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小さな寝息

…半分は分かってた、何となくだけど、そんな気はしていた。


何故か狭いベット、人肌の温もりを感じている背中。


首に伸びている細い2本の腕…柔らかい2つのクッションが


私の背中に当っている。


そして、耳元で聞こえる小さな幸せそうな寝息。


 


「……」


 


何でベッドが2つあるのにこっちにいるのだろうか。


確かに私が寝る前には向こうの方で眠っていた筈なんだ。


それから、私が眠っている間に何があったんだろう。


 


「…お空さん、なんでこっちに?」


「んー、ふふ、ゆで卵~」


 


ゆで卵が好きなのかな? 寝言で呟くって事はそう言う事だよね。


うーん、しかし、今は何時だろうか。


外を見てもあまり時間が分からない。


私の耳に入るのはお空さんの小さな寝息だけだ。


外から聞こえてくる音は何も無い。


小鳥の鳴き声も、草木がざわめく小さな音も聞こえない。


静寂という言葉がこれほどにピッタリな場所はないのかもしれない。


…こんな場所にいると、どうしても自分を見失いそうになる。


自分は何処に居るのかとか、そもそも、生きているのかとか。


音が聞こえない空間だと、そんな事を考えてしまうこともある。


だけど…そんな考えは、今は抱く事は無かった。


だって、お空さんの小さな寝息が聞こえる。


それに、人肌の温もりも感じているんだから。


……ふふ、この暗い部屋の中で私が確かにこの場所にいるという感覚。


良いかも知れない。


 


「……もう一度寝よう」


 


時間も分からないし、もう一度寝る事にしよう。


意外と安心出来るから…そもそも、安心出来なかったら


眠る事なんて出来るわけが無いよね。


眠っている間は無防備になるんだから、安心出来る場所じゃないと


眠ることは出来ないだろうからね。


おやすみなさい、心の声が聞こえる訳も無いだろうけど


私は心の中でそう呟き、再び眠る事にした。


…目を瞑り、眠ろうとすると、寝息と一緒にお空さんの心音も聞こえた。


耳が良いからね、目れだけ近ければ目を瞑れば聞こえるよね。


 


「……おやすみなさい」


 


 


 


 


ん、んー…揺すられてる?


 


「フィル~! 起きて~! 朝だよ!」


「ん、んー?」


 


私はゆっくりと目を開け、目の前を見たけど。


最初に飛び込んできたのはお空さんの顔だった。


と言うか、お空さんの顔しか見えないんだけど。


 


「あ! 起きた!?」


「あ、あの、お空さん? 顔が近いです」


「起きたか見るために近くにね!」


 


後、重い所から考えて、お空さんは私の上にまたがってるのかな。


重量が掛かっている場所は多分足の方、足の付け根かな。


そこら辺が重いし、後は手を置く場所、胸は無いよね…


 


「お空さん、何で私の上にまたがってるんですか?」


「またがりやすかったから!」


「……私の胸に手を置くの止めてください、嫌味ですか?」


「うにゅ? どういうこと?」


 


む、無自覚なのかぁ、いや、うん、分かってたけどね。


どうせ私は小っちゃいもん! 手を置きやすいまな板ですよ-だ!


でも、良いもん! 絶対大きくなるもん! 私、まだまだ小さいから


大きくないだけだもん! 大きくなったら絶対にこっちも大きくなるもん!


 


「う、うぅ…」


「ねぇ、フィル」


「はい?」


「気になってたんだけどさ、敬語、私に使わなくても良いんだよ?」


「え? いや、でも、どう考えてもお空さんの方が年上で」


「もう友達だし、別に敬語はいらないよ、名前もお空で良いよ?


 さん付けなんてしなくても良いよ? 敬語だと何だか距離がある様に感じるし!」


「……で、でも」


「良いじゃんか~、減るもんじゃないし~」


「……わ、分か、わ、分かったよ、お、お、お、お空さ、お、お空」


「うん!」


 


け、敬語を使わない相手なんて、は、初めてかもしれない。


私は誰に対しても敬語を使っていた気がするのに。


初めて敬語を使わないで話す相手が…は、恥ずかしい!


凄く恥ずかしい! 顔から火が出そうなくらいに恥ずかしい!


敬語を使わなくなるだけで、こんなに恥ずかしくなる物なの!?


