7-20. 侍
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ルビを二箇所修正
ご指摘頂き、ありがとうございます。
「さて、じゃあそろそろ3層目の探索を始めようか」
朝からシンとルート・バインダーとの熱い試合があった。
それを観戦したメンバーの興奮がまださめやらないが、そろそろ3層目を探索しよう。
いつまで階段近くに居ても、迷宮合宿は終わらないぞ。
「あ、あぁ……そうだな、数原君。私とした事が、シン君の戦いで探索を忘れてしまっていた」
おいおいクラス委員さん、しっかりして下さいよ。
だが、神谷が興奮で我を忘れて夢中になるなんて、珍しいな。
さて、僕達8人は再び迷宮の探索を再開した。
シンと神谷が先頭に立ち、3層目のマッピングをする。
その後ろには他のメンバーがゾロゾロって感じだな。
「……見えました。行き止まりです」
「良し、では引き返そう。先程の分岐に戻って、次は右だな」
「そうですね」
分岐を見つけて左に進み、行き止まったら右に進む。
そしてまた分岐。左に進むとまた分岐。
3層目でもこの繰り返しだ。
だが、今までと異なる点がある。
迷宮の探索中に襲って来る魔物が明らかに増えている。
ケーブバットに増してロック・ピルバグが所々で襲って来るのだ。
お陰様で迷宮1層目のように気を抜くことは出来ないけど、代わりに探索に飽きる事が無い。
コースと可合は対ケーブバット係だ。
可合は白く光る弾丸で一匹一匹確実に撃ち落とし、
コースは水のレーザーでケーブバットの群勢を纏めて薙ぐ。
地面には、身体に風穴を開けられたり、真っ二つにされたケーブバットが散乱する。
「【水線Ⅳ】! ……やったー! イチモウダジンだよ、ミユちゃん!」
「【光弾Ⅱ】! ……コースちゃんの魔法、本当に強いね! 私なんか一発一発【光弾Ⅱ】で撃ち落とさなきゃいけないのに……」
「やっぱり、攻撃魔法の線系は使いやすいんだよねー! ミユちゃんは【光線Ⅰ】出来ないの?」
「うん、まだ覚えてないんだ……」
「そうなんだ。じゃあ、ミユちゃんに教えてあげる?」
「うん! ぜひぜひ、お願いします!」
ダンと盾本はロック・ピルバグ係だ。
それぞれ大盾と鍋の蓋を構えて2頭のロック・ピルバグを迎え撃つ。
「【硬壁Ⅱ】!」
「【硬叩Ⅳ】ッ!」
ガンッ!
ゴーンッ!
ロック・ピルバグの纏った岩の鎧と盾が凄い勢いでぶつかり、盾から低い音が響く。
衝撃により脳震盪を起こして、ひっくり返って倒れるロック・ピルバグ達。
「うぅ、ただ回転を受けるだけでも腕がジンジンする……」
「フゥ、そろそろ迎撃のタイミングにも慣れてきたな。それにしても奴らの特攻は毎回怖い」
「あぁ、迎撃と言えば。ダンさんって、団子虫を盾で受けるだけじゃなくて弾き返してるのか?」
「ん、そうだな。弾き返してるぞ。ただ盾で突進を受けるだけだと、どんだけ踏ん張ってもダンゴムシの特攻の勢いは殺せない。だから、俺は【硬叩Ⅳ】を使って、接触する直前に盾を押し出してんだ」
「成程! だからダンさんが相手をした団子虫はあんな遠くまでぶっ飛んでるんだな!」
「まあ、盾の消耗は早いだろうけどな」
「確かに……。所で、そのハード・バッシュ? って奴、俺にも教えてくれないか?」
「おう、良いぞ。俺とタテモトさんは同じ盾術戦士だし、戦士スキルなら直ぐに教えられるだろうな」
「やった! サンキュー、ダンさん!」
そして今。
「あっ」
「アイツは!」
本日2体目のルート・バインダーと遭遇した。
ここからはシンと神谷、ルート・バインダー係の出番だな。
「良し、シン君。今度は私にやらせて貰おう。良いかな?」
「はい。カミヤさんの技術、是非見せて頂きます!」
神谷はシンの返事を聞いて一つ頷くと、ルート・バインダーへと歩み寄る。
全員が黙り、空気がピンと張る。
……ん? 突然、神谷が足を止めた。
まだ両者の距離はかなりある。
すると、そこで小さく一礼。
成程、さすが剣道部員。
魔物が相手でも、礼儀ってヤツを欠かさないのか。
そして再び神谷が足を進める。
腰に提げた刀を抜きつつルート・バインダーへと近づき、刀を両手で構える。
ルート・バインダーも格闘術のような構えを取る。
……コイツもこの構えか。ルート・バインダーは格闘術メインなのかな?
