最大の切り札
今、私達に出来る最大限の抵抗、それがこれ。
何処までも抵抗してあげるわ、異変解決が私の仕事ではあるけど
今回ばかりは正直私だけでは手に余るからね。
彼女の存在は、もはや幻想郷の外にすら影響を与える物。
幻想郷のみの異変であれば、私は1人で解決に乗り出すけど
今回は幻想郷のみならず、外の世界所か月も、宇宙さえ巻き込むレベル。
でも、解決出来ない異変では無い。
何故なら異変の主の動機が非常に分かりやすいから。
圧倒的な力を持つ少女ではあるけど、その力は望んで得た物では無い。
その力を振りかざして暴れ回りたいと思っているわけではない。
望まず得たその力を持て余し、孤立し、居場所を求めただけ。
全てを破壊してしまう存在がただ居場所を求めただけ。
なら、居場所を与えてあげれば良いだけの事。
ここが居場所だと、彼女に証明してあげればそれで良い。
その為にも今は時間を稼がないと行けない。
残り1時間、私が時間を稼ぐことが出来ればそれで良い。
「行くわよ、覚悟はいい?」
「覚悟するべきなのはそっちだけだろ」
「私はとっくに出来てるわ」
一気に攻撃を仕掛ける。時間を稼ぐのが私の役割とは言え
多少はフィルの体力を削っておきたいからね。
「な、随分速いな!」
幻想降ろしは幻想郷全体の力を身に纏う技
幻想郷の住民に出来る事なら大体出来る。
正確には私が解決しようとしている事柄を
同じく解決しようとしている住民の力のみを模倣できる。
今回私がここまで力が溢れてきている理由は
彼女を止めようと幻想郷の連中が動いてるのが大きな要員。
それだけ、彼女はこの幻想郷に愛されている。
「そこ!」
「うぉ! パワーも随分と増したじゃないか!
なら、力比べって言うのもありかな?」
彼女の攻撃を受け止める…そのままフィルはドンドン力を込めていく。
くぅ、か、怪力ってレベルじゃ無いわね…押されていく。
今回は鬼の連中の力を模倣出来てると思うんだけど
その力すら凌駕してるって事かしら…力比べは分が悪い!
「正面からの攻撃は無理ね」
「スキマ…」
紫の境界を操る能力か、便利がいい能力よね。
今回は私も多少は模倣できるけど今の私には難しいわね。
流石に移動程度にしか利用できないわね、特殊な能力だし。
こう言う特殊な能力は使用者自身の経験が大きいからね。
即席で手に入れた力では持て余すだけになるわ。
これが幻想降ろしの短所と言った所かしらね。
幻想郷全体の力を行使出来るが、使えると使いこなすは別だしね。
とは言え、強力な技である事に変わりないのだけど。
単純な力なら結構模倣することが出来るし。
「そこだな!」
「おっと」
「消えた…」
危ない、スキマで移動したところを狙ってくるとは。
ひとまず輝夜の能力で身を隠したけど、これは中々強力ね。
勘が鋭いわ、私も勘には自身があるけどここまで瞬時に
相手が何処に移動したかを把握するのは難しいわね。
「あぁ、そうか一瞬の時間を集めて隠れたのか。
だったら、その一瞬よりも速い速度で殴れば良い。
須臾よりも速く、認識出来ない一瞬よりも速く」
「ッ!」
今まで見たことが無い速度…危うく当るところだった。
でも、私の攻撃を与える瞬間に何故か姿が見えた。
加減をしたのね、私が何処に隠れているかも把握して
その場所に私よりも速く移動した。
それなのに私への攻撃が見えたというのは不自然。
躊躇ってる、あの子は私を殺す事を確実に躊躇ってる。
加減無しで私を攻撃することで私が死ぬ事を危惧している。
だから、彼女はこの須臾の術を突破することは出来ない。
「隠れる能力って結構便利だな」
「あら、白々しいわね」
須臾の力を解除した、彼女のスタミナを奪うためにも隠れ続けるのはね。
本当、色々とぶっ飛んでるわよね、この子は。
「時間を操る能力とか便利に見えるが俺には関係が無い。
本気を出せば時間の外側からの攻撃だって出来るんだぜ?
