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登山

うーん、やっぱり山ってだけあって、結構歩くなぁ。

妖怪にもあまり出会えないし、意外とここは妖怪少ないのかな?

でも、妙な気配は四方からするんだけどね、視線も感じるし。

多分だけど、椛さんの視線かな、何でそう思うかは分からないけど

感覚的にそんな気がする。

それに…烏からも視線を感じる、考えすぎかな?


「……うーん」


やっぱり歓迎されてないのかな?

監視されてる感じだし、気配はしても誰も姿は見せないし。


「うぅ」


私がそんな事を考えていると、私の近くを素早い何かが通った。

木の葉が揺れる音が、何かが通ったと言うことを私に告げている。

揺れ方が不自然だからね、他の木の葉は揺れていないけど

その一部の木の葉だけが揺れた、風じゃないと言う事は分かる。


「……誰?」

「あやや、私の場所が分かりましたか」


私が視線を向けた先には何匹もの烏

そして、烏の群れが散ると、中心から黒髪の女の人が姿を見せた。

あの頭にある赤い帽子の様な物、服装は違うけど

あの頭の赤い帽子であの人が天狗だと言う事に私は気付いた。

でも、椛さんとは雰囲気が違うし、耳も尻尾も無い。

それに、あの人が周りで飛ばしている烏。

椛さんとは違うけど、きっと彼女は天狗だ。

だけど、目的が分からない…私を追い出すために来た

と言う訳ではない、敵意も感じないから。


「あ、あなたは?」

「あやや、これは失礼、私の名前は射命丸しゃめいまる あや

 しがない新聞記者ですよ」

「…う、嘘はよくありませんよ、どう考えてもあなたはただ者じゃ無い」


何となくだけど分かる、この人は凄い人だって事が。

私はこの人が移動したところを見てない。

気配を何となく感じて、その方向を見ただけ。

それに、さっきまでこんな至近距離に気配は感じてなかった。

私は一応狼だ、気配を感じることは得意。

でも、この人は私に気配を探らせることも無く、こんな至近距離に表れた。

恐らく、さっきの木の葉の揺れはこの人が移動したことで生じたんだろう。

私が気配を察する事も出来ないほどの一瞬で接近した。

でも、確かに移動した、木の葉が揺れたんだから。

紫さんは能力で後ろに姿を現すことも出来る。

咲夜さんも時間を止めて私の前に現われる。

紫さんは移動したという過程は無いから分からない。

咲夜さんは移動したという時間が私の認識の中に無いから分からずに接近される。

でも、この人の場合は確かに移動した、私が気配を感じるよりも速く、速く。

移動したという証拠もある、確かに移動してたんだ、私が気配を感じるよりも速く!

自分の能力を過大評価してる訳じゃ無い、でも、私は臆病者。

気配を察する事に関しては自信がある…だけど、この人はそれよりも速い!


「何故、私の言葉が嘘と?」

「あ、あなたは私が気配を察するよりも速く移動してきた。

 こんなんですけど、私、気配を探る事に関しては自信があります

 現に、椛さんが私を監視してると言う事も分かってますし

 烏の視線も、あなた以外の気配もいくつも感じてる」

「ほぉ、能力で見ている椛の視線まで感じますか、大した物ですね

 それに、使い魔の烏の視線、私以外の天狗の気配も感じると

 他の天狗達はかなり距離を取り、気配を消しているはずなのに

 それを感じ取るとは、確かに凄まじいですね、その能力」

「そ、そうでしょ? 私の数少ない自慢です…

 でも、あなたはその私に気配を感じ取られることも無く

 一瞬でこんな近くに現われた…間違いなく、ただ者じゃ無い」

「あやや、私、こう見えても幻想郷一の速度ですからね

 速さは私の数少ない取り柄です」


う、嘘だ…この人、絶対にもっと何か隠してる。

絶対に速さだけって言う訳じゃ無い…何かある。

……で、でも、今は敵意を感じない。

それはありがたいこと…この人が私を殺しに来たら

間違いなく私じゃ敵わない…速いから逃げる事も出来ない。


「疑ってるようですね、なる程、警戒心も相当

 それに予想能力、いえ、直感ですかね、その能力も高い。

 更には身体能力も高く、怪力ですか」

「な、何の事ですか?」

「いえ、ちょっとだけ調べたあなたの情報です

 と言っても、紫さんから少しだけ聞いただけですが」

「紫さんに出会ったんですか?」

「えぇ、大天狗様への報告のついでに教えてくれました

 で、私はあなたに興味を抱いたんですよ、フィールさん」

「……」

「そう警戒しないでください、私はただ取材をしに来ただけです

 あなたのお得意の直感で、私に敵意が無いことは分かっているでしょ?