そんな事を考えつつ神谷とルート・バインダーを眺めていると。
「ッシヤアアアアァァァァァ!!!」
うぉっ!?
ビックリした!
一瞬全身の毛穴が逆立ち、瞳孔が開いたのを感じる。
突然の神谷の掛け声は、普段話しているような割と低めな声とは違い、高くて良く響く声。
掛け声は洞窟の中に響き渡り、こだましていく。
だが、驚いているのは僕やシンを含めたメンバーだけじゃなかった。
ルート・バインダーに目を向けると、ピクリともせずに突っ立っている。
驚きで硬直しており、傍から見ると只の根っこだ。
その隙を見逃さず、神谷は刀を構えたまま一気に駆け寄る。
ルート・バインダーは硬直が解けたようで右腕を後ろに引くが、もう間に合わない。
神谷が刀を両手で大きく振り上げる。
そして。
「面エエエエエェェェェェン!!!」
再び大きな声と共に、刀がルート・バインダーの頭上から股へと白い残像を残して振り下ろされた。
水平に振り出されようとしていたルート・バインダーの右腕はその瞬間のまま止まり、身体は左右に真っ二つにされた。
そして、二分された根っこはバタンッという音と共に洞窟の床に倒れた。
「有難う御座いました」
最後に倒れたルート・バインダーの死体を確認し、神谷はそう呟いた。
「「「「「オオォォ……」」」」」
メンバーから湧き上がる感嘆の声。
「神谷くんが刀を持った所、初めて見た。まるで本当の侍みたいな動きだったな……」
「だよね! 剣道をしてる時の勇太くん、凄くカッコいいんだよ!」
「本当だぜ、全く。オメェの剣道はいつもキレイだ。同じ武術を学ぶ者として、惚れ惚れしちまうぜ」
盾本が感動している。
僕も神谷の『侍モード』を初めて見たけど、普段の『クラス委員モード』とは全く違うんだな。
別のカッコ良さがあったよ。
「……す、凄いです、カミヤさん! 洗練された動き、強さだけでなく美しさも感じます!」
「あ、あぁ、シン君。ありがとう」
シンが興奮して神谷にそう言い、駆け寄る。
「カミヤさんの剣術、もっと見てみたいです!」
「私が日本で培った、剣道の技術で満足してくれるのであれ――――
「いえ、十分です! 十分過ぎます!」
神谷の剣道に対する、シンの喰いつきが凄い。
『誰に対しても誠実対応』で有名なあの神谷が引き始めてるぞ。
……ん?
神谷とシンのやりとりをを眺めていると、その視界の後ろから何か動くものが目に入った。
あれは……
「し、シン君。あの……気持ちは有難いのだが、そろそろ探索を再開しよう。次ルート・バインダーに出会ったらにしようか」
「あ、ハイ! よろしくお願いしま――――
「おい、シン。どうやら、その『次』が来たようだぞ」
そう言い、洞窟の奥の方を指差す。
「「え?」」
シンと神谷も、僕の指した先を見る。
「シンの興奮して大声で呼び寄せちゃったんじゃないか?」
「シン、何やってんのー!?」
「ハハハ、申し訳ないです。……だけど、こんな直ぐにまたあの剣術を見られるなんて、ちょっとラッキーかも」
シンが苦笑し、小声でそう呟く。
「さて、次がこんな直ぐに来るとは思わなかったが、シン君と交わした約束だ。やらせて貰おう」
「はい、お願いしますっ!」
さぁ、神谷の2試合目だ。
シンほどじゃないけど、僕も少しワクワクしてきちゃった。




