表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/548

7-22. 図形Ⅰ

勇者養成【迷宮】(ダンジョン)合宿、3日目の夜7時半。

風の街・テイラーから徒歩半日の【迷宮】(ダンジョン)

その3層目の、とある分岐。


テントや寝袋が用意されているその隣で、新たな技を習得する()()が行われていた。



コースと【光線Ⅰ】(ライト・レーザー)の習得を頑張る可合。

ダンと【硬叩Ⅰ】(ハード・バッシュ)の習得を頑張る盾本。

神谷と『突き』の習得を頑張るシン。



それぞれ魔術師、盾術戦士、剣術戦士という同じ(ジョブ)を得たメンバー同士が教え、教えられる。


なんだか良いね。

そういうの、少し憧れるよ。

……僕も『ティマクス王国に学者が居ない』って事に頭の中で整理はついてるんだけど、やっぱり同じ(ジョブ)を持つ仲間は欲しいって思っちゃうな。



ところで、この光景を見て思ったんだけど、王都騎士団長・プロポートさんはこういう機会を作るために迷宮(ダンジョン)合宿をやったのかな。

いつまでも先輩が居るって訳じゃないと、いつかは騎士団が居なくとも1人で動けるようにならなきゃいけないんだと、そういう感じなのかな。



いやいや、考え過ぎだな。






さて…………()()、か。



僕はさっさと寝てしまおうって思ったんだが、グループのメンバーは皆それぞれ強くなろうと頑張っている。


そういえば、強羅も洞窟の壁際で1人筋トレを行っている。

壁際のちょっとした凸凹に足を掛け、絶賛腹筋中だ。



……こんな空気の中じゃ、僕がただ1人寝るって訳には行かないよな。

皆も頑張ってるんだ。僕も特訓、やりますか。






僕がやる特訓、それは『数学の勉強』だ。

と言ってもまだ小学校の範囲、算数なんだけどね。


という事で、僕のリュックから紙とペン、参考書を取り出し、リュックを机がわりにしてセッティング。

盾本の魔力ランプを点けているので、読み書きするだけの明るさは十分ある。



(リュック)の前に座る。

よし、準備オッケーだ。


参考書の目次を開く。

縦にズラーっと項目が並んでいる。



えーと、前回やったのが『計算順序』だから、その下は……『割合』。


あぁ、『割合』もやったな。

この2つは順番間違えてやっちゃったんだった。


『割合』の下は……『図形』か。

今日はコレだな。



一度周りを見回す。

魔術師(コース・可合)盾術戦士(ダン・盾本)剣術戦士(シン・神谷)も強羅も、先程と変わらず特訓中だ。

ちなみに強羅は絶賛腕立て伏せ中。


うん、皆も頑張ってるし、僕も頑張ろう。

遅れは取りたくない。


さて、僕も始めますか。











●図形

『数学』のイメージといえば、数字や記号、アルファベット、ギリシャ文字を使って数式を立て、計算するというモノを思い浮かべる人が多いだろう。

だが、いつもそんな感じって訳ではない。

その例として当てはまるのが今回の『図形』だ。


この参考書では、小学校の各学年で扱う『図形』の分野をここに纏めているらしい。



小学校の図形分野では色々な事について学ぶが、ポイントは『三角形』『四角形』『円』『合同』『多角形の内角の和』『図形の面積・体積』の6項目だ。

この参考書では、それぞれのポイントごとに纏まっている。


それじゃあ、ポイントの1つ目から読んでいこう。






Point①

『三角形』


まず三角形とは何かと言うと、『3つの線分で囲まれた多角形』だ。


……そんな風に言っても、高校生ならともかく小学生には分からないよね。

参考書曰く、上の文を簡単に書き換えると『3本の線で囲まれた形を『三角形』って呼ぶことに決めますよー』っていう感じらしい。

で、三角形の3本ある線を『辺』、3つの点を『頂点』と呼ぶようにも決まっている。

うん、実に分かりやすくて宜しい。



ところで、呼び方は『三()形』なのに決め方は『3つの()で囲まれた』なんだね。

不思議だ。



まぁ、それは置いといて。

三角形とはなんぞや? という事が分かったと思うので、次に三角形の種類を見ていこう。

三角形には3つの辺の長さや角度の大きさによって、特別に名前の付いたものがある。




まず、特別な三角形その一、『二等辺三角形』。

3本の辺のうち、2()本の()の長さが()しい()()()はこの名前を授かることが出来る。

他の三角形よりも特別扱いなのだ。


但し、特別扱いしてくれる代わりに少し面倒事が増える。

長さが等しくない1本の辺は『底辺』、底辺の両端にある角を『底角』、残りの角を『頂角』というのだ。

少し面倒になるが、覚えよう。

ちなみに、『2つの底角はどちらも同じ角度』というのは大事なポイントだ。


2辺だけじゃなく、2角も等しいのか。忘れないようにしよう。




だが、『二等辺三角形』よりも更に特別扱いしてもらえるモノがある。

それが特別な三角形その二、『正三角形』。

これは、3本の辺が全て等しい三角形のみ授かることが出来る名前だ。


3本とも長さが揃ったのだ。

正三角形はもう神レベルでの特別扱いだ。二等辺三角形の比じゃない。

そのため、『底辺』だの『底角』だの『頂角』だのという面倒事が正三角形には無く、『辺は全部同じ長さ、角も全部同じ大きさ』とだけ覚えればいいのだ。


これは楽チン過ぎるな。

極度の面倒くさがりの僕でも覚えられる。




そして、最後に特別な三角形その三、『直角三角形』。

3つある角のうち、大きさが丁度90°のものが一つあればこの名前を授かることが出来る。

それなりに特別扱いしてくれるが、代わりの面倒事として『直角な角にくっついていない辺』を『斜辺』という。



これらが特別な三角形だ。

参考書には、図を使って簡単にまとめられている。


┌三角形────────────┐

│               │

