7-24. 不足
さてさて、お待ちかねの練習問題だ。
新しい【演算魔法】が習得出来るチャンスだ。ワクワクしてしまうが、まずは気分を落ち着けて取り組もう。
A問題の(1)。
①から④に描かれた三角形が、それぞれ何三角形であるかを見極める問題だ。
二等辺だの直角だの正だの、ってやつだな。
A問題の(2)。
二等辺だの直角だのを自分で1つずつ描く問題だ。
これは簡単だ。
A問題の(3)。
(1)と同じく、①から⑦がそれぞれ何四角形かを見極める問題。
A問題の(4)。
これも(2)と同じく、自分で様々な四角形を描く問題。
A問題の(5)。
円についてだ。定規で描かれている円の半径・直径を求め、計算で円周も求める問題だ。
……定規持ってない。まぁ、適当に半径3cmくらいでいっか。
A問題の(6)。
来た! 合同だ!
この問題に入った途端に再び現れる、魔力を吸い取られるような感覚。しかも今度は吸われる力がさっきのより強い。
心臓がドキドキし始める。
どんな魔法かなー……
そんな事を考えつつ、迷う事無く指先から魔力を流す。
ピピッ
ワクワクしている僕の目の前に、突然現れる2つのメッセージウィンドウ。
縦に2枚並んでいる。
「おっ!」
よし来た!
心臓バクバクなまま、青透明のウィンドウに書かれた白字のメッセージを目で追う。
まずは上のウィンドウからだ。
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アクティブスキル【合同Ⅰ】を習得しました
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ヨッシャーーーー!
新魔法ゲットだ!
名前も数学用語そのままだ。きっと【演算魔法】の一員に仲間入りしてくれている事だろう。
やっぱり、新しいモノを手に入れられるのって嬉しいね。
勉強して良かった、この瞬間はそう感じるよ。
さて、じゃあ次のウィンドウを見ていこう。
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【合同Ⅰ】の【状態操作Ⅲ】との併用は、MP不足により出来ません
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……どういう事?
多分、何かが『使用できません』って話だから残念なお知らせ何だろうけど。
【合同Ⅰ】と【状態操作Ⅲ】の併用が出来ない?
じゃあ【合同Ⅰ】単体なら使えるのか?
……うーん、ちょっとよく分からない。
そんな時はステータスプレートで確認だ!
「【状態確認】!」
ピッ
===Status========
数原計介 17歳 男 Lv.4
職:数学者 状態:普通
HP 46/46
MP 41/42
ATK 4
DEF 14
INT 18
MND 19
===Skill========
【自動通訳】【MP回復強化I】
【演算魔法】
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【演算魔法】の文字に軽く触れる。
ピッ
===【演算魔法】========
【加法術Ⅲ】 【減法術Ⅰ】
【乗法術Ⅱ】 【除法術Ⅰ】
【合同Ⅰ】 【状態操作Ⅲ】
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おぉぉ。
ちゃんと【合同Ⅰ】は【演算魔法】の中に入っているな。
【合同Ⅰ】に軽く触れる。
ピッ
===【合同Ⅰ】========
魔力を消費して合同な図形・物体の判定を高速かつ正確にこなせる。
演算能力はスキルレベルによる。
※【状態操作Ⅱ】との併用による効果
魔力を用いて対象と同じ形・大きさの分身を作ることが出来る。
分身の精度・生成個数はスキルレベルによる。
消費MP:50
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……マジかい。
またヤバいスキルを手に入れちまった。
【合同Ⅰ】単体の効果は【加法術Ⅲ】とかと同じく、魔力を消費して合同な図形の見極めが出来るって奴だ。
そこには特に驚かない。まぁ、こう言うのもなんだけど半ば分かってたし。
だが、驚いたのはその次の文だ。
【合同Ⅰ】で『分身を作ることが出来る』らしいぞ!
分身だよ、分身!
きっと、『対象』を僕にすれば僕の分身が作れるかもしれない!
