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ウィリアム

ウィリアムは1話です。

 初めて妻に出会った時、僕はなぜか『やっと見つけた』と思った。なぜそんなことを思ったのか、それは僕にもわからない。



──

───



 僕は庭園を歩いていた。庭園には色々な花が植えられていて、それぞれが美しく咲き誇っている。迷うこと無く庭園を進み両脇の高い生け垣がなくなり視界がひらけると、そこには木製のガゼボがあった。


 僕がそこに近付くと、足音に気づいた先客は顔を上げた。金の波打つ髪に茶色い瞳の美しい女性だ。

 彼女は僕の顔を見るなり大輪の花が綻ぶかのように満面に笑みを浮かべ、甘えるように両手を差し出した。


 ふわっと抱きつかれてなぜか僕は戸惑いも無く彼女を抱きしめ返した。僕の腕の中で彼女は顔を上げる。


 いつの間にか、そこには僕の最愛の妻がいた。



──

───





 朝日が差し込むのを感じて僕はゆっくりと目を開けた。目に映るのは見慣れた白い天蓋だ。


 ああ、またこの夢だ。


 それは幼なじみであり、今は妻であるカンナと再会してから時々みる不思議な夢だった。

 僕はいつも庭園を歩いている。そしてその先にはいつもあの女性がいる。全く知らない女性にも関わらず、僕は最初から彼女に愛おしさのようなものを感じた。そして彼女はいつも花が綻ぶかのような微笑みを浮かべ、いつの間にか僕の腕の中で最愛の妻へと姿を変える。


 僕はゆっくりと視線を隣へと移した。幸せそうな寝顔でスヤスヤと気持ちよさそうに眠っているのは僕の最愛の妻だ。僕がそっと頬をなぞると、妻はくすぐったそうに身を捩った。


 

 ああ、可愛いな。



 僕は妻の寝顔を見てなんとも言え無いような満ち足りた幸福感を感じた。


 僕と妻とは幼なじみだけれど、僕は長いこと彼女に片想いだった。幼い頃の僕は二つ年上の彼女をいつも追いかけていた。興味を惹きたくて、彼女の髪を引っ張っては悪戯して困らせた。


 二つの年の差は幼い僕にはとても大きく感じた。だって、どうやったって彼女は僕より先に大人になるんだ。僕が大人になる前に彼女が婚約してしまったら、万が一にも結婚なんてしてしまったらと不安で堪らなかった。


 だから、彼女がある時期から『自分は結婚しない』と社交界デビューや社交界の交流の一切を拒み始めたのは僕にとってはある意味幸運だったのだ。


 彼女はとても控えめで穏やかで美しくて頭もいい。まわりの男達が彼女を放って置くはずが無いからね。


 久しぶりに再会したときのカンナは僕の想像以上に美しかった。その穏やかで落ち着いた雰囲気は僕の心を穏やかにさせる不思議な魅力があった。

 僕はまわりからあきれられるほど必死に彼女にアプローチを仕掛けた。少々強引に連れ出したりもしたけれど、彼女はいつも最後は笑って許してくれた。


 


 あれは本当に偶然だった。

 クランプ侯爵家の嫡男のレオンの結婚披露パーティーに当時婚約者だったカンナと参加したとき、僕は一枚の肖像画に目を奪われた。信じられないことに、そこには夢に現れる女性が描かれていた。

 その時に初めて知った彼女の名はアニエス・クランプ。僕が生まれる何年か前に既に亡くなっている人だった。


 アニエス・クランプという名前は僕にとっては更にその1年前に起こった出来事で知った忘れられない名前だ。僕は領地の鉄鋼製品の偽物流通事件を追っているときに彼女の存在を知った。


 婚約者だったカンナはどこをどう調べたのか、まるで当事者かのようにその後の鉄鋼製品の偽物事件に繋がる元となった20年近く前の出来事を調べ上げて、さらに信じられないことに犯人の女の元にほぼ単身で乗り込んでいった。

 普段の彼女からは考えられない行動だ。あの後は本当に色々と大変だった。





 僕は今でも時々不思議に思うんだ。なぜカンナは自分が生まれるより前の出来事をまるで当事者のように詳しく知っていたのか?

 強い情報網を持つ花の嬢ですら調べられなかったことを、なぜ一介の令嬢でしか無いカンナが調べられたのか?


 アニエスはカンナの生まれる前年に亡くなっている。アニエスの恋人であったアーロン・マンセルはその2年後に亡くなっている。


 まだ婚約者にもなる前に、僕はマンセル伯爵家の夜会にカンナと参加したことがある。その時、カンナはマンセル伯爵家の家族画を見て明らかに動揺していた。カンナは何を見て動揺したのか?そして、僕はなぜ会ったことも無いアニエスを夢に見ていたのか?


 もしかしたらカンナは・・・

 だとすると、僕の両親は・・・




 そこまで考えて、僕は考えることをやめた。




 人は必ず死に、そして生まれ変わる。これはこの世界の常識だ。


 誰に生まれ変わるかや前の記憶の有る無しは全てが輪廻転生を司る女神の采配による。僕の前世の記憶が無いのは輪廻転生の女神がそうあるべきだと判断したからだ。


 もし僕が一瞬想像したことがそうだったとしても、僕にとっての両親はやっぱり両親でしか無い。

 過去に何があろうとも、今の僕にとっての彼らは僕を慈しみ、優しく、時には厳しく育ててくれた人達であることに変わりは無いのだ。


 


 僕はとなりにいる妻をもう一度見つめた。とても幸せそうな顔をしてよく眠っている。


 僕は妻を愛していて、幸せにしたい。そして、そのための力も環境も自分はもっている。何も憂うことなど無いのだ。


 最愛の人の柔らかな身体をそっと抱き寄せると、僕は再び目を閉じてこの幸せを感じながら微睡んだ。

 


 



カンナの記憶はウィルと出会った後、かつ社交界デビュー前に一部が甦りカンナは引きこもりになります。

その後、ウィルの社交界デビューが決まると同時にカンナの残りの記憶が勢いよく甦り始めます。

これは偶然と見るか必然と見るかは読者様の想像にお任せします(^^)


次は・・・エド視点かなぁ?まだ書いてないので変わったらごめんなさい。


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