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1-6. 数学者

前の奴が満足気にステータスプレートを閉じ、水晶玉の前から離れる。



「……ついに来た」


僕の番だ。

あぁー、ドキドキする。




「…………」


心臓の鼓動を全身で感じつつ、祭壇の前にゆっくりと歩み出る。



戦士、魔術師、産業人、そして識者。

この4つの内のどれかだ。……何になるかな。


第一希望は言うまでもなく大剣使いの戦士。だけど正直、戦士であれば武器は何でもいい。

大体の武器ならば某狩りゲームで知識は身に付いているし、すぐにでも出陣できる。


なんなら魔術師でも構わない。火が出せたり、水が出せたりするような魔法だって憧れだ。

魔術師になって魔物と戦うのも悪くない。




まぁ、とにかく……折角『この世界』に来て勇者になったのだ。

勇者らしく、魔物と戦って強くなってみたいじゃんか!




「フゥ…………」


頭の考えが纏まった所で、深く深呼吸。

心を落ち着ける。


……よし。




「…………」


大剣使い、大剣使い、大剣使い。

心の中で何度もそう念じつつ、右腕を前に出し。




「…………っ」


右掌を、水晶玉に触れた。











――――あっ。

ほんのり温かい。






そう感じたのも、束の間。




「……っ?!」


頭の中に、一瞬ビリビリッと電流が流れたかのような感覚。

視界に変化は起きてないのに、思わず目を見開く。


何だ……今のは!?




訳の分からない事に驚きつつ、右手を水晶玉から放すと……――――




「あれっ?」


腕の感覚がおかしい。ついさっきよりも腕が軽いような……――――






……あぁ、そうか!

コレが(ジョブ)を手に入れてステータスが上昇したって事だな!


よしよし、僕は一体何の(ジョブ)を授かったんだ?

早速確認しよう。




「……ぉ、オープン・ステータス……」


恐る恐るステータスプレートを呼び出す。

席替えのくじを折り開いて席番号を見るような、ドキドキ感。再び心拍が速まる。



ピッ

「…………」


魔法の呪文を唱えるなり、すぐさま現れるステータスプレート。

覚悟を決めた僕は、ゆっくりと上の1行目から目を通して行った。






===Status========

数原計介 17歳 男 Lv.3

(ジョブ):数学者 状態:普通


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






今まで空白だった(ジョブ)欄に入ったのは、『数学者』という文字。

僕は数学者になったようだ。











「…………えっ」


あ、あれ?

見間違いかな。




「……オープン・ステータス」


ステータスプレートを一旦閉じ、もう一度呼び出す。

一番上の1行目から、再びゆっくりと目を通す。




===Status========

数原計介 17歳 男 Lv.3

(ジョブ):数学者 状態:普通


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






……見間違いじゃなかった。

どうやら僕、本当に数学者になっちゃったみたいです。






「…………マジ?」


その瞬間、ドバッと冷や汗が流れ始めるのを感じた。




…………いやいやいや、なんで僕が数学者なんだよ!?

この同級生の中でももうちょっと数学者よりな人居たじゃんか! アキとか神谷とか!


狩りゲームが趣味な点なんて完全無視されちゃってるし、数学が何よりの苦手だってのも無視されちゃってるし……結局は『数学の参考書』が全面支持されちゃって事か?!

そもそも、数学者なんて……分類は『識者』だろうな? だとしたら非戦闘職だ。

戦闘職でもなければ後衛ですら立場は無いぞ。

こんなんじゃ魔王の討伐に参加できないじゃんか!!



まさか……召喚2日目にして、もう戦線離脱宣告なのか!?











「おぃ計介、どうしたよ。顔が青ざめてんぞ」

「…………あ、あぁ、アキか」


祭壇の前に呆然と立ち尽くす僕に、横からアキの声が掛かる。

声に惹かれるようにフラフラと歩いて行く。




「どうした計介?」

「…………これはマズい。マジでヤバい」


そうとだけアキに伝えると……「あー」と言って頷くアキ。

端的で抽象的なセリフにもかかわらず、アキはしっかりと汲み取ってくれたようだ。




「こりゃ……計介お前、相当なモンの(ジョブ)を引いちまったみてぇだな?」

「……」


コクリと頷く。




「……言ってみろ。何だったんだ、お前の授かった(ジョブ)は?」


そして、アキにそう促された僕は……――――告げた。











「僕……『数学者』だった」

「「「「「…………」」」」」






……その瞬間、それを聞いていた同級生全員の時間が止まった。




まさに、唖然。

僕の数学嫌いは、クラスはおろか学年レベルで有名だってのに。

そんな僕が数学者という、コレ以上無いと言っても過言じゃない完全なミスマッチ。



驚きを隠せる奴は、誰一人としていなかった。






「…………そ、そうか……。ドンマイ計介」


アキの慰めだけが、聖堂に響いていた。

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本作は、以下リンク(後編)に続きます。
以下リンクからどうぞ。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで eˣᴾᴼᴺᴱᴺᵀᴵᴬᴸ

本作の『登場人物紹介』を作りました。
ご興味がありましたら、是非こちらにもお越しください。
 
『数学嫌いの高校生が数学者になって魔王を倒すまで』巻末付録

 
 
 
本作品における数学知識や数式、解釈等には間違いのないよう十分配慮しておりますが、
誤りや気になる点等が有りましたらご指摘頂けると幸いです。
感想欄、誤字報告よりお気軽にご連絡下さい。
 
皆様のご感想もお待ちしております!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうか、この物語が
 
小説を愛する皆様の心に、
心の安らぎを求める皆様の心に、
現実とかけ離れた世界を楽しみたい皆様の心に、
そして————数学嫌いの克服を目指す皆様の心に
 
届きますように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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