『影分身の術っ!』ってヤツが僕も本当に出来るようになるかもしれないんだよ!
……だが、消費MPがえげつない。
【加法術Ⅲ】も【乗法術Ⅱ】も【解析】も、少なくともMPは1か2で発動出来たのに。
そこで消費MP50って、一体どんな魔法なんだろう?
MPを50も使うのだ。きっと相当凄い魔法なんだろう。
思えば、【乗法術Ⅱ】はたったのMP3でステータス1つを3倍させる壊れ性能だ。
今の僕のMPで足りないほどの魔力をつぎ込む魔法、コレは期待できるぞ!
ぶっ壊れ性能かもしれない。
……あぁ、忘れてた。
ふと視線を下げると、そこには参考書の練習問題のページが。
そういえば練習問題の途中だったな。
とりあえず【合同Ⅰ】の件は頭の片隅に置いといて、練習問題の続きをやっていこう。
A問題の(6)はーっと…………
「フゥー……、終了っ!」
よし、B問題の(10)終わりっと!
意外と時間が掛かった。
ただ計算するんじゃなく、図形を見比べたり、公式を思い出して当てはめていくって作業に結構手間取ったからかな。
あぁ、そうそう。
ちゃんと【合同Ⅰ】は単体なら発動した。
A問題、B問題の(6)は合同の問題で、7つある三角形・四角形のうち合同な組合せを見極めるというものだった。
だが、『【合同Ⅰ】っ』って唱えるだけで一瞬だ。頭の中にポンっと、白背景に黒字で『①≡④, ②≡⑦, ③≡⑥』といったイメージが浮かび上がるのだ。
これは簡単だったね。
さて、頭の端っこに置いていた【合同Ⅰ】の件をもう一度引っ張ってくる。
新スキル、早く使ってみたいものなんだけど……。
MP50消費なんだよね。
使いたくても、最大MPが50以上無いと魔法を発動出来ない。
そうなれば、僕のやる事は自動的に決まった。
それは……特訓だ!
【合同Ⅰ】を使うために僕も特訓をするのだ!
今まで迷宮内では迷路をマッピング師に、魔物をメンバー達に任せっきりにしていた。
僕は背中を追って歩き回るだけだった。
だけど、明日からは僕も色々頑張ろう。
攻撃には参加出来なくても、ステータス加算で援助するとか、やることは沢山ある。
僕も合宿で色々たくさん特訓して、Lvを上げよう。
そして最大MPも上げよう。
目標はMP50消費の【合同Ⅰ】だ!
目指せ『分身』!!
さて、僕なりの目標も改めて定まった所で。
…………結構疲れたな。
参考書で勉強した後はいつも目がパッチリ覚めているんだが、やっぱり精神的な疲れは溜まるようだ。
よし、今日の自習はこれくらいにして寝よう。
参考書を閉じ、紙とペン、参考書をバッグにしまう。
後は歯を磨いてバッグと一緒にテント・インだ。
一度、テントに入る前に周りを見渡し、メンバーの状況を確認しよう。
「ツキーッ!」
「そう、その調子だ。後は右手に力を入れすぎないようにすれば完璧だ」
「はい!」
「ライト・レーザー!」
「おぉー! ……でもやっぱり、まだ太くてトギレトギレだね」
「うーん、そうだね……。やっぱりコースちゃんみたいな細くて強い線が出来るようになるまではもう少し練習かな」
「うん。ミユちゃん頑張れー!」
「ハード・バッシュっ!」
「やはり、タテモトさんは腕の動きを意識すれば足腰の動きが疎かになり、その逆もまた然りだ」
「く、クソっ、難しい……。ダンさんはあんなに軽々とやってたのに……」
「俺だって最初はそうだったぞ。練習あるのみだ」
「ま、まあそうだよな。ありがとうダンさん、頑張るよ!」
うぉぉ、やってるやってる。
この調子なら皆の新技習得も近いかもね。
さて、それじゃあ僕は明日に向けて一足先にオヤスミナサイ。