│┌二等辺三角形─┐      │

││      ┏┿直角三角形┓│

││┌正三角形┐┃│     ┃│

││└────┘┃│     ┃│

││      ┗┿━━━━━┛│

│└───────┘      │

└───────────────┘


気付いた人もいるとは思うが、二等辺三角形と直角三角形はダブルで授かることが出来る。

そんな三角形には、『二等辺』と『直角』の2つの特徴を併せ持った『直角二等辺三角形』という名前が与えられる。

素晴らしいね。



小学校で学ぶ三角形については以上だな。






Point②

『四角形』


四角形については、基本的に三角形と同じだ。

『4本の辺で囲まれた形』、それが四角形である。


で、四角形にも同じように特別な名前が存在する。

これについて見ていこう。




まず特別な四角形その一、『正方形』だ。

正方形、と言えば殆どの人が頭の中にその形を思い浮かべられるだろう。

だが、たかが正方形と舐めてはいけない。


こいつはキング・オブ・四角形とも言える、四角形中の四角形だ。

四角形のなかでは神レベルだ。


それゆえ、正方形という称号を授かる条件は結構厳しい。

()()の角が()()』と『()()の辺が()()()()』の2つを満たさなければ、正方形にはなれない。




だが、これじゃちょっと条件が厳し過ぎる。

という訳で、条件を少し緩くした立場が作られた。

それが特別な四角形その二、『長方形』だ。


長方形の名を授かる条件は、『()()の角が()()』だけ。

正方形の半分だけになった。


長方形の特徴としては、『対辺(向かい合った辺)の長さがそれぞれ等しい』だ。

長方形になれば自動的に、向かい合ったペアの辺の長さは一緒になる。

覚えておこう。




だがここで、『ちょっと待てよ』と文句が入る。

『全部が直角』()()を満たした四角形は『長方形』と呼ばれるようになった。

だが『全部が同じ長さ』()()を満たした四角形に名前は無いのか、と。

それは不公平だろう、と。


その不満に応えて作られたのが特別な四角形その三、『ひし形』だ。

ダイヤ形、とも呼ばれる形だ。


ひし形という名前を授かる条件は『全部が同じ長さ』。

そして、ひし形の特徴としては『対角(向かい合った角)がそれぞれ等しい』『対角線(対角同士を結んだ線)が直角に交わる』というものがある。

これらはひし形ならば自動的に備わるので、覚えておこう。




だが、人とは欲を張る生き物だ。

面倒くさがりなので、もっともっと条件を低くしたがる。

そこで作られたのが特別な四角形その四、『平行四辺形』だ。

『四辺形』と名乗ってる時点で『四角形』という名前を捨ててしまっているが、一応これも四角形の一種だ。


平行四辺形という名が与えられる条件は『2組の対辺がそれぞれ平行』であること。

イメージで言えば、『斜めに潰した長方形』か『片方に伸ばしたひし形』だ。


特徴としては『対角がそれぞれ等しい』『対辺はそれぞれ長さが等しい』というものがある。




さて、平行四辺形を作った時点で『四角形』という名のプライドを捨ててしまった。

プライドさえなくなってしまえば、その先は早い。

そして作られてしまったのが特別な四角形その五、『台形』だ。

そこに『四角形』という名は跡形すらなく、遂には『四』という字さえ捨ててしまった。しまいには『台』という道具の名前を借りる始末となってしまったが、一応これも四角形の一つだ。


台形の条件は『1()組の対辺が平行』だ。

……ハードルが低すぎるだろ。

果たして、こんな条件で『台形』という名前を貰って嬉しいのかどうかは分からないけど、まぁきっと嬉しいんだろうな。

『僕は特別扱いしてくれる四角形です!』っていう事実が欲しいんだろう、きっと。




……フゥ、図形の勉強をしているうちに四角形に感情移入してしまっていた。

特別な図形の形が作られた本当の経緯は良く分からないので、今までのヤツはとりあえず諸説ある内の一つとさせて貰おう。

参考書を読みながら考えていた、僕の想像の世界が混ざりつつあるからな。


という訳で、以上の四角形についても図に纏めるとこうだ。


┌─台形────────────┐

│ ┌─平行四辺形─────┐ │

│ │           │ │

│ │┌─長方形──┐   │ │

│ ││  ┏━━━┿━━┓│ │

│ ││  ┃正方形│  ┃│ │

│ │└──╂───┘  ┃│ │

│ │   ┗━━ひし形━┛│ │

│ └───────────┘ │

└───────────────┘


これを見ると、台形の中で特別な形が平行四辺形、その中でも特別なのが長方形、その中でも……となっていることが分かる。

そう考えれば、正方形は台形の一種であり、かつ平行四辺形の一種であり、かつ長方形の一種でもあり、かつひし形の一種でもある四角形であるという事だ。


これが正方形のキング・オブ・四角形と言われる由縁だろう。






さて、四角形についても以上だな。次はPoint③だ。

本文中にあった『三角形の分類図』と『四角形の分類図』につきまして、分かりやすく示したファンアートを頂きましたのでご紹介します。

各分類エリアに当てはまる三角形の例つきです!


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

いっちゃん様、ありがとうございました!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

 
 
Twitterやってます。
更新情報のツイートや匿名での質問投稿・ご感想など、宜しければこちらもどうぞ。
[Twitter] @hoi_math

 
本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