第壱話 死神は闇の中で
「いやぁ、今回も楽勝でしたね健三さん!」
薄暗い夜道の中、聞きなれた声が俺の名前を呼ぶ。
「まぁ俺の能力”電力操作”の前ではどんな防犯設備も効きやしないさ」
俺はそう得意げに答えながら手に掲げた安物のボストンバッグの中を確認する。
「あと少しで目標の2億円ですね!」
興奮しているのか、彼の声はいつも以上にはずんでいる。
「ああ、あと2,3回銀行狙えば海外にとんずらして豪遊だ!」
「すべては健三さんに出会えたおかげです!一生ついていきま___」
「おい、どうした?いきなり黙って…」
不自然に言葉を止めるので、何があったのか確認するべく横を確認しようとした直後、頭上から暖かい雨が降ってきた。否、今までのパートナーであった男の血が降り注いでいた。
「……え?」
いきなりの出来事に状況が呑み込めないでいた。先ほどまで元気よく俺を慕っていた男の喉は、大きな口を作り、その赤黒い口から尋常じゃない量の血しぶきを上げていた。
突飛な出来事に思考が追い付くと、今度は全身で恐怖を感じた。足は震え、目の焦点は合わず、歯は噛み合わず心臓の鼓動は早くなる。その恐怖を薄めるために、もしくは目をそらすために反射的に俺は叫ぼうとした。しかし大きく吸った息は喉を震わせることなく、突如口を覆った何かによって阻害された。
「今から問う質問に答えろ、抵抗したり、大声を出したらすぐに殺す」
背後から感情のない声が聞こえる。おそらく目の前で血の噴水を拭き続けている相棒を殺した奴だろう。声を聞いた限りだとおそらく男のようだ。
どうにか相手の顔を見ようと首を捻ろうとしたが、その力の倍以上の力で逆方向に力を加えられた。
「変なことを考えるなよ、どうせ無駄だろうがな」
それから背後に立っている男は一呼吸おいて本題に入った。
「アザミという男を知っているか?」
そう言うと男は俺の口を塞いでいた物をゆっくりと離した。
大切な仲間を殺しておいて、口から出た質問がそんなくだらない事だったのだ、底知れない恐怖は怒りに変わり、自然と声は大きくなった。
「ア、アザミ?し、知らねぇよそんな奴!そもそもそんなことを聞くためにあいつを殺し…た…か_」
そして俺の叫びにも似た言葉は最後まで言い終えることはなかった。
「大声を出すなと言っただろう」
その言葉を合図とするかのように俺の首は血を吹き出すシャワーとなった。
声を出そうにも喉が震えることは無い。あと少しで夢が叶ったというのに、今の俺に残る人生の出来事は”死”のみだと直感してしまった。
せめて死ぬ前に殺した奴の顔だけは見てやろうと痛みに耐えながら体を男がいたであろう後方に捻る。
しかしそこにあったのは、深い深い闇のみで、
「せめて来世では悪事は行わない事だな…」
そんな無感情な声が微かに響いただけだった。
どうも、神無月 タクトです!
まだまだ物語は全然始まっていませんが、どうか見捨てないで読んでください!
せめて3話まで、いや、できれば一区切りするまで……よろしくお願いします