7-35. 在処
合宿6日目。
午後8時40分。
「此処も行き止まりだ! 残念だったな」
「はい、ポイントCも行き止まりでした。あとはDとEの2箇所です!」
「「「あぁー……」」」
神谷とシンがそう告げると、数人がガックシと頭を下げる。
「あークソッ、C違ったか!」
「ハッハー、残念だったね強羅くん。敗者チームにようこそ!」
「チッ。全然嬉しくもねえ歓迎だぜ、全く」
悔しがる強羅、笑う盾本。
「良しっ、次っス! 次に階段来いっス!」
「いや、Eだ! Eに来てくれ!」
「いやいやDだ! 勝利の女神よ、ボクに勝利を!」
燃える長田、ダン、飼塚。
「みんな熱いねー……」
「なんだか、皆本気過ぎて怖いよぅ……」
「仕方ないわ、合宿代お疲れ様会の費用を賭けた『戦い』だもの」
「…………」
傍観するコース、呼川、矢野口、森。
「そういえば、数原くんってドコに賭けたんだっけ?」
「ん? 僕はポイントDだな」
「っていうことは、数原くんまだ負けてないんだね! 頑張れ!」
「お、おぅ。ありがとう可合」
……まぁ、現在かなりカオスな状況になってるな。
今何が起こっているかを説明すると、こんな感じだ。
順調に5層目の探索も進み、魔物も安定して倒せるようになった。
『迷路には環状になった通路がある』という経験も既に3層目で得た。
そして結構精密な地図を描くマッピング師も居る。
そんな僕達であれば、巨大迷路をクリアすることなんて難しくない。
という訳で、僕達は時間を掛けて5層目の殆どの探索を終えた。
5層目にも環状があり、通路は大きく見て『日』の字形になっていた。
まぁ、『日』の字の下の『口』をグルリと一周し、上の『口』もグルリと一周。
そして、最後に外周をグルリと一周。
残りの未探索ポイントも僅かになった時の事だ。
『フゥ……行き止まりだな。シン君、残りの未探索ポイントは幾つかい?』
『はい。えーと、1、2、……5箇所ですね』
『有難う。最下層ももう直ぐだな』
『そうですね。この中のどこかに最下層に繋がる下り階段が有るんですもんね』
『ん、残り5箇所か……良し、イイ事を思いついたぜ!』
『なんだい拳児?』
『長かった合宿ももう直ぐ終わりだ。だけどよお、ただ「着いたー」で終わるのもつまんねえじゃねえか。だからさ、最後に5箇所のどこに下り階段があるか、賭けをしねえか?』
『おぉ、面白そうじゃんか!』
『賭けって、何を賭けるのー?』
『んー、そうだな。じゃあ、「合宿お疲れ様会の費用免除」。これでどうだ?』
『良いね、そうしよう!』
『それでは、この先5箇所の分岐を手前からA、B、C、D、Eとします。この中のドコに階段があるか、在処を皆さん決めてください!』
強羅の思い付きに盾本が賛同。
シンも乗り気で、ゲームを仕切り始る。
特に反対意見も出ないようだし、皆賭けに参加するようだ。
夜の8時だったし、合宿6日間の疲れもあってか、最後の最後になって皆揃って変なテンションになっちゃったようだ。
そんな訳で、現在のカオスな雰囲気が出来上がってしまった。
僕的には、結構疲れたし普通に「あー、最下層着いたー」で良いと思うんだけどね。
「……っていうか、今更なんだけど『合宿お疲れ様会』って何?」
行き止まりから引き返し、ポイントDに向かいつつ『賭けのキッカケ』を思い出してたんだが、そういえば強羅の言ってたモノが気になった。
なにその打ち上げ的なやつ。
聞いてないんだけど。
という事で今更なんだけど可合に聞いてみる。
「ああ、数原くん知らないんだったね。あれだよ、合宿の打ち上げ」
それは知ってる。
「合宿が始まる前に、無事合宿を終えられたらテイラーで『お疲れ様会』やろうって私たちで決めたんだ」
「そうだったんだ」
「ゴメンね、計介くんに伝えるの忘れてたよ」
「まぁ、僕も非戦闘職ながら飛び入り参加だったしね」
合宿直前にサプライズゲストみたいな登場だったし。
僕の参加を知らなくて当然だ。
「数原くんも参加するよね、打ち上げ」
「あぁ、出来れば僕も行きたいな」
こういうのには、僕はいつも参加している。どれだけ面倒でも毎回参加だ。
これもボッチ回避の一環である。
そんな事を言っている間にポイントDに到着。
分岐を右に進む。
「さあ、階段よ来てくれっス!」
「階段! 頼むよ!」
長田と飼塚が改めて燃える。
一応僕もDを選んだ身だ、一応階段が来ることを願っておこう。
「いや、壁だ! 行きどまってくれ!」
「まあ、私も一応E選択だからね。行きどまって欲しいわ」
「…………」
Eを選択したダン、矢野口、森もそう言って祈る。
……今までの合宿では絶対有り得ないセリフだな。
13人が無言で通路を進む。
皆の鼓動が聞こえそうなくらいだ。
矢野口が目を瞑り、祈りつつ歩く。
滅多に心を乱すことの無いダンが、額に汗を浮かべて緊張しつつ歩く。
長田が握った掌を開いてはズボンで拭きつつ歩く。
僕も少し緊張しているようだ。
そう長くない通路を歩いているはずだが、妙に長く感じる。
そして、ついにその時が来た。
「あっ、通路の終わりが見えてきました!」
「「「「「おぉっ!」」」」」
「「「階段っ!」」」
「「行き止まりっ!」」
通路の奥に、何かが見えた。
歩いて行くにつれ、それが徐々に明らかになっていく。
「さあ、ポイントDの先は……」
全員が黙って通路の先を見る。
そこにあったのは、下り階段だった。
「階段だ!」
「「「ヨッシャーッ!」」」
「「ああアァァァァァァ……」」
神谷の発表と共にそれぞれのチームが喜び、悔しがる。
「最下層への階段があったのはポイントD! D選択のオサダさん、ヤノクチさん、先生、おめでとうございます!」
「あざっス!」
「ありがとう! やっぱり勝てると嬉しいわね!」
「おぅ、ありがとうシン!」
そんな感じで賭けゲームは終了した。
いやぁ、やっぱりどんなゲームでもやっぱり勝てると嬉しいね!




