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月を喰らう者


馬鹿な…こんな事があっても良いのか。


たった1匹の地上の妖怪に…


 


「ふーん、他愛ないね。所詮この程度か」


 


私達、月の使者が手も足も出ないなんて事が!


あいつの足下には、私の部下が全員転がっている。


あの狼に傷1つ付けることが出来ないままで!


 


「さ、リーダーさん、後は君だけかな? さっきから大した攻撃してこないけど


 リーダーなのにあれが全力とか言わないよね?」


「仕方ない、1人相手に使う事になろうとは思わなかったけど


 愛宕様の火! この炎は小さく見えても全てを焼き尽くす」


 


愛宕様の火、あの月面戦争で使った炎。


 


「地上には、これほど熱い炎は殆どない」


「……ぷ、ぷふ、くくく、あはは! 馬鹿だねぇ! 実に馬鹿馬鹿しい!」


「な!」


「それっぽっちの炎、僕には威嚇にすらならないよ、ほら来なよ」


「甘く見たのがあなたの運の尽きね、燃え尽きなさい!」


 


あの狼は、私の炎を一切抵抗すること無くその身に受ける。


 


「嘘!」


「どうしたのかな? この程度で驚いてどうするの?」


 


でも、あの狼はこの炎に包まれようとも表情1つ変えていない。


そんな馬鹿な事が!


 


「この程度の炎、僕には何の意味も無いのさ、威嚇にもならないって言っただろ?


 僕はこれでも、地上を焼き払える炎だって扱える。


 地上全てを火の海にすることも造作ない火力を僕は出せるのさ。


 その規模の炎に包まれていたときもあったし、こんな程度の炎


 僕には全く意味は無い、涼しい位さ」


 


この狼は…今まで戦ってきた連中とはまるで違う!


手加減をして勝てる相手じゃ無い、地上の妖怪にこれほどの実力者が居るなんて!


 


「く! 火雷神!」


「へぇ、月にも雨って降るんだね。で、何がしたいの? 炎を消火してくれるのかな?」


「笑っていられるのも今のうちだ!」


「あ、雷だね、あらら、僕に落ちるのか。ちょっと痺れるなぁ」


「燃えろ!」


 


七頭の炎の龍、これは中々にキツい筈…


 


「また炎か、僕に炎系は無駄だってさっき分かったと思うけど無駄な事をするね」


「な!」


 


あの狼が大きく息を吸うと、私が出した炎が彼女の口に吸い込まれる。


 


「ぷふ、お返しさ! 燃えちゃいなよ!」


「うぅ!」


 


あ、あの炎よりも高火力! でも、この程度なら問題無い!


 


「石凝姥命!」


「へぇ、跳ね返せるんだね」


「自分の炎で灰になれ!」


「ならないんだなぁ、これが。自分の毒で死ぬ虫が何処に居るのさ。


 むしろ、この炎で灰になるのは後ろの都じゃ無いのかな?


 私が避けた場合のこと、考えてる?」


「しま!」


「ま、今は君との戦闘中だ」


 


狼は手を大きく振り上げ、炎が自身に到着する瞬間に手を大きく振り下ろす。


すると、私が跳ね返した炎が全て地面の方に降下し、周囲に四散した。


 


「無関係な奴を巻き込む野暮はしないよ、少なくとも今はね。


 僕の目的は所詮暇つぶしだ、どうせ潰すなら自分の力で1個1個潰していくさ」


「……も、目的は何なんだ! お前は!」


「最初から言ってるじゃ無いか、暇つぶしだって」


「ふざけるな! そんなの信じられるか! 都を侵略しに来たのだろう!?」


「んー、違うなぁ」


 


く、何なんだこいつは! 何が狙いで、こんな事を!


前に来た連中とはまるで違う…私の全力がまるで意味をなさないなんて!


 


「で? どうする? そろそろさ、本気を見せてよ。


 さっきから加減してるでしょ? 最後の切り札、出してないでしょ?」


「お前相手に出す必要は無い! 天津甕星」


「へぇ、何か何処かの魔法使いを思い出す弾幕だ」


「避けられるか!? お前に!」


「満を持して使ったところ悪いけどね、僕、避けるの得意なんだ」


「く!」


 


一切表情を変えることなく、天津甕星の弾幕を全て避けきった!?


