7-31. 彷徨
5日目の朝。
現在時刻は8時丁度。
「皆、おはよう」
「「「「おはようございます」」」」
「おはよー!」
「お早う」
「うっす」
「…………おはよう」
「おざっス!」
……なんか人数増えたな。
もう人数を数えるのも面倒になってきた。
「盾本は起きてるか?」
「おう、起きてるよ計介くん!」
「じゃあ全員揃ってるな」
「いやいやいや、どういう意味だよ!?」
遅刻魔が居れば皆揃ってる。
簡単な話じゃんか。
「よし、じゃあ出発しようか。長田達5人も一緒に行く?」
「是非お願いするっス!」
「オッケー! じゃあ、合計13人か(【加法術Ⅲ】利用:8+5=13)。結構人数増えたな」
とんでもない大所帯だ。
確か合宿参加者が18人(【加法術Ⅲ】利用)だったから……
僕達のグループだけで参加者全体の72%を占めていることになる(割合の計算利用: 13 ÷ 18 ×100= 72 )。
ついに7割を超えてしまった。
まぁいいや。どれだけ人数が増えてもやる事は同じだ。
「じゃあ、合宿5日目も頑張っていこう! 目指せ6層目!」
「「「「「おう!」」」」」
「「「はい!」」」
「応!」
「うっす!」
「うス!」
……やっぱり人数多いな。
「あぁ、シン、神谷。また4層目もマッピングをお願いできるか?」
階段を下りつつ、そうお願いする。
「無論だ。任せてくれ、数原君」
「勿論です、先生! 階段の下まで行ったら紙とペンをお借りして良いでしょうか?」
「オッケー、後で渡すよ。宜しくね」
もうこの2人はプロマッピング師だな。
いっそのこと『剣術戦士』より『地図職人』とかの職に就いた方が良かったんじゃない?
おっとっと、今のはオフレコだ。僕の頭の中に留めとこう。
地図を描いてもらっといて今の発言は失礼極まりないな。
だが、3層目の探索で『マッピングの重要さ』を思い知らされた。
まさか迷路にループがあったとはね。
「数原君っ! マッピングとは……地図を作って探索しているって事っスか?」
そんな事を考えていると、長田が僕にそう尋ねてくる。
「おぅ、そうだよ」
「本当!?」
「そうだけど」
「やってるんスか!?」
「おぅ、神谷とシンにやってもらってるけど……」
どうしたよ?
長田も矢野口も、そんなに聞き返すほどの事かな?
「ぜ、是非4層目のマッピングをしてほしいっス! 俺からもお願いしゃっス!」
「え……は、はい、勿論です。言われなくとも今まで通り、マッピングしていきますよ」
「心配無用だ、長田君。私とシン君で行っていくよ」
長田の異常な喰いつきっぷりに、若干引きつつもそう言うシンと神谷。
マッピングに何か思う点があるんだろうか。
「あざっス!」
「あぁー、これでボク達も進める!」
「なんとか4層目を突破できるよぉ……」
「……助かった…………」
マッピング師が返事すると共に、途端に安堵する合流組。
『進める』? 『突破できる』?
うーん、何かあったんだろうか?
「長田の喰いつきっぷりといい、その安堵の表情といい、今まで何かあったのか?」
「ああ、数原君っ! 実は俺ら、4層目で道に迷っていたっス!」
「3層目までは順調に進めていたんだけど、4層目でスランプに陥ったというか、どれだけ歩き回ってもワタシたちは5層目に行けなかったの」
「ボクのアイデアもダメだったし……」
「あぁ、『左手で壁を触りながら進めばゴールに辿り着く』ってやつだよねぇ」
「結果、4層目を彷徨い続けて水不足に陥ったっス!」
成程ね。
幾ら歩けど下り階段の見つからない絶望の渦中で、更に水不足に苦しんでいたと。
頭の中に、長田達がゾンビの如く水と下り階段を求め彷徨うイメージが映る。
……こう考えると、昨晩の『謎の音』の正体はゾンビで正解だったかも。
済まんなコース、君の答えは正解だった。お詫びして訂正するよ。
「そうだったんだ……真弓ちゃん、召子ちゃん達、お疲れ様だったんだね」
「いや、でも美優達が来てくれたお陰でなんとかなりそうだし」
「水も貰えて5層目にも進めれば、結果オーライだよぉ」
うん、思ったより皆精神的には元気だね。
良かった。ゾンビ化してなくて。
「ところで、先程飼塚君の言った『左手で触りながら』という物は迷路をクリアする上での典型的な解法として有名だ。私達も理論的に同じ方法で此処まで来た。だが、今回の迷宮ではそれが通用しない事が既に判明している」
「本当に!?」
「ああ。現に3層目はそのようになっていた」
「それじゃあ左手でダメだったから、次は右手ではどうっスかね?」
え、それ意味あんの?
「いや、それは無駄だ。本っ当に無駄だ」
神谷が長田の発言に呆れる。
『誰に対しても誠実対応』で有名な神谷がそんな姿を見せるとは……!
「詳しくは後程、ある程度地図が出来上がってから話そう」
「うっス! お願いしゃっス!」
そんな事を言っていると、階段の終わりが見えてきた。
「君達、間も無く4層目だ。皆頑張ろう!」
「「「「「おう!」」」」」
さて、じゃあ4層目も頑張っていきますか!
3層目までと同じようにマッピング師を先頭にして、迷路状に通路が広がった迷宮を歩いていく。
4層目を下りた後も、分岐に差し掛かっては引き返してを繰り返した。
そして、探索を開始して3時間程が経った頃。
「今まで俺らが彷徨ってた4層目は、こんな形をしてたんスね!」
「ワタシたちも紙を持っていれば……」
「召喚前なら、ボクのリュックにノートやルーズリーフを幾らでも持ってたのにな」
「確かにぃ」
長田達がシンの描く地図を見てそう言う。
まぁ、僕も只の計算用紙がまさかここまで役立つとは思いもしなかったよ。
シンの描いた地図を僕も見せてもらうと、そこには僕達の通った道筋が大きく見てS字型に伸びている。
さて、4層目はどんな形になるのかな。
早く地図が完成しないかな。
あぁ、いやいや飽くまで目的は『下り階段を見つける』事だった。
そこを間違えちゃいけない。
さて、4層目の階段は何処にあるかな?
気付いたら7章だけで一ヶ月が過ぎてました。
こんなに長くなるとは……。