 あ、もし敵意があるかどうか分からないと言うのならば証明しますが」

「…い、いえ、敵意が無いのは…分かってます」

「なら話が早い」


……ただ、この人の底が分からない、だからかなり警戒してる。

今は敵意が無いとしても、その内私に攻撃してくるかも知れない。

この人の目的は取材だったかな…よ、よし。


「な、何で私なんかの取材に? 私は何処にでも居るような半獣です」

「半獣その物がレアケースですよ、幻想郷に数は少ない。

 まぁ、それだけならちょっとだけの取材ですむのですが

 あなたは違う、あの八雲 紫さんがあなたに妙に肩入れしている。

 わざわざ大天狗様へあなたの事を伝えに来る程ですからね

 それに、この妖怪の山へ来たのも紫さんの指示

 こうなってくると、新聞記者として真実を探りたいと思うに決まってますよ」

「わ、私は自分の事も分かってないんです、記憶も無いですし」

「ほぅ、記憶喪失ですか、これまた興味深いですね

 もっとお話しを聞かせてください、それに、取材のお礼と言っては何ですが

 案内しますよ? 妖怪の山を、私が」

「え?」

「私は烏天狗です、この妖怪の山には詳しい、天狗の住居までは無理ですが

 そこ以外なら先導して差し上げます、その代わりに私に取材をさせてください

 あなたの事を」

「さっきも言いましたよね、私は記憶が無い、私は私自身を知りません」

「それでも構いません、私は今のあなたを取材したいのですから

 それで? どうですか? 私の取材、受けてくれますか? フィールさん」


……何だろう、この人…何を考えているのか分からない。

何で私なんかの取材を? 私の事を知っても、大した意味は無いはずなのに。

ただの知的好奇心? それだけで今、妖怪の山で警戒されてる私に声を掛ける?

じゃあ、監視役…いや、監視役は十分いるはずだ。

いくつもの気配に、椛さんの視線…監視の目は十分すぎるほどにある。

じゃあ、この人の独断? その可能性が高いけど。


「ふふ」


…あの不敵な笑みの裏に何があるのか…私には分からないけど。

でも、山を案内してくれるって言う申し出は私にとっては嬉しい話。

言い方を変えれば、私を釣る大きな餌って感じだけど。

…でも、敵意は感じない、隠していたとしても今は全力で相手を見ている。

こう言うときの私の感覚は鋭い、隠していても、敵意は読める。

でも、それが無い…上手く隠しているのか、それとも本当に敵意が無いのか。

……賭けてみよう、向こうは私を仕留めるつもりなら、いつでも出来たと思う。

あの速さで移動できるなら、私に気が付かれる前に背後に回り、攻撃出来た。

でも、せず、わざわざ私の背後で動きを止め、烏の中から姿を見せた。

きっとあの登場は自分の強さを私に示す為の演出なんだろう。

私がこの人に敵対する気を失せさせるための演出。

速さを表現し、自分の目を掲示した、逃げられないぞと言う演出でもあったのかも知れない。

必ずこの取材を受けさせるための演出…となると、きっとこの人の目的は本当に取材だけだ。

殺すならいつでも殺せた、でもしなかった…なら、あの条件も本当だろう。

だったら、私にこの取材を受けない理由はない。


「…分かりました、その取材、受けます」

「おぉ、これはありがたい! でも、答えるまで時間が掛かりましたね

 やはり、私の事を大分警戒しているようだ」

「あんな大がかりな演出を見せられたら、警戒もしますよ」

「…ほぅ、あの登場を演出と見抜きますか、やはり素晴らしい予想能力だ」

「……それで? 私は何を答えれば良いんですか?」

「そう焦らないでください、時間はたっぷりありますよ」


…何を考えているのか分からないけど…きっと大丈夫だ。

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