表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/548

7-27. 混乱

さて、僕のLvアップがあってから1、2時間くらいだろうか。


シンにもその瞬間がやって来た。

相手はルート・バインダー1頭。



「シン君、今までに私が伝えた事を思い出して、やってみるのだ」

「はい、カミヤさん!」

【乗法術Ⅱ】(マルチプリケーション)・ATK3、DEF3。これで攻防ともにバッチリだ。頑張れ、シン」

「ありがとうございます、先生!」


そう言うと、シンは剣を抜きルート・バインダーの方を向く。



両手で剣を構え、ジッとルート・バインダーを見るシン。

格闘術のような構えを取り、正対するルート・バインダー。


一瞬の沈黙が場を支配した後————



両者は動いた。


ルート・バインダーが右腕を前に突き出す。


「っ来た!」


何度も見た攻撃パターン。


右腕の根っこがシュルルルっという音と共に伸びる。

凄い勢いで伸びる根っこはシンの顔面へと迫る。



が、シンも既に見切っている。

シンに届く直前、剣で根っこを払い、首を曲げて避ける。


そしてその隙を逃さず、一気にルート・バインダーへと駆け寄る。



……見た事のある流れだ。

間違いない。

昨日神谷がやっていた『突き』の動作そのままだ。


超が付くほど真面目なシンだからこそ出来る、技だけでなく立ち回りまで忠実にコピーした動き。

『新しい事を学ぶ時にはまず模倣から始まる』という言葉があるけど、正にそれを体現しているようだ。



シンが間合いがどんどん詰めていく。


そして————



「ッ()キイイイィィィッ!!!」


神谷と同じ掛け声で、剣を水平に突き出す。

ピンと腕を伸ばし、勢いをそのまま剣に伝える。



ミシミシミシッ!


ルート・バインダーの胸に突き刺さった剣は、木が割れるような音と共にスルスルと入っていき。



バキバキッ!