 


「この程度の弾幕なら、普段のあの子でも簡単に避けられそうだね」


「く…なら! 女神を閉じ込める祇園様の力」


「ん? 拘束系かな?」


「下手に動けば、祇園様の怒りに触れる事になるぞ、動かないことをお勧めする」


「そ、どんなことになるか見せて貰おうじゃん」


 


彼女は上空へ飛んだ、同時に祇園様の怒りは彼女に向き


地面から飛び出した刃が全て彼女に向って飛んでいく。


 


「あぁ、そう言う。無駄だね、無駄すぎる」


「これも駄目か…」


 


だが、彼女は飛んで来た刃を全て上空で叩き落とす。


更には1つ刃をつかみ取り、飛んで来る刃全てをへし折った。


 


「この程度が怒り? 大した怒りじゃ無いね、これなら僕の方が怒ると恐いよ?」


 


どうする、私の攻撃がまるで通用しない…さっきのは神須佐能袁命の力だ。


それを表情1つ迎撃したところから考えても


天照大神や月読尊を降ろしたところで歯は立たないだろう。


なら、伊邪那岐命か伊邪那美命を降ろすしか無いか?


 


「まぁ、今までの戦いから大体察したけどさ、君の能力は神降ろしかな?


 どれだけの神を降ろせるかは知らないけどさ」


「八百万だ、その神を私はこの身に降ろせる」


 


これが威嚇になれば良いが…そうすれば、多少は勝機が見える筈だ。


 


「へぇ、でも残念だね。神をどれだけその身に降ろそうと


 例え、全ての神が束になって僕に挑んだとしても、神に勝算はないのさ」


「何を馬鹿な」


「悪いけど僕はね、分類的には神の天敵なのさ」


「そんなでまかせを信じるとでも?」


「僕は神を殺せる、食い殺せる。僕は神の力による影響は受けない。


 僕は神に牙を向けるが、神は僕に刃を向けない、向けたところで無意味だからね。


 神は本能的に僕に恐怖する。主神さえ食らう魔狼だからね。


 


 一部の神はこの僕には怯えないとは思うけど、日本の神程度じゃ何も出来ないのさ。


 だから、ハッキリと宣言してあげよう。君は僕には勝てない。


 神に頼る事しか出来ない君じゃ、僕には一生を掛けても敵わないし


 傷を付けることすら困難だろう。


 例え伊邪那岐命を降ろしても、例え伊邪那美命を降ろしても僕には勝てないのさ。


 神の力に頼る以上、君はどう足掻いても僕には敵わない」


 


こんな言葉、所詮はでまかせだと考えるのが妥当だ。


だが、彼女の今までの力はこの言葉を真実だと私が信じるには十分過ぎる物だ。


私の攻撃全てが彼女には届いては居ない、傷も与える事すら出来ては居ない。


手も足も出ない、牙を向けることを躊躇してしまうほどに圧倒的すぎる実力差。


あの言葉が真実だとすれば、私と彼女は最悪の相性と言える。


 


「なら、神以外の力ならどうなるのかしらね。殺すのは忍びないけどこれ以上は」


「ん? あ」


「姉さん!」


 


姉さんが扇子を仰ぐと、さっきまで私の前に立っていた狼の姿が消えた。


あの扇子はひとたび仰げば森を一瞬で素粒子レベルで浄化する風を起こす。


その風を受けてしまえば、流石の彼女も助からないはずだ。


ようやく勝てた…これで何とか月は


 


「いやぁ、いきなりは酷いと思うよ、僕は」


「……嘘」


「そんな! 粉微塵になったのに!」


「全くさ、不意打ちで相手を粉微塵にするとかどう言う神経してるのさ。


 折角僕は紳士的にさ、都に被害を出さないように戦ってあげたのに随分な仕打ちじゃ無いか。


 正面からでもあれだけど、不意打ちって言うのが余計に嫌だね。


 まぁ、正面から振ったところで意味は無いと思うけどね。


 いや、多分1度は受けて、同じ様に粉微塵になったかも知れないけど」


 


粉微塵になったはずの彼女が、瞬時に元の姿に戻った。


もしかして、こいつ…こいつは!


 


「ふ、不死!」


「ご名答。とは言え完全な不死じゃ無いけどね、不完全な不死さ。


 僕は不死を殺す力でも殺せない、純粋な生と死しか無い存在。


 外部からの干渉は決して受けず、寿命のみでその生を終える不完全な不死。


 因みに、寿命を奪ったり操ることも僕には効果はないよ。


 外部からの干渉は決して受けないからね」


 


そんな不老不死が…蓬莱の薬をこいつも飲んだというのか?


