7-21. 新技
そして、場の空気が再び緊張に包まれる。
一礼し、刀を抜いて構える神谷。
そして、大きな掛け声。
今回は僕達も、ルート・バインダーも驚かなかった。
刀を構えたシンと格闘術の構えを取ったルート・バインダーが対峙する。
そして、先に動いたのはルート・バインダーの方だった。
右腕の根っこを前に突き出す。
お、初めての動きだ。今までの2体とは動きが違う。
シュルルルルルルルルッ!
前に出した根っこが凄い勢いで伸び始めた。
神谷を貫かんとする勢いで根っこの先端が迫る。
カンッ!
しかし、先端が神谷に届くその直前。
神谷は刀で伸びる根っこを打ち払う。
根っこは神谷の横を通り抜けた所で止まった。
その瞬間、ルート・バインダーに出来た隙。
それを見逃すことなく、神谷は間合いを一気に詰めた。
「ッ突キイイイィィィィィィィ!」
神谷は刀を持った両腕を前に突き出し、ルート・バインダーの胸を一突きした。
刀は貫通し、その背中からは刀の先端が生える。
勝敗は決した。
「「「「「オオオォォォ……」」」」」
「か、貫通した…………!?」
シンが妙に驚いた顔でそう言う。
「今の攻撃は…………」
「あぁ、今のは『突き』という技だ。私が高校に入ってから覚えた技でね」
「つ、突き……ですか……!」
「そうだ。どうかしたのか?」
「いえ、是非、その『突き』を、是非私に教えて頂けませんか!?」
「あ、えぇと……私で良いのであれば」
「ありがとうございますっ! この『突き』があれば、私はもっと強くなれるかもしれない。そう思うんです! …………
そして、一瞬シンの興奮が急に冷めると、シンが真顔で神谷に話を始めた。
その話の内容は、シンがずっと抱え続けていた悩み。
僕は初めて聞いたが、話を聞くコースとダンも驚いた顔をしていた。彼らにも話していなかったという事は、ずっとシンが1人で悩んでいたんだろう。
シンは、今まで『技の少なさ』にずっと悩んでいたようだ。
コースは水系統の攻撃魔法として【水弾Ⅵ】、【水線Ⅳ】、【大波領域Ⅰ】の3つ、ダンは盾術戦士スキルとして【硬壁Ⅵ】、【硬叩Ⅳ】の2つを習得している。
しかし、シンは【強斬Ⅴ】しか使えない。
おまけにトリグ村には剣術戦士が少なく、剣術について学ぶ機会が無かったようだ。
そのため独流の剣術でここまで頑張ってきたらしい。
だが、コースとダンはスキルや魔法をどんどん覚えて強くなっていくのに、技が増えないシン。
これはトリグ村を発ち、僕と出会った後も同じだったようだ。
そのため、最近は剣術戦士として早くも限界を感じていたらしい。
話をするシンの目がうっすらと潤む。
シンがここまで悩んでいたなんて、気付かなかった。いや、気付けなかった。
根っからの真面目なシンなのだ。彼が全力で悩みを外に見せまいとすれば、僕らが気付く訳も無いだろう。
だが、ここで『斬る』以外の考え方が現れた。『突き』だ。
これがシンに新たな力を与えるかもしれない。彼はそう思い、神谷にそう願い出たようだ。
「……そうだったのか、君には先生こそ居れ、剣の師は居ないと」
「そうなんです。だから、カミヤさんの技術を是非教えて頂きたい、そう思いました」
「……成程。確かに、シン君の戦いを先程見たが、独流にしてはとても良い動きだった。だが、色々と私の中で思う点もあった。…………良し、私なりに出来る限りのことを、シン君に教えよう」
そして、微笑んで神谷はそう言った。
「ありがとうございますっ! よろしくお願いします!」
そう言って、シンと神谷は互いに握手を交わした。
という事で、探索を再開。
陣形は同じくマッピング師が二人先頭に立ち、地図の作成を進めていく。