名前を呼ぶときにさんを付けないだけでこんなに恥ずかしいの!?


凄く恥かしい! 顔から、顔から火が出る!


 


「フィル、どうしたの? 凄く焦ってるみたいだけど」


「な、なんでもあり、な、なんでもないで、な、何でも無い!」


「むー、絶対何かあるし」


「顔を近付けないで!」


 


あぅ…駄目だぁ、やっぱり慣れないよ…


 


「ふーん、まぁ、良いけどね!」


「え、えっと、それよりも早く私の上から降りてくだ…お、降りてよ」


「このままでも良いじゃん」


「い、いや、お…えっと、流石に窮屈かなって、後、私が少しでも動いたら」


「大丈夫! こうすれば落ちない!」


 


そう言って、何でか知らないけど、私に抱きついてきた。


……どういうこと? お空さ…お、お空は懐くと


こんなにもダイレクトに愛情表現してくるのかな?


あ、犬とか猫とかも懐いたら飛びついてきたりするみたいだし


それに似た感じ? で、でも、やっぱり人型でそれは…


私に対しては別に良いんだけど、同じ女の子同士だし。


でも、もしも男の人とかに懐いたりしたら…誤解されるんじゃ?


 


「ね、ねぇ、お空、そう言うの止めた方が良いと思うよ?」


「なんで?」


「いや、私に対しては別に良いんだけど…男の人とかに


 こんな事をしたりしたら、大変な事になるんじゃ…」


「大丈夫! 男の人にこんな事をするわけ無いし!」


「いや、説得力の欠片も無いよ? 出会って1日程度しか


 経ってない私に対してこんな事をしてたら…」


「フィルだからしてるんだって!」


「え、えぇ-?」


 


私、何もしてないけど…何もしてないのにこんな事をするから


心配になるんだけどなぁ…


 


「でも、心配してくれてありがとうね! ぎゅー!」


「いや、あの…もう、良いです、はい」


 


……私の胸に大きな柔らかいクッションが押し付けられた。


ああは言っても、やっぱり気になるのが私。


本当に私のお胸、小さすぎ…劣等感が強くなってくる。


良いもん…堪えるもん…我慢するもんね!


 


「あはは!」


「あ、あはは~…」


 


そんな事をしていると、扉の開いた音が聞こえてきた。


 


「……お空、本当にフィルさんにべったりですね」


「あ! さとり様!」


「お空、おねぇさんがかなりしんどそうにしてるだろ? 止めてあげなって」


「そうかな? そうは見えないけど」


「あんたの目は節穴かい? 相当我慢してる顔だよ、それ」


「…フィルさん、気持ちは分かります」


「お空のおっぱいは凄く大きいからね、どうしても自分と比べちゃうよね」


「こいし! 止めなさい! フィルさん、かなりダメージ受けましたから!」


「いやいや、お空のおっぱいが異常なだけで、普通はこんなにならないって意味


 だからほら、あまり気にしないで良いと思うな~、私は。


 ほら、お姉ちゃんとか私とかお隣とかと比べて見なよ、ね?


 フィルのおっぱいは小さくないよ?」


「あ、あはは、励ましてくれて、ありがとうございます…」


 


こいしさん、優しいなぁ…と言うか、皆さんが優しいんだ。


お空も本当は優しいんだ、でも、無邪気で無自覚なだけで…


 


「……ほぅ、どうやら、随分と仲良くなったようですね」


「え?」


「どういうことですか? さとり様」


「お隣にも分かると思いますよ、今は分からなくてもね」


「は、はぁ」


「まぁ、それはさておき、お空、フィルさん、朝食ですよ」


「はーい!」


「分かりました、ありがとうございます!」


 


……朝ご飯までお世話になるなんて迷惑じゃないかな?


 


「迷惑じゃありませんよ、皆で食べた方が美味しいでしょ? ね?」


「うん!」


「ありがとうございます、それでは、遠慮無く頂きます!」


 


あまり沢山食べないようにしないと、迷惑になっちゃうし。


私、大食らいだからな、本気を出したら全部食べちゃいそう。


 


「安心してください、沢山作りましたから」


「え? あ、はい、あ、ありがとうございます」


 


…ど、どれだけか分からないけど、楽しみかもしれない。


どんな料理なんだろう、楽しみ!

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