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必死の時間稼ぎ


最初の時と比べて、今の儂は力が出て来ている。


今の儂なら、もう少し足止めをする事も可能じゃろう。


しかし、それでも奴の動きを日が明けるまで止めるのは困難。


 


藍殿と橙の2人がおるが、この3人でも恐らくは大した時間は稼げぬ。


じゃが、本来ならば時間を僅かでも稼ぐことは出来ていないはずじゃ。


彼女の本気は世界を滅ぼすレベル、聞いた話では


彼女はオカルトも扱い、そのオカルトは実質的な即死攻撃。


その攻撃を一切使用してきていない。


 


そして、彼女の動きも儂らが捉えられる程度の速度。


本気ならば、儂らが目で追うことなど出来ぬほどの速度で動くはず。


彼女は本気を出してはおらん。じゃから、儂らに勝利は無い。


彼女が本気を出せば、幻想郷その物を捕食する事も可能じゃろう。


 


じゃが、儂らに勝利は無いが、それ以外にも事態を収める方法はある。


その方法が引き分け。決着が着か無い結末。


引き分けを手に入れるためにも、時間は稼がねばならない。


向こうも勝つ気は無いようじゃし、


そこを上手く利用すれば戦い以外で時間を稼げるはず。


 


「さぁ、決めさせて貰う!」


「く!」


 


一気に加速するか…じゃが、まだ儂にも見える程度の速度!


やはり、本気はまだ出すつもりは無いようじゃな。


口では本気を出してる風じゃが、実際は全然と言う感じじゃ。


 


「ん? おぉ!」


 


何とか周囲の妖気を練り上げ、彼女を拘束する紐を作り出す。


そして、フェンリルの足下から一気に発現させ、両手両足を拘束する。


じゃがまぁ、当然と言えば当然で、フェンリルは表情1つ変えぬ。


 


「橙!」


「はい、藍様!」


 


儂がフェンリルを拘束すると同時に2人が左右に展開。


彼女を覆うように同時に結界を張った。


あの橙という子は結界を操れるのか。


 


「や、やりました! 結界を張れました! 初めて!」


「張れただけよ! すぐに距離を取って!」


「はい!」


「良い判断と褒めてあげようかな」


 


2人が距離を取ると同時に、フェンリルが儂が発動させていた


妖術の紐を引きちぎり、振り回すことで周囲の結界を切断する。


まさか儂の紐を武器として使われるとは…


 


「うぅ…藍様に言われて距離を取ってなかったら…」


「やっはり規格外じゃな、主は」


「幻想郷という狭い規格に僕が収まるわけ無いよ。


 もっと大きな規格を持ってきてくれないと」


 


幻想郷所か、こやつは地球の規格の外におる。


星規模では彼女の範疇には入らぬか。


 


「他者の能力を受け付けないというのは脅威だな」


「受け付けるよ? 他者の能力による干渉はね。


 ただ僕の命に干渉できないだけ。勿論封印も意味は無い。


 その気になれば簡単に解けるからね、封印は命の拘束と言っても過言じゃ無いんだし」


 


勿論、彼女を封印できるとは儂も思ってはおらぬ。


最初から、封印という選択肢等、儂らにはないのじゃ。


紫殿は封印という選択を視野に入れているようじゃがな。


 


「さ、無駄な時間はそろそろ終りにしたいんだけど、どうかな?


 そろそろ良い時間だしね。どれ位遊んだかな?


 1時間? だとすれば結構遊んだね」


「2時間じゃよ、結構な時間じゃ」


「最初に20分、天狗相手に2時間、で、君達相手に2時間か。


 合計すると4時間20分だね、いやぁ遊んだ遊んだ」


 


彼女が幻想郷に戻ったというのが夕暮れ時だったはず。


今は日も長いし、今の時間は午前1時…日が明けるまで残り4時間か?


ならば、もう少し位は稼ぎたい…


 


「じゃ、そろそろお休みの時間だね、特に橙。子供は寝る時間だよ?」


「猫は夜行性よ、まだまだ元気いっぱい!」


「最大限の抵抗をするしか無い…英子殿! 恐らくこれが最後になる!」


「分かっておる! 儂の最高を叩き込む!」


「お? フィナーレかな? 良いよ。特別に受けてあげる。


 最大の技を完膚無きまでに叩き潰されちゃったら、流石にやる気も無くなるだろ?」


「……かもしれんのぅ」


 


予想通りじゃ、恐らく儂らが最大の技を使うと言えば受けようとすると思った。


彼女は儂らに抵抗することを諦めさせようとしている。


ならば、最大の技を叩き潰すというのが最善の手じゃろう。


戦意喪失は免れぬ。じゃが、儂は最初からこの技が通用するとは思ってはおらぬ。


足止めじゃ、ただ僅かでも時間を稼ぐためにこの技を使うまで!


