7-34. 計謀
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風の街・テイラーから歩いて半日の所にある洞窟。
その3層目。
ある群勢が2層目から階段を下り、続々とやってくる。
その先頭に立つのは、骸骨の仮面を着けて黒いマントを羽織り、フードを深く被り、ウッドディアーに騎乗する者。
その者、骸骨仮面の後ろに付き従うのは、引き連れてきた大量のウッドディアー。
軍隊の如く、整然と列を為して進む。
骸骨仮面が立ち止まると、後ろの列もピタリと止まる。
そして、骸骨仮面はウッドディアーの方を振り向くと命令を下した。
「お前ら、下層へと続く階段を見つけよ! 手分けして3層中をくまなく探し、発見次第私に直ぐ伝えよ!」
同時にウッドディアーが一斉に鳴き、ピィーピィーという笛のような音が洞窟中に響く。
「行け!」
ドドドドドドドドドドドドドドド…………
そして骸骨仮面が手を振って号令を出すと、ウッドディアーの群勢は洞窟の奥へと進んでいった。
群勢が4層への階段を探しに出発した後。
そこには、騎乗した骸骨仮面と護衛のウッドディアーが数匹、それとウッドディアーに騎乗した金髪の女性が居残っていた。
骸骨仮面と同じく騎乗している女性は。
透き通るような白い肌に金色の長髪。
背中には木製の弓、腰には矢筒。
耳は尖り、纏う服は黄緑色。
そして……表情は抜け落ち、瞳孔は開き、死んだ目をしていた。
「おい、エルフ。勇者共は今どんな状況だ? 先遣隊からの情報を教えろ」
「はい。先遣隊のフォレスト・ラクーンによると勇者18人中5人は既に最下層に到着、残り13人は4層の階段前で休憩中。翌朝より5層に入る模様とのこと」
「ほぅ、そうか。こんな洞窟にわざわざ5日も掛けるとは、人類はやはりバカであるな。私達ならば最下層まで半日も要らぬ」
「…………」
「ああ、そういえばエルフのお前も人類だったな。とはいえ、いとも容易く魔王軍の洗脳に掛けられるお前らも相当なバカであるか。ハッハッハ」
「…………」
「……ハァ、幾ら貶せども、洗脳された頭に届かぬのか」
「はい」
「……届いているのか届いていないのか分からぬな。これだから洗脳された奴を扱うのは難しい」
「……」
骸骨仮面は仮面の上から額を押さえるような仕草をする。
「まあ良い。ではエルフ、先遣隊のフォレスト・ラクーン共に次のように伝えよ。『引き続き勇者共を追跡し、逐一状況を報告。見つかる事だけは避けよ』」
「はい」
そう言って、エルフは無表情のまま魔法を唱え始めた。
骸骨仮面も、その状況を見て仮面の中で笑みを浮かべる。
「さあ、あの勇者へのお返しももうすぐだ。ついでに他の勇者共も纏めて消し去ってしまわねばな。ハッハッハ……ハーッハッハッハ……」
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【直線比例Ⅰ】を習得した翌日。
朝8時丁度。
「皆おはよう」
「「「「おはようございます」」」」
「おはよー!」
「おはよう!」
「お早う」
「うっす」
「おざっス!」
まぁ、昨日までと同じ感じの朝だ。特に変わったことは無い。
「ついに5層目ですね、先生!」
「おう、そうだな。やっとここまで来たよ」
「気付いたら5層目なんだねー! 早い早い!」
確かに、コースの言う通り長いようで短いモンだな。
思えば大波に流されたり、シン・盾本・可合が新技を覚えたり、水不足に陥ってゾンビと化していた長田達を救助したりした。
それももう何日前か、って感じだよね。
「いやぁ、長かったっスね! 特に水不足で死にそうになった時は本当にキツかったっス!」
「そうだな長田君。だが、まだゴールである最下層にも辿り着いてもいないのに、それを言うのは早いのではないか?」
「そうっスね! 『遠足は家に着くまでが遠足』っスもんね!」
遠足じゃなくて合宿だけどな。
まあ、こんな感じで皆お喋りしている。
朝から元気で宜しいな。
これなら今日中に最下層に到達できるかもね。
よし、それじゃあ合宿6日目も頑張っていきますか!
階段を下りて5層目に到着したが、まぁ、風景は変わらず洞窟だ。今までの上層とも変わりは無い。
そして洞窟を探索。
マッピングは引き続きシンと神谷にお願いし、分岐に差し掛かっては左に進み、引き返しては右に進み、ってのを繰り返す。
時々現れる魔物は皆が相手をして撃破だ。
シンや可合、盾本達だけでなく長田達の合流組も攻勢に参加している。
長田は[金属バット]でロック・ピルバグを打ち返しだ。
あんな岩球、よく打ち返せるよな。金属バットが折れたり曲がったりしないか心配だ。
矢野口は[弓矢]でルート・バインダーを遠くから一方的に射抜いている。
ルート・バインダーの根っこすら届かない距離からの射撃だ。しかも一発たりとも外さない。
この腕の良さ、もはや芸術といっても良いんじゃないかな。
森は[斧]で何でも真っ二つだ。
他の武器と比べてパワーが違う。
ルート・バインダーは言うまでもないが、突進して来るロック・ピルバグに対しても斧で迎え打つと、硬い岩の甲殻にヒビが入るほどだ。
ちなみに、飼塚と呼川は全く攻撃に参加してない。
『魔力の消費が激しいから、ここぞという時に』って言ってセーブしてるようだ。
それぞれ【従魔魔法】【召喚魔法】を使うらしいんだけど、一体どんな魔法なんだろうか。
見てみたいな。
まぁ、皆頑張ってるけど僕は【演算魔法】を掛けて援護してるだけだ。
楽しちゃってゴメンね、皆。
さて、魔物を倒すのも順調。
探索も順調。マッピングも進んでいる。
最下層までもう少しだ!




