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7-28. ♀

さて、この3層目のトリックを説明しようか。


多分僕の考えで間違いない。

地図も正確、道も見失っていない、誰も間違っていない。

悪かったのは、皆の『思い込み』だ。



「シン、ちょっと地図を見せて」

「あ、はい。どうぞ、先生」

「ありがとう。……えーと、ちょっとココを見てくれ」


地図の(ユー)字形になった道筋、その左端を指差す。


「3層目のスタート地点だな」

「そう。ここから先の分岐7つと、今いる所から手前の分岐7つ、同じ形状をしているんだ」


そう言い、指を右端に移す。


「左右左左右右左……、こっちも同じじゃねえか!」

「それに道の形もよく似ている。これは偶然の一致ではないだろう。良く気付いたな、数原君」

「おぅ。僕の【合同Ⅰ】(コングルーエンス)っていう魔法で調べたら、形がピッタリ一致したんだよな」



そう。

どちらの階段からの道筋も『そ』の字っぽいなーって思って、そこから妙に形が似てる事に気付いたんだよね。

そこで【合同Ⅰ】(コングルーエンス)を使ったら、『7つ目の分岐までの線が合同だ』ってイメージが頭の中に浮かんだのだ。


ちなみに、2つの図形を比較する【合同Ⅰ】(コングルーエンス)の能力だが、只の線でも使えた。三角形や四角形だけでなく、只の曲線とかも『図形』に入るようだ。



長くなってしまったが、そこから言える事はつまりこうだ。


「だから何だ、オメェの言いたい事は」

「つまり、この地図の右の階段も左の階段も、今僕達が居る所を表してる。ここから7個の分岐も同じ道を示しているんだ」

「そうか、つまり8個目の分岐から、通路が()()()になっているんだ」

「そう、だと思う」



今まで僕達が歩いて来た3層目の形は『(ユー)』でなく、『(メス)』の形になっていたんだ。『+』の部分が今いる階段から7個目までの分岐の道で、『+』と『○』の繋がる部分が8個目の分岐。

僕達は1日半ほどかけて、『+』から『○』に入り、時計回りに進んで『+』に戻って来てしまったんだろう。


いつまで経っても上り階段に戻って来てしまった理由が分からなかったのは、皆の頭が『迷路は()()()』という考えで固まり、『いつの間にか引き返していた』という前提で話していたからだ。

