第漆話 きっとそれは空の色
店内は既に家族連れの客や学生達で賑わっていた。
「あ、こっちこっち!」
テーブル席に陣取っていた椿姫はそう言いながら僕たちに手を振っていた。
「はいよ」
そう言って透夜は椿姫の前に注文されていた品を置きそのまま席に座った。それに続き、僕も彼の隣へと座り自分の買った分をテーブルの上に置いた。
「聞いてくれ椿姫、透夜ったら”あ、足りねぇ”とか言って結局僕に払わせたんだよ。とうとう自分よりも下の人間から金を巻き上げるような奴になってしまったのか……」
僕は精一杯の悲しみを込めて先ほどの出来事を述べた。
「それは今度ちゃんと返すって言っただろ!?そもそも俺が奢るっていう流れからおかしいんだよ!」
僕の報告に透夜は全力で異議を申し立てる。
「そんな、透夜君はそういうことはしないって思っていたのに…見損なったわ!」
しかし透夜の異論も虚しく、戒めるような声で椿姫は透夜を責める。その口元は必至で笑いを堪えているが。
「おまえは奢ってもらっといてそれは無いだろ!」
透夜は必至で反論するが、椿姫の目はどんどん軽蔑の色を濃くしていく。それに反比例して口元は今にも笑い声が聞こえそうなほど震えていたが。
「別に急いで返さなくていいよ。またいつか僕がが困ったときに返してくれたら…ところで利息は何割がいい?10日で三割ぐらいにしておく?」
「10日で三割か……って、おまえはどこの闇金だよ!」
一瞬条件を呑むか悩んだようだが、ちゃんと彼は利息の計算ができたようだった。
「本物の闇金はもっと怖いよ…」
「俺は煌希のその達観した言い方の方が怖い!」
僕が透夜をからかい、それに透夜が反応する。それを見ている椿姫が楽しそうに笑っている。
そんな優しい日常がただ暖かく、ただ眩しくって、僕はそっと目を逸らしてしまうんだ。
※ ※ ※ ※ ※
「じゃ、そろそろ行くか?」
そろそろ喋り疲れてきた頃、そんな透夜の呟きで今日の幸せな時間は穏やかに終わりを告げた。
「あ、もうこんな時間になってたんだ」
椿姫はブレスレット型の端末で時間を確認して驚いているようだった。時刻は既に八時三十分、空は虚ろな暗闇に包まれていた。
僕たちはそれぞれの食べた物のゴミを片付け、そのまま解散することにした。
「じゃあ、また明日な!」
透夜はいつも通りの明るい声で別れを告げる。
「またね、二人とも」
椿姫は透き通った、しかしどこか儚げな声で彼と同様に別れを告げる。
「じゃあね」
ならば、僕の声はどう聞こえているのだろうか?どのような色をしているのだろうか?
そんな自問の答えを足で踏みつぶすように僕は家へと歩き始めた。
もうそろそろ物語に進展があるはずですので、少々お待ちください!