着していた火村、草津、水沢、斉藤、芳川の5人。
それと戦士団の戦士の皆さん、連合の魔術師の皆さんだ。
その中に団長のプロポートさんも居る。
ゲッ、連合の会長、"要注意人物"の老魔女コレレさんも居るじゃんか。
……できる限り目を合わせないようにしよう。
神谷は団長に到着報告をしている。
「団長、私神谷をはじめ13人、只今到着しました!」
「了解した。合宿お疲れ様だった」
「は、はい!」
「よし、これで勇者18人が全員最下層に到着したな」
「全員無事で良かったです!」
「そうだな」
そうか、全員揃ったか。
大きなケガも特に見られないし、良かったね。
神谷が粛々と仕事をこなす中、メンバーは先に着いた同級生と久し振りの会話を楽しんでいた。
「皆お疲れー! 遅かったわね!」
「ずっと暇だったよー」
「ゴメンゴメン、彩夏ちゃん、佳成ちゃん」
火村と草津が可合と再会を喜ぶ。
「でも、見た所無事で良かったわ」
「うんうん。美優ちゃんたちが中々来ないから、何かあったんじゃないかって心配してたよー」
「ゴメンね、心配かけちゃって。ちなみに、2人はいつココに着いたの?」
「3日前よ」
「え、早くない?」
いや、早過ぎるだろ。
あの巨大迷路を3日でクリアするなんて、一体何があったよ。
僕達の遅さというより、草津達の早さの方が心配になるわ。
「まあー、斉藤くんが速攻で迷路をクリアしちゃうからねー」
「斉藤の戦士スキル、あれ強力だったわね」
「そーそー、あと芳川くんも戦士スキルで無双してたしなー」
ふぅーん。
あのクソ共、意外と職を活かして迷宮をクリアしたのな。
「勇者諸君、聞いてくれ」
そんな感じで僕達が会話を楽しんでいると、団長のプロポートさんが大声で僕達を呼び集めた。
ドーム状の最下層に強面なプロポートさんの声が響く。
「諸君も知っているであろうが、勇者養成迷宮合宿の参加者18名全員が目的地である此処、最下層に到着した。合宿中に危ない面のあった者も幾らか居たが、大きな怪我もなく無事全員到着でき、大変良かった」
そして、団長が顔に笑みを浮かべてこう言った。
「この数日間、良く頑張った。疲労も溜まっているであろう。只今を以って勇者養成迷宮合宿を終了とし、今晩は此処にて一泊、翌朝よりテイラーに向けて帰還とする。諸君に話す事もあるが、それも明日だ。皆御苦労であった!」
「「「「「ヨッシャー!!!」」」」」
「「「「「オオォォーー!!!」」」」」
団長の締めの言葉と同時、同級生達も歓声を上げて合宿の終了を喜んだ。
さてと。
なんとか迷宮の最下層に辿り着き、勇者養成迷宮合宿は無事終わった。僕も皆も新スキル・新技を覚えたりして強くなったけど、僕には【合同Ⅰ】という新たな目標も出来た。
こっからも頑張らなきゃな。
現在の服装は麻の服に白衣。
重要物は[数学の参考書]。
職は数学者
目的は魔王の討伐。
準備は整った。さぁ、この先ももっともっと強くなりますか!
7章・合宿編、ついに終了しました!
1ヶ月を超える長い章となってしまいました。なんでこんな事になったんだろ……




