2人のお嬢様
「フラン、もうそろそろ良いでしょう?」
妹様の部屋の外からお嬢様の声が聞えてきた。
どれ位眠っていたのか分からないけど、結構時間が経ってたのかな。
「お姉様だ、うぅ、まだ殆ど遊べていないのに」
「そうですね、でも大丈夫ですよ、また私はここに来ますから」
「ほ、本当!?」
妹様は私の顔を見て、にっこりと笑顔を見せてくれた。
こう言う可愛らしい笑顔を向けてくれるのは、私としては本当に嬉しい」
「それじゃあ、フィル、また絶対に来てね、約束だよ? 遅すぎたら私から行くんだから」
「はい、いつでもお待ちしていますよ、妹様」
「むぅ、咲夜も美鈴も小悪魔もそう呼ぶから、私はそう呼んで欲しくないんだよ
私は確かにお姉様の妹だけど、私だって立派なレディーよ、お姉様のおまけ扱いは止めて」
「じゃあ、なんとお呼びしましょうか?」
「フランって呼んで」
「はい、分かりました、フランお嬢様」
私なんかがフランお嬢様の名前を呼んでも良いのか分からないけど
でも、フランお嬢様が呼んで欲しいって言うんなら、私はそれに答えないとね。
「それと、フランお嬢様はフラン・スカーレットなんですか?」
「どうしてそんな事を聞くの?」
「その、どうにも語呂が悪い気がして」
「私はフランドール・スカーレットよ、フランは略称なの、長いから」
あぁ、だからお嬢様もフランお嬢様のことをフランって呼んでたんだ。
それにしても、フランドール・スカーレット様か、語呂が良くなった気がする。
「そう、でも、フランって呼んでね、フランドールって呼ばれなれてないし
私としては違和感があるから」
「はい、分かりました、フランお嬢様」
「いつか、そのお嬢様呼びも無くなって欲しいな、私はフィルとお友達になりたいから」
「私なんかがフランお嬢様とお友達なんて、不釣り合いですよ」
「友達に釣り合いとか無いって、ね? 今はまだ良いけど、時間が掛かっても
絶対に仲良くなろうね、フィル」
「・・・・はい、そうですね」
「うふふ、その時が来たら、私のお友達を紹介するよ、楽しみに待っててね」
「分かりました、楽しみです」
フランお嬢様は私の方を見て、もう一度にっこりと笑顔を向けてくれた。
何だか凄く良い気分、誰かに笑いかけて貰えるのってこんなに気分が良いんだなぁ。
いつかお嬢様にもこんな笑顔を向けて欲しい・・・・フランお嬢様に
そして、その内・・・・何十年先でも良いから、私にも。
「フィル、そろそろ戻ってきなさい」
「あ、はい!」
「うぅ、寂しい」
フランお嬢様の方から、小さくそんな声が漏れてきた。
やっぱり寂しいんだ、そうだよね、こんな地下深くの部屋で独りぼっちなんて。
「・・・・それとフラン」
「何?」
「今日は一緒に食事をしましょう・・・・久し振りに」
「お、お姉様! 本当!?」
「えぇ、本当よ・・・・えっと、ほら、フィルが来た記念って奴よ
こう言うときくらいは仲良く一緒に食事をするのが貴族のたしなみよ」
「お姉様、うん!」
お嬢様はフランお嬢様の嬉しそうな表情を見た後、顔を少し赤くしてそっぽを向いた。
お嬢様も本当に恥ずかしがり屋さんだな、でも、やっぱりフランお嬢様のことを心配している
それは何となくだけど、分かった気がする。
「それじゃあ、行きましょう」
「うん!」
フランお嬢様も嬉しそうにこの部屋から出て、お嬢様の近くに移動してきて、手を握ろうとしたけど
お嬢様は少し恥ずかしそうにして、手を繋ぐのを拒否した。
「お姉様、どうして・・・・手を繋ぐくらい」
「えっと、それは」
「フランお嬢様、レミリアお嬢様は恥ずかしがってるんですよ、照れ屋さんなんですね」
「こら! フィル! 余計なことを言わない! 晩ご飯を犬の餌にするわよ!」
「そ、そんな殺生な!」
「ふふ、フィルが来たお陰でいつもより少し楽しいね、お姉様」
「そ、そんな訳ないでしょう、全く」