一度、3層目の地図をシンに見せてもらったが、見ただけで目が回ってしまった。
もはや迷路だ。あの思い出が蘇りかけるが、全力で阻止。
頭の奥底に押し留めておいた。
……いや、僕は皆の背中を見て歩くだけで良いのだが、シンも神谷も大変だな。
マッピング、ありがとね。
洞窟を歩き、ロック・ピルバグを倒し、洞窟を歩き、ケーブバットの群勢を倒し、また洞窟を歩く。
迷宮合宿の3日目も、そんな感じで過ぎていった。
「よし、ここら辺で野宿にしよう」
神谷が手にした懐中時計を見つつ、そうメンバーに伝える。
現在時刻は夜の6時。少し早めだ。
現在位置は3層目のとある分岐点。
今日中に4層目へと続く階段を見つける事は出来なかったが、少し広場のように広い分岐点に差し掛かった。
どうやら、ここで今日は夜を明かすらしい。
まぁ、夜を明かすと言っても洞窟内なのでずっと真っ暗だけどね。
それぞれテントや寝袋を用意し、8人で輪になって夕食を食べる。
さて、後はローテーションを決めて寝るだけだ。
さっさと決めて寝よう。
「よし、じゃあ見張り番のローテーションを組も————
そう言って皆の方を振り向くと、そこに寝る準備を続けるメンバーは居なかった。
それぞれが新技について学んで居た。
「ミユちゃん、弾は魔力をポンッ、ポンッ、って出す感じだよね? だけど、線はチビチビ魔力を使っていく感じ!」
可合は、コースから線攻撃魔法を学び、光系統魔法の【光線Ⅰ】の習得を目指しているようだ。
「チビチビ、か……難しいな。コースちゃんはどんなイメージで魔法を使ってるの?」
「えー、私はー……弾の魔力が『丸い球』だとしたら、線は『超細長い』感じ!」
……それって、発動する魔法の外見と同じじゃんか。
そんな教え方で良いのか?
「…………うん、つまり、『魔力を絞って少しずつ放出』すれば良いんだね!」
「そんな感じー!」
「コースちゃん、ありがとう! やってみるよ!」
可合が上手く解釈したようで、コースの直感的な教え方にもなんとか対応できている。
凄い。
「タテモトさん、そうじゃない。ただ盾を突き出せば良いってモンじゃないんだ」
その奥では、盾本はダンから【硬叩Ⅰ】を学び、習得中だ。
「はい、ダンさん。えーっと……『垂直に突き出す』んだったよな?」
「そうだ、基本はな。盾を真っ直ぐ敵に向けて突き出せれば、力を効率良く敵にぶつける事が出来る。だが、盾の面が斜めっていたりすると、逆に盾が弾かれて身体を晒すことになる」
「成程…………フンッ! こんな感じかな?」
掛け声と共に、鍋の蓋を突き出す盾本。
シュールだ。
……あと、前から気になってたけど、あの鍋の蓋が盾術戦士・盾本守の盾なんだろうか。
「おう、さっきより良くなった。後は、腕や肩だけで盾を突き出すんじゃなく、足腰を使えばもっと安定した叩が出来るぞ」
「分かった。サンキュー、ダンさん!」
「カミヤさん、『突き』とはどんな技なのでしょうか?」
シンは、神谷から『突き』の技を習得中だ。
「あぁ、私は相手の喉元を刀で水平に貫くイメージで教えられた。構えた剣をそのまま突き出すだけでなく、水平に、というのがポイントだ」
「なぜ、そこが重要なのでしょうか?」
「それはだな、シン君。水平にする事で、刀を突き出すエネルギーを全て相手を貫くエネルギーに換えられるんだ。刀を上向きに構えたまま突くと、相手を浮かせるエネルギーにも変換されるので、効率が悪いのだよ」
「成程! 理解しました!」
シンは理論から入る奴だからな。
習うより慣れろとは言うが、シンがそれで良いんならそうしてもらおう。
まぁ、そんな感じで皆新たな技の習得に励んでいた。




