第弐話 眩しい朝に暗い過去
眩しい朝の陽気を全身に浴びながら、見慣れた道を安物の自転車で走り続ける。しばらくすると通いなれた白(とは言っても全体的に黄ばんではいるが)の学び舎が見えてきた。
校門を抜けてやや奥にある駐輪場に慣れた動作で自転車を置くと、後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。
「おはよう、煌希くん」
凛とした、よく透き通る声で僕の名前を呼ぶ、長くまっすぐな黒髪を持つ少女は、僕と透夜の幼馴染であり、同じクラスの霜月 椿姫だ。ちなみに2年連続学級委員となっている。中学校を合わせると5年連続、小学校を合わせると…数えるのが面倒くさいぐらいだ。
「おはよう椿姫」
いつも通りの挨拶を交わしてから、自然な流れで横に並んで自分たちの教室に向かった。
昔は同じ学校の同級生に「お前ら付き合ってんのか?ひゅ~ひゅ~おしどり夫婦め!」とからかってきたが、無視をし続けたらいつの間にかそのような声は聞こえなくなった。ある日、僕たちをからかっていた奴らの会話を聞いたときに、透夜と僕と椿の複雑な三角関係ができているのを聞いたときはさすがに言葉を失った。
僕が懐かしい記憶を思い出していたのも束の間、隣から聞こえた心配そうな声によって現実に引き戻された。
「そういえば昨日も出たんだってね、犯罪者殺し。今度の被害者は銀行強盗犯なんだって、さすがにちょっと怖いよね、現場もここから近いし」
犯罪者殺しとはおそらく昨日透夜から聞いた制裁の死神の事だろう。最初はメディアも連続通り魔事件として報道していたが、被害者が全員何らかの犯罪者に絞られていることから、犯罪者殺し、犯罪者狩りと呼ばれるようになったようだ。
「まぁ、今のところは普通に生きている人は殺されてないわけだし心配いらないんじゃない?」
とは言っても自分の住んでいる町で、殺人事件がおこっているんだ。そう簡単に安心できるわけもなく、彼女の整った眉毛は悩まし気に下がっていた。
「こんな事して犯人は正しいことしてるって思っているのかな?一度道を間違えてしまっただけの人を殺して、正義の味方にでもなったつもりなのかな?」
彼女の声は、静かながらも確かな怒りが込められている。
「……まぁ、そんな奴の気持ちなんてわからない方がいいと思うよ。きっと人を殺すような人間は、理由はどうであれ、みんなどこかが狂ってるんだ。そんな狂人の事は理解しようとするだけ嫌な気持ちになるだけだよ」
そんな僕の力説を聞いて彼女は少し迷いながら言葉を紡ぐ
「そう…かな?まぁ、君が言うのならそうなんだろうね。…もしかして嫌なことを思い出させてしまったかな?だとしたら、ごめん」
言葉の最後はどんどん音量が小さくなり表情は曇っていった。
「謝ることはないよ、それはもう6年も前の話だよ?君が気にする必要はないよ」
そう、それはもう昔の話…そんなことで”あの日”を思い出すことはない
なぜなら、あの悪夢を忘れたことなど一刻もないのだから