 


「ゆくぞ!」妖鬼「幽遠なる百物語」


「ん?」


 


周囲の光りを奪い、何処までも深く深くへと誘う百物語。


百の語りを終えれば、真なる悪鬼がその姿を現す。


幾多の鬼を呼び出し、深き物語の奥底へ誘う。


 


「…鬼を操る技…だと」


「儂の最高の技じゃ、この鬼は幻影に近い存在じゃが


 限り無く本物に近い実力を持つ。


 1000を超える鬼が集まるところに、主は立ち続けることが出来るか?」


「1000か、小腹を満たす程度は出来そうだね」


 


本来はこれだけの数を操ることは出来ぬが、どうも今夜は調子が良い。


過去最大の勢力を操ることが出来る。多少時間を稼ぐことは出来るじゃろう。


 


「なら、補助する! 橙!」


「はい!」


 


2人がフェンリルの足を止める為に多重の結界を展開した。


あれだけの結界を操れるのか…流石は賢者の式。


 


「こんな事しなくても逃げないのに…じゃ、一気に来なよ。動かないから」


「やれ!」


 


千の鬼を操り、フェンリルへ攻撃の指示を出した。


鬼達は一斉にフェンリルの元に走る。訳では無い。


動かないというのであれば、大量に迫ってきていると見せかけて


長い長い波状攻撃を仕掛ける。時間を稼げるのであれば、それで良い!


 


 


「はい、これで全部だね」


「……やはり敵わぬか」


 


1時間、これだけ時間を稼げれば十分じゃろう。


流石にこの技を使ってしまっては力が持たぬ。


もはや今の儂は一歩も動けぬし、戦えぬのぅ。


 


「うぅ、ら、藍しゃま…も、もう身体に力が入りません…」


「私もだ…あの結界を1時間維持しては、力も…」


「それじゃあ、これで終りにしよう。お休みなさい、藍さん」


「く…」


 


藍殿を攻撃するために、フェンリルは拳をあげた。


危機的な状況に見えるが、何故か儂は冷静であり


この状況に焦りは覚えていなかった…その後、どうなるかを理解していたからじゃろう。


 


「あら、お休みなさいにはもうちょっと速いわよ、藍。まだ働いて貰わないと」


「ゆ、紫様!」


 


フェンリルの攻撃が藍殿に当る直前に藍殿がその場から消える。


そして、紫殿に担がれて、藍殿が橙の隣に姿を見せた。


 


「ら、藍しゃま! 紫しゃま!」


「相変わらず、焦ると少し噛むのね」


「ご、ごめんなさい…」


「……」


 


不意に藍殿を助けられた筈のフェンリルだが、表情は穏やかなままだった。


むしろ、僅かに笑っているように見える。分かっていたんだ、こうなることが。


 


「あと1歩だったのに、残念だよ」


「あら、嘘を吐くならもう少し上手に吐きなさい。


 残念って表情じゃ無いわよ、フィル…いや、フェンリル」


「ふ、で? 何で今更? 波状攻撃なら僕に勝てると思ったのかな?


 残念だけど、僕は一切疲れてないよ?」


「波状攻撃でどうにかなると思ってるなら、もっと数をぶつけるわ。


 そして私が今出て来たのは、あなたを倒す手立てが整ったからよ」


「へぇ、それは面白いね。じゃあ、見せてよ、その手立て」


「あら、教えろと言われて作戦を教える馬鹿が何処にいるのよ」


「はは、ごもっとも。ま、良いよ。どんな作戦でも構わない」


「じゃぁ、邪魔な連中には帰って貰いましょうか」


「ぬぉ!」


 


落下するような感覚の直後儂は自分の家の中にいた。


……準備をしろと言う事か。良いじゃろう。着替えるとするか。


しかし紫殿…どんな手を考えているのか…じゃが、任せるしかあるまい。


もはや儂の役目はここまでじゃ、後は任せたぞ。

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