1-7. 同級生
その後、ココに居る全員が職を授かり。
王女様が僕達の職を一通り尋ねて回ると……。
「それでは皆様、次のご予定まで時間が空きますので、この聖堂内で少々お待ちください」
そう言ったっきり、僕達の職一覧を書いたメモを持って王女様は聖堂を出て行ってしまった。
という事で、しばらく自由時間となった同級生達は雑談タイム。
仲の良いグループを作っては勇者召喚や、重要物、ついさっき手に入れたばかりの職の話で持ち切りだ。
僕も、普段ならアキと一緒に他愛もない話をして楽しんでるハズだった。
普段ならそんなハズだった――――んだけど。
「ぅぅぅ…………」
今の僕はそんなテンションじゃない。
長椅子の端っこに腰掛け、頭を抱えるので精一杯だった。
……これはヤバい。マズいぞ。
最悪だ。本当に最悪だ。
せっかく異世界に勇者召喚されて、戦士になって暴れまわる気満々だったってのに……武器すら持たせてくれないのかよ。
『剣術戦士』の神谷や『格闘戦士』の強羅達と一緒に戦場を駆け回る自分を想像してたのに、そんな想像も全部幻だ。
戦場にも赴けないんじゃ、『光系統魔術師』になった可合や念願の『火系統魔術師』を手に入れた火村達が魔法で活躍する所だって見られない。
名前からして既に気になる『召喚魔術師』の呼川さんとか、『従魔魔術師』の飼塚くんの魔法すらお目に掛かれないんだぞ。
……まぁ、非戦闘職を授かったのは僕だけじゃない。
他にも数人居るっちゃ居る……んだけど、彼らは彼らでしっかり活躍できそうなんだもんな。
アキの職は『雑貨商人』。商学部の大学を志望しているのもあってか、『下手な戦士より良いぜ』って言ってた。
飛行機やら鉄道やらバスといった乗り物好きな男の子、轟翔は『輸客商人』。もうなるべくしてなったようなモンだ。
うちのクラスに居る有名企業の御曹司・金澤くんの職に至っちゃ『貴族』。もはや日本時代の職を引き継いだとしか思えない。
そもそも『貴族』って職なのか?
……とまぁ、そんな感じだよ。
周りを見れば、神様の職選びはしっかり見定められてる。……けど、よりによってなのは僕だけ。
しかもピンポイントに最悪な職。せめて『数学者』以外の職なら何でも希望は見えてたってのに。
「ぅぅぅ…………」
……駄目だ。
異世界の勇者生活、もう2日目にして詰んだかもしれない……。
僕はもう、頭を抱えて唸ることしか出来なかった。
ただ、『泣きっ面にハチ』とはよく言ったもので。
こんな落ち込んでる時に限って、更に面倒事は増えるモノだ。
「あっ、こんな所に数原ハッケーン!」
「1人で俯いちゃってどうしたのかな~? 計介くぅ~ん?」
端っこで独り俯いていた僕の所に、わざわざ声を掛けにくる奴らが。
……こっ、この声は。
「この斉藤魁と芳川竜が、落ち込んだ数原くんを慰めに来てあげましたよ~」
「…………」
……いや。コイツらは決して慰めに来たんじゃない。
全校レベルで有名な、イジメっ子の2大巨頭・斉藤と芳川。奴らにによる――――僕のロックオン宣言だ。
あー、最悪だよ最悪。
タダでさえ気分が気分だってのに、奴らにまで目を付けられるなんて。
けど、僕は知っている。揶揄ってくるコイツらへの適切な対処法を。
それは……無視。嵐が去るまで、ひたすら無視を決め込めばいいのだ。
「ケイスケくん。数学者だったんでちたかー」
「よちよちケイスケくん、かわいそうでちたね~」
「…………」
色々と言われるけど、頭を抱えたまま動かない。
喋りもしない。
「ッつーか、こんな異世界に来てまで数学を勉強する気だなんてマジ尊敬」
「いやー。数原くんの勉強熱心さには頭が上がりませんわ」
「…………」
分かっていながらそう言ってくる奴らに腹が立つけど、今は絶対に動かない。
無視だ無視。
「このままじゃ俺ら、定期試験の点数抜かれちゃうんじゃね?」
「かもな!」
……そういえば何でコイツら、イジメっ子のクセして地味に成績が良いんだよ。
「ところで、数学者って『識者』の分類なんだよな?」
「だとしたら数原くぅ~ん、戦場出れないね?」
「…………」
「戦いにすら出れねぇとか、数学者残念過ぎるな」
「あ~あ、ケースケくんは異世界に召喚されても街で居残りでしたとさ。めでたしめでたし」
「「ハハハハハッ……」」
「…………」
僕自身でもそんな嫌な想像はしたけど、口に出されると尚更嫌になる。
普段なら気にもならない奴らの罵倒が、職の事と相まってメンタルをガリガリ削っていく。
「まあ、『罠術戦士』の俺と『斥候戦士』の斉藤が数原くんの分まで戦ってやるからさ」
「数原くんは街から俺らの応援してくれや」
「「ハハハハハッ……」」
「…………」
「……あららっ? 返事が無え」
「もしもーし。数原計介くん、聞こえてますかー?」
「……」
「聞ーこーえーてーまーすーかーッ!」
「…………っ」
今度は耳元で叫び声。痛い痛い! 鼓膜が破れる!
……とは思いつつも、ひたすら我慢。
ここで耳を押さえたり唸ったりすれば今までの無視が水の泡だ。
「……………………」
「あ~ぁ、どうやら数原くん沈黙モード突入でーす」
「『沈黙』の状態異常でも入ってんじゃね?」
「すみませーん、誰か数原くんのステータス見てやってくれませんかー?」
……奴らがそう声を掛けても、周囲の同級生達は誰一人反応しない。目を向けようともしない。
反応すれば次の標的になるだけだから。
「クラスの奴らも冷てえなあ。かわいそうに数原くぅ~ん、皆に見捨てられちゃったね」
「大丈夫、これからも俺らがずっと傍に居てあげるからねー」
「「ハハハ……」」
「…………」
……そして、最後にそう一頻り笑うと。
奴らの足音は、遠くへと動いて行った。
なんとか嵐は過ぎ去ったものの……ズタボロにされた僕のメンタルも、もうギリギリだった。
 