そのまま、剣はルート・バインダーの背中を貫いた。






===========

アクティブスキル【強突Ⅰ】(ストロング・スラスト)を習得しました

===========



「お、おぉぉ…………」


目の前に現れたメッセージウィンドウを眺めるシン。


「いい『突き』だった、シン君。完璧な一本だったよ」

「…………あ、カミヤさん!」


腕を組みつつ見ていた神谷がそう言うと、シンはウィンドウから目を離して神谷と目を合わせる。


「ありがとうございます! カミヤさんのお陰です!」

「そんな事はないさ、君の努力の結果だ。その調子でこれからも頑張るんだ、シン君」

「はい!」


そして、2人は大きなマメの出来た手で固く握手を交わした。



そんな感じで、可合は【光線Ⅰ】(ライト・レーザー)を、盾本は【硬叩Ⅰ】(ハード・バッシュ)を、そしてシンは【強突Ⅰ】(ストロング・スラスト)を無事習得出来た。


いやぁ、良かった良かった。











シンが強烈な突きを決めた後、再び探索が始まった。

毎回思うんだけど、ずっと同じ洞窟が続く。

魔物も勿論現れる。ケーブバットの奇襲には毎回驚かされるし、ロック・ピルバグの回転攻撃やルート・バインダーの根っこの腕が伸びるのは見ているだけでヒヤヒヤする。


のだが、心なしかメンバーは割と上機嫌だ。

それぞれが教え、教わった新技をモノにできたんだ。そりゃ浮かれちゃうよな。


だが、そういう油断した時に限って何か起こるモンだ。



「何か見えてきたぞ!」

「お、本当ですね! 階段でしょうか?」


先頭を歩くマッピング師の2人が何かを発見。


「まだ遠すぎて分からないが、近づけば分かるだろうな」

「あぁー、ついに4層目ですね! ゴールの6層目までもう少し!」

「よっしゃ! オメェら、気合い入れて行こうぜ!」

「うん!」

「ああ!」

「おぅ」



強羅のお陰で気合い注入された僕達は、自然と早歩きになる。

目に映るのは、通路の先にある階段。



だが。


「こ、これは…………」

「マジかよ!?」

「あ、あれ?」



その先にあったのは階段。

間違いなく階段だ。


但し。



「「「「「()()()()!?」」」」」


2層目へと戻ってしまう、地上へと続く階段だった。



「えー、なんでなんでー!?」

「これは……昨日の朝の所に戻って来ちゃったって事か?」

「いや、『実はこの階段は俺たちが下りて来たのとは別だった!』とかだったりして————

「いや盾本、オメェ団長の話忘れたのか!? 階段は各階層に1つずつだ。まずあり得ねぇだろ」

「あぁ、そうだった。スマン、強羅くん」

「拳児の言う通りだ。階段は1層に下りが1、上りも1であると考えるのが最適だ。団長曰く『ここは初心者向け迷宮(ダンジョン)である』ようだし、難しい事を考えるのは止めよう」


想定外の事態に混乱するメンバー。

しかし、神谷がなんとか纏める。


「じゃあ、これは昨日の朝下りてきた階段、って事か? 神谷?」

「あぁ。そう考えるべきだ」

「じゃあ、道に迷って帰ってきちゃった、って事?」

「ええぇ、それヤバくない?」


だが、神谷の言葉のせいで更に混乱に陥る。

神谷の努力は裏目に出てしまったようだ。


「いや、道に迷うって事は無いはずだ。シンとカミヤさんは地図を作りながら歩いていたんだろ?」

「はい、ダンの言う通りです」


シンがそう言って地図を僕達に見せる。

そこには、僕達が通って来た形跡が描かれている。


沢山の枝分かれがあるが、全体的に大きく(ユー)字のカーブを描いている。

その両端にはそれぞれ、かわいい上り階段のマークが描かれていた。


コースの「今どこー?」という質問に、シンは「ここですよ」と言って右端の階段のマークを指差す。


「じゃあ、シンが地図を描き間違っちゃったとかー?」

「えぇ!? ここに来てコースは僕を疑うんですか!?

「いや、地図に間違いは無い。定期的にシン君の地図を確認していたが、書き損じは無い」

「じゃあなんで戻って来ちゃったんだろう…………



メンバーの混乱は止まらない。

それぞれが誰かのミスを疑う。

そしてまた誰かのミスを疑う。


もう疑心暗鬼状態だ。



いやー、でもなんでこの階段に帰って来ちゃったんだろう……

改めてシンの地図を確認する。


そういえば、3層目だけでこんなに沢山の分岐を通って来たんだな。






…………ん?

これって、もしかして……


【合同Ⅰ】(コングルーエンス)っ!


……うんうん、なるほど。7個目までか。

って事は、アレか。

それなら、ワンチャンあるな。






「だーかーらー、朝イチで出発する道を間違えたんだろ!? それしか無えよ!」

「昨日は分岐で一泊しましたが、道は間違えていません!」

「一晩経ちゃ、来た道がどれで次進むのがどこくらいしか忘れるだろ!」


えぇー!?

少し地図を見ていた間に、周りで喧嘩が勃発してたよ。

強羅が痺れを切らし始めているようだ。


「いや、間違えていない」

「その証拠はあんのか————

「ちょっと良い? 気づいた事があるんだけど」


神谷と強羅の話に割り込んでみる。

強羅がキレて暴走中なので、こうでもしないと僕の話すターンが回って来ないだろうからな。


「なんだよ数原! オメェは関係ねえだろ!」


うぉー、怖っ。


「いや、1つ気づいた事があってね」

「うっせぇ、頭突っ込むんじゃねえよ!」

「なんだい数原君? この馬鹿の事は放っておいて、教えてくれ」

「……お、おぅ」


意外と強羅の扱いが雑なのな。



さて、それじゃあ説明、行こうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 
 
Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