他にも時間よりも早く動けたりすることも出来る。
色々と外側に居るのが俺って存在だからな」
時間よりも早く攻撃とか意味が分からないわね。
スケールがちょっと私には理解できないくらいに大きいわ。
「例え時間を止めようと俺には関係ない。
連続した一瞬なんて、俺にはなんの影響もなさない。
時間は生き物が変化を理解するために考え出した概念でしか無い」
「あると思うけどね、時間」
まぁ、それを証明する手段なんて私には無いんだけどね。
でも、今の私には時間と言う考えが存在している。
そもそもここは幻想郷。全てを受入れてる世界。
それなら、時間という概念も受入れているんじゃ無いかしらね。
「だと良いがな!」
「一気に来たわね、でも!」
彼女の攻撃を反撃の拳で迎え撃つ。
同時に、彼女に気を流し込む。
「おぉ、面白いな」
一応、気を流し込んで相手にダメージを与えようとしたわけだけど
やっぱりこの子には大した影響はないわね。
例えダメージを受けても瞬時に傷が癒えている。
彼女の生命は寿命以外の物を否定していると言えるのかしら。
寿命以外では死なない、怪我も瞬時に癒える。
でも、完全に変化を否定しているというのであれば傷さえ付かない筈。
つまり、彼女は完全に変化を否定しているというわけでは無い。
それはつまり、自身の心の変化を否定しているわけでは無いと言える。
彼女は変化を受入れる。それは分かりきってる事。
「だが、無駄だぜ!」
「いっつ!」
このまま長期戦になるのは不味い…でも、あまり時間を稼げてない。
まだ30分経ったか経ってないか位しか交戦できていないのだから。
何度も打ち合ってるけど、その度に力の差を見せ付けられる。
やっぱり彼女を撃破すると言うのは不可能ね。
最初から、彼女を倒そうとは思っては居ないのだけど。
……ん? あぁ、結構時間は稼げたのね。
「そろそろトドメだ、博麗の巫女」
「……あなたは気配を探知するのが得意だっけ?」
「この場で何言って、な!」
私とフィルの間に突き刺さる赤い光りで出来てる槍。
紅い吸血鬼が操る武器。
「待たせたわね、フィル」
「……」
真っ昼間に日の下に身を晒す吸血鬼なんて不似合いよね。
「…あんたは、レミリアお…レミリア」
「あら、そのままレミリアお嬢様って呼んでも良いのよ?
なんなら、今ご主人様と呼んでくれても構わないわ。
……さぁ、向かえに来たわよ、フィル」
「一緒に帰ろう。私達の家に」
レミリアの横には大きな剣を携えたフランの姿もある。
何と言うか、普段なら頼りになりそうとか思わないんだけど
今回はようやく真打ちが登場したかって気分になるわね。
「はん、あんなクソみたいな場所に戻るかよ!」
「おや、あなたは本当に嘘が下手ですね。心を読まなくても分かりますよ」
「…地底の……なんでここに」
本来なら地底の妖怪は地上には出て来られない
紫と地上の妖怪達はそんな約束をして居る。
最近は平気な顔で地上に出て来てたりするけど
こう言う場面で地底の連中が全員動くのはそう無い。
「周囲を見ると良いよ、フィル」
「リリカ…」
「今度は私が手を差し伸べて上げるわ」
「姉さんがどうしてもって言うから来てあげたわよ、感謝しなさい」
「フィルさん、もう一度歌を聴かせてくださいね、気に入ってるんですから」
「聖の言うとおりだよ、もう一度聞きたいね。
今度はお話しもして見たいからさ」
「バトルロワイヤルの時よりも凄い事になってな。
ま、あの時とは目的も全然違うのじゃがな」
「私が動くんだ、、感謝すると良いぞ」
「フィルー! 今度こそあたい達が止めてやるー!」
「油断しないようにするのだ、チルノ」
「どうなってやがる! いつの間に!」
今回、私の最大の役割は、最終合流地点であるこの博麗神社で
全員の到着までの時間を稼ぐという物だった。
「ふふ、気付かなかったようね。私の幻想降ろしに隠れて。
これが狙いよ、私の最大の狙い。
ここがあなたの居場所よ。あなたの為にこれだけ集まったわ」
「あの幻想降ろしはこいつらが近付く気配を隠す為の物だったのか!?」
「そう言う事よ」
「…やってくれたな」
「八雲紫、本当にあの吸血鬼の案に賭けるつもりなのね」
「えぇ、あなたも協力してくれるとは思わなかったわ、月の賢者」
「気が変わったのよ、迷惑を掛けたお詫びはしないとね」
「……だが! 雑魚が群れてなんになるってんだよ!」
「あなたを止めることが出来るわ」
「はん、ふざけた事を」
「安心して、フィル。証明してあげるから!
そして、ここがあなたの居場所だって認めさせてあげるから!」
「やってみろよ雑魚共!」
これが最後の攻防になるでしょう。
幻想郷の住民達を集めた最大の攻防戦!
これだけ受入れてくれる人が居るんだしね。
「フィル、ここがあなたの居場所よ!」
「俺に居場所なんざ必要無いんだよ!」