 


「さ、どうする? 今ので僕、ちょっとだけ怒っちゃったよ?


 だってさ、折角買って貰った服がパーになっちゃったんだから。


 あの服、結構気に入ってたんだよ? 仕事着以外の時はよく着てたしね。


 大事な親友達に買って貰った服だったんだよ? その服がパーってのはね。


 あの炎を受けたときも僕はあの服を燃えないように能力でカバーしてたのに


 不意打ちじゃそれも出来なくてね……どうしてくれるんだよ」


 


小さな声だったが、その声には異常な程の怒りを感じた。


服が無くなった程度で、こんなにも…


 


「予備の服は一応あるから着替えるけどさ


 最初に着てた服。こっちも結構動きやすくて好みなんだけど


 思い出を吹き飛ばされたって言うのはどうしようも無くイラつくんだ」


 


彼女はそう言いながら服を着替えた…私と戦う時に置いたリュックに着替えがあったのか。


 


「せ、攻めてきたのはあなたの方よ、文句を言われる筋合いは無いわ!」


「……攻めてきたからが理由で好き放題して良いって言うならさ


 僕も好き放題して良いんだろ? 君達は幻想郷に攻めてきたんだから。


 その時、散々利用されたのも実は結構キレてるんだ。


 自分勝手に横暴に振る舞う連中。一応その怒りは収めていてあげたんだ。


 だから、都には被害が出ないように気を遣ってあげていたというのにこの仕打ち。


 あげく、自分達の事を棚に上げたその物良い……滅ぼすよ?」


 


さっきとまた雰囲気が変った…私の中に初めて恐怖の感情がわき上がる。


 


「っ!」


「……はん、まぁ良い。今回は許してあげるよ。


 滅ぼすのは好ましくないからね、後の事を考えても」


「な、何が目的なのよ、あなたは! 都に侵略しに来た訳でも無い!


 怒りに身を任せることもしない…何の為にあなたはここに来たの!?」


「最初から言ってるだろ? 暇つぶしさ。その目的も、もう達成した」


「待ちなさい! こんなに暴れて何も罰が与えられないと思って!」


「散々幻想郷を荒らしておいて、罰も何も受けてないお前ら月人が言うのかい?


 折角見逃してあげようって言うのに、また僕の神経を逆撫でするような物良い


 良い度胸だね、そんなに滅ぼして欲しいなら、お望み通り滅ぼして!」


「待った…」


「サグメ様…!」


 


サグメ様がこんな危険地帯に!


 


「…すまない。今回の件、月の代表として私が謝罪しよう」


「ほぅ、いつぞやの」


「サグメ様、何を!」


「お前の能力は本当に恐ろしい能力だ、お前を止めることは不可能だろう。


 あり得ない事だが、幻想郷と月が手を組んだところで、お前を止める手段は無い」


「それはどうも、正しい判断だと思うよ。


 でもなんだ、今日は随分と沢山喋るじゃ無いか、前あった時は


 そこまで饒舌じゃ無かったと思うけどね」


「……私にも考えはある」


「ふーん、無口な奴だと思ってたけど、意外と話せるじゃ無いか」


「だが、お前と仲良くするのは難しそうだな」


「そうだね、少なくとも今の僕とは仲良く出来ない」


「地上を滅ぼすのか?」


「あぁ、そうだね。人は嫌いだ」


「私も苦手だ、お前なら滅ぼすことは造作ないだろう。


 どんな障害を前にしても、お前は勝利出来るだろうな。


 地上の連中は束にもならないのだろ? 束になっても、お前には誰も敵わないだろうが」


「随分と褒めてくれるね、まぁ良いか。それじゃあね、片翼の月人さん。


 あんたはそれなりに話せる部類で楽で良いよ、じゃもう会えないだろうがまたね」


「…あぁ、会えないだろうな」


 


よく分からない別れの言葉の後、彼女は地上へ向けて地面を蹴った。


彼女が蹴った月の表面には大きなクレーターが出来ている。


まるで隕石が降ってきたかのような大きなクレーター。


 


「……私に出来る協力はこれまでだ、後はそっちで解決してくれ、地上の賢者。


 月の異変に手を貸してくれた礼と巻き込んでしまった謝罪を込めたささやかな協力だ」


「サグメ様…」


「……戻ろう、伸びてる奴らも連れてこい」


「は、はい!」

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