第零話 これは僕のプロローグ
「なぁ知ってるか煌希?制裁の死神の噂」
賑やかなファストフード店の中で目の前に座る友人である白菊 透夜は普段よりわずかに声の調子を落として僕に問いかけてきた。彼がこの話方をする時は特に聞いてほしい事があるときが多い。
僕は彼の話に集中するためにフライドポテトを食べる手を止めて聞き返した。
「制裁の死神?」
「何でも、能力使って犯罪を起こしてる奴らを容赦なく殺してるんだってよ、しかも殺されている奴らはみんな抵抗した形跡が一切ないんだ。罪を犯した奴らに制裁の死を与える死神のような存在なんだって」
「それは単に殺された奴らがマヌケだっただけじゃないの?」
彼は僕の冗談交じりの回答を一応否定した。
「いや、その殺された奴らは警察がどれだけ捜索しても捕まえられなかった奴らばっかりなんだよ。だから、そんな簡単に殺される奴らじゃないと警察は考えてるらしい。そうでもなければ警察の面子が丸つぶれだからな」
その声は皮肉の様な物言いで、どこか自虐のような雰囲気を持っていた。
「まぁ能力者による事件が起こり始めてきてからは警察の面子はつぶれ続けてるけどね」
それを聞いて彼はため息交じりに同意する。
「結局能力者に対抗できるのは特殊能力対策軍だけなんだろうな。能力者相手だと拳銃も警察手帳も大した効果がないのに親父はまだ気づかないのかな」
彼が愚痴をこぼすのもしょうがない、なんせ彼は現・警視監である白菊 誠の一人息子であり、幼いころから父親に警察官になるように教育されてきたらしい。それに反発するようにこそっと警察の機密情報を盗み出して僕に教えに来るのだ。
親への反発に、髪を派手に染めたりピアスを開けたりするわけでもなく、ほぼ犯罪の行為をこそこそとやっているのだから質が悪い。前に一度、親に反発する為に、何故そんなことをするのかと聞いた事があるのだが、その答えは「そこらの不良みたいに髪の毛を変な蛍光色に染めてもピアスの穴をあけても何の意味もねぇし、というか親父が怖えからそんな目立ことはできねぇよ。結局反発なんか自己満足なんだから、勝手にこういうことをして勝手に優越感に浸ってるのがいいんだよ」と言っていた。
まったく迷惑な事この上ない自己満足だ。
「まぁ、気付いてても認めるわけにはいかないんじゃない?一応SACAも名目上は自営業のようなものだし、確保した犯人の身柄もすべて警察に引き渡しているしね」
ちなみにSACAとは特殊能力対策軍の略称で、【Special Ability Countermeasure Army】の頭文字をとったものである。社会的な立場では探偵のようなものであるが、国民からの指示は絶大なものを誇るようだ。
「まったくややこしい世の中になったものだな…」
彼は小さく呟くと、手に持っていたバニラシェイクを飲み干した。
※ ※ ※ ※ ※
6年前、日本は新種の細胞であるエボルシオン細胞を開発した。この細胞は人体に組み込むことで、まるで魔法使いのように通常の人間には不可能な特別な能力を得ることができるらしい。
手に入る能力に法則性はなく、実際に組み込まなければどのような能力が顕れるかはわからないようだ。ただ、基本的には日常生活において便利なものが多いので、体に電化製品を組み込んだと思えばいいと思う。しかしその細胞を組み込む手術は、細胞の値段を含めると尋常ではないほど値が張るので、基本的には一部の金持ちや権力者ぐらいしか手に入れることができていなかった。
そして時は流れ、2052年になりエボルシオン細胞の量産に成功したことで、6年前と比べ一般人にも流通し始めたのと同時に能力を悪用する人間が爆発的に増えた。量産に成功する前からそのような人間はいたが、人数が増えたことで一部組織化しているという噂もある。
そしてこの物語は、僕の偽り続けた、長く短い人生の回顧録