やっぱりお嬢様は顔を少しだけ赤くして、そっぽを向いた。
恥ずかしがり屋さんなのが凄く分かりやすい。
お嬢様って本当に分かりやすいなぁ、最初は怖かったけどこうやって見るとそんなに怖くないかも。
私はそんな事を思いながら、レミリアお嬢様の小さな背中に付いていった。
そして、大きな食堂に案内して貰った。
「咲夜、食事の用意を」
「承知しました」
さっきまで居なかったメイドさんがいきなり現れ、お嬢様の命令を聞いてすぐ
大きな机全部を覆うほどの料理が目の前に出て来た。
本当に一瞬だった、瞬きをする時間も無いほどに一瞬に。
これが時間を操る力・・・・凄い便利だなぁ。
「この速さから察するに、もう用意は出来ていたようね」
「はい、お嬢様が食事を取る時間は把握していますから」
「毎日これ位早ければ良いのにね」
「たまには我慢をするという時間も必要だと思いまして」
「変な時間は要らないわ、無駄じゃ無いの」
「こらえる特訓と思ってください、お嬢様はわがままですから」
凄いなぁ、あのメイドさん、レミリアお嬢様に対してこんな風に話せるなんて。
所々馬鹿にしているんだけど、でも、主思いな気がするなぁ。
「あー、そう、はぁ、それじゃあ、美鈴とパチュリーと小悪魔も呼んできなさい」
「おや? 今日は全員で食事なのですか?」
「えぇ、フィルが家に来た記念って奴よ、新しい従者が増える訳だし、顔合わせもかねてね」
「はぁ、左様ですか、では、少々お時間を」
そう言ってあのメイドさんはその場から姿を消した。
しかし、さっきみたいにすぐ戻ってくるわけじゃ無いんだ。
「凄いですね、あのメイドさん」
「そうね、家事は完璧、能力も便利である程度の欠点に目を瞑れば完全と言えるわ」
「その欠点ってなんですか?」
「よく主である私をからかうのよ、たまに鼻血も吹き出すし、よく分からないわ」
確かにからかってるのは少し分かってたけど、鼻血を出したのは1度だけじゃ無いんだ
フランお嬢様から聞いた話の時だけだと思ってたけど、もしかして鼻に病気でも抱えてるのかな?
でも、そんな風には見えなかったけどなぁ、やっぱり人は見かけによらないって事なのかな。
「でも、お姉様は咲夜のことを家族同然に思ってるよね」
「そ、それは見間違いよ、私にとって従者はただの道具よ、家族なんかじゃ無いわ」
そうは言っているけど、お嬢様の顔は真っ赤だった、やっぱり嘘をつくのが下手だなぁ。
でも、そういう所は好感が持てる、照れ隠しの嘘はそれが本当の気持ちだって証明だから。
それに、嘘を言うのが下手な人の方が話してて気分が良いしね。
「お嬢様、全員に声を掛けてきました」
戻ってきた咲夜さんの表情が少しだけ緩んでいる気がするんだけど、気のせいかな?
「ご苦労だったわね、それじゃあ、全員が来るまで待っていましょうか
咲夜、あなたもしっかりと食事を取りなさいね」
「はい」
「フィルは私の隣!」
「駄目よ、フィルは私の隣よ」
「何で-!?」
「安心なさい、フランもフィルの隣に座れば良いわ、今回はフィルが主役よ
だから、彼女が座るのは上座で、私達の真ん中に座ってもらうわ」
「そ、そうなんですか!?」
「えぇ、それと、スピーチも考えなさいね、小規模といえどパーティーよ、挨拶は重要でしょう?」
「え、えぇー!?」
そんな、いきなり無理難題を押し付けられても! スピーチってどうすれば良いの!?
何かを話すことだってのは知ってるけど、何を話せばいいかなんか分からないよ!
と、とにかく考えないと! でも、どうすれば考えられるの!?
分からない! あぁ、どうしよう!
「珍しいわね、全員で食事なんて」
「はい、私も参加するのは久し振りですね」
「いやぁ、今日は館内での食事ですか、咲夜さんの手料理は楽しみですねぇ」
あぁ! まだ、まだ何を話すかなんて決まってないのに! 皆来ちゃったよぉぉ!
も、も、もう駄目だぁぁーー!!