正しくは、『通路が途中からループしているから』だ。これならば、来た道を引き返さずとも元来た道に戻ってしまう。



「それじゃあ、私の地図は描き間違ってはないけど、正しくもなかったって訳ですね」

「…………多分そっすね」


ごめん、シンの言ってる言葉がちょっと難しくてこんがらがったので適当に返事しといた。


「つまり、ココとココを繋いでココから先を消せば……ループが出来ました!」


シンが地図に手を加えると、(ユー)字形だった地図はイビツな(メス)字形になった。


「これで正しい地図になったんだな」

「そうですね。流石、私の先生です!」

「まさか迷宮(ダンジョン)の通路にループがあったとは…………思いつきもしなかったよ」

「……良く分かんねえけど、それが正しい地図なんだな、数原」

「おぅ」


正しい地図が出来た。トリックも分かった。

後は3層目のゴールを探すだけだ。


「となると、下り階段の位置は未だに探索が進んでいない部分だな。この地図で言えば……此処と此処、それと此処の3箇所か」

「どれもループの内側ですね!」

「成程、だから下り階段を見つけられなかったんだね」






そんな感じで、こうして『気付いたらスタートに戻ってた』事件は幕を下ろした。


混乱していたメンバーはこの話を聞いて驚いていたな。やっぱり誰も『通路がループしていた』とは思いつかなかったようだ。


いやー、それにしてもまさかこんな所で【合同Ⅰ】(コングルーエンス)が役に立つとは。シンの描いた地図のお陰で『線の形が同じ』事に気付けたのだ。

この事件のMVPは地図と【合同Ⅰ】(コングルーエンス)だな。昨晩、学習した甲斐があったよ。


コレが無ければ僕達は3層目で永遠ループだったかもしれない。



という事で、目指すはループの先、3箇所の未知の領域だ。


「ここが8個目の分岐ですね。私達はこの分岐を左に曲がってループに入り、右の道から帰って来た、という訳ですか」

「そうだな」


そして、僕達はループに入った。



いやー、地図があるって良いね。

地図を作りながら進む時よりも気楽に行ける。


ここに来て地図の有り難みを感じたよ。

この迷宮(ダンジョン)にも『スマホのマップ機能』が有れば最初から楽だったのになー。



そんな事を考えているうちに、1つ目の分岐に到着。


「それでは、此処を右に曲がるんだな」

「はい、そうです」


僕達8人は、分岐を右へと曲がる。



「あぁ、もうさっさと下り階段が見つからないかなー……」

「ホントだね、コースちゃん」


そんな会話が所々でされている。

皆も少し緊張が解けてきたようだな。






そして。


「お、アレは……階段だ!」

「よっしゃぁ! 今度こそ下りだな!」

「ヤッター! ミユちゃん、やったねー!」

「本当だね、コースちゃん! あぁぁ、疲れたよぅ……」


それぞれが思い思いに喜びの声をあげる。

いやぁ、やっと着いたよ。

これで長かった3層目ともお別れだ。


次第に通路の終点に近づき、下り階段が光に照らされてハッキリと見えてくる。



「ッハー、疲れたぜ。もう今日はココで終了、それで良くねえか、オメェら?」


強羅が地面に尻をつき、そう言う。

……お前、もう既にココで休む気満々じゃんか。


「ああ、そうだな。今日は体力的にもそうだが、先程の件で精神的にも割と疲れた。現在時刻は…………午後5時半過ぎか」

「まぁ、焦る事は無いでしょ。団長さんは『迷宮(ダンジョン)の攻略には1週間位掛かる』って言ってたし」

「そうだな。盾本君の言う通りだ。無理をせず此処で今日は探索を終了、明朝から4層目へと突入しよう。それで良いかい、君達?」

「「「「「おう!」」」」」



ってな感じで今日はココでお終いだ。

結果的には『3層目を無駄に歩いてしまった』事になるが、『ループ状の通路がある』っていう事実が分かっただけでも大きな収穫だ。

昨日今日の頑張りは無駄じゃ無いだろう、きっと。






それぞれのメンバーが4層目へと続く階段の近くで寝袋を広げ、テントを張り、輪になって夕食を楽しむ。


寝る準備を済ませ、見張りのローテーション確認も済ませ、全員が寝ようと思ったその時。



「………………ぅぅぅぁぁぁああああぁぁぁ」


声のような謎の音が、洞窟中にこだました。


「ヒッ!?」

「え…………」

「……ね、ねぇ計介くん。今、何か聞こえた?」

「……おぅ。盾本もか」

「数原くんも盾本くんも聞こえたって事は、幻聴じゃないんだね……」


僕含め、メンバーが一斉に恐怖に陥る。

何の音だよ……。

まさか、下の階層にはまた新たな魔物が居るのか?


「今の音は……階段の下の方から聞こえてきたようだが、一体何の……?」

「も、もしかして……ユーレイ!?」

「や、やめてよコースちゃん、こ、怖いこと言うの」

「じゃあー、ゾンビ!?」

「キャーーーッ!!!」


そんな中、唯一恐怖に陥っていないコースが可合のメンタルをガリガリ削っていく。

こいつ、素でこういう事やるからな……。

ある意味怖いよ。



「なんだオメェら、ビビってんのか」


あぁ、恐怖に陥ってない人がもう1人居た。


「い、いやビビってはいない。……け、警戒。そうだ私達は警戒しているのだよ拳児ビビってなんかいないさ」

「……ハッ、分かってるよ。勇太が早口になるのはいつも『ビビってない時』ですもんな」


そう笑いながら拳児が言う。

……神谷、動揺を隠しきれてないじゃんか。速攻で見破られてるぞ。



いやいや、そんな事よりだ。

謎の音、アレ一体何だったんだ……?


「そそれなら拳児、先程の音の正体を確認してきてくれよ」

「あぁ、良いぜ。ビビリな皆様の為にちょっくら行ってくらあ」


神谷のお願いに快諾し、強羅は1人で階段を下りていった。

強羅のメンタルも凄いな。



一体、さっきのは何の音だったんだろう…………?

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以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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