夢世界の住民
ライブも終わって、私達はいつも通りの日常に戻った。
でも、何だか暴れている人が多いという噂を聞いた。
その中で、私が凄く気になったのが人里での噂。
「……」
私が人里で暴れているという噂だった。
人里の人達は私を見て少し驚いているけど
私が何もしないのを見ると、安心したように近付いてくる。
「君が本物みたいだね」
「あ、はい…」
「いやぁ、驚いたよ、君にそっくりの偽物が暴れているって言うからさ」
「ど、何処に居るのか分かりますか!? 私! その偽物を!」
「いや、噂を聞いただけだよ」
「そ、そうですか」
あのライブから、人里の人達や他の妖怪達は私と仲良くなろうとしてくれてる。
色々な人が、あのライブの話をしてくれて、私は何だか嬉しい気分だった。
そのお陰なのか、私の偽物が暴れているという状態でも誰も私を責めないし疑わない。
「すみません、英子さん」
私はまず近くにあった英子さんのお店に入ってみた。
「いらっしゃい、おっとフィルじゃん! 歓迎歓迎!」
「え、えっと…実は私の偽物が」
「あぁ、聞いてるよ。やっぱり探してるんだね」
「は、はい! その偽物を止めないと!」
「んー、でも僕は知らないね。ごめんね、僕にそう言う能力があれば良いんだけど
僕の能力って、そう言った能力じゃ無いからさ」
「そうなんですか…じゃあ、英子さんの能力ってどんな能力なんですか?」
「聞きたい? 僕に興味を持ってくれた感じ? なら尻尾もふもふで手を打とう!」
「あ、じゃあ良いです」
「待って待って! 教えるから! 教えるから帰ろうとしないで!
折角久し振りに来てくれたのにすぐ帰るなんていけず過ぎるよぉ!」
あんな事を言われたら普通はすぐに帰ろうとすると思うけどなぁ。
でも、教えてくれるなら待とうかな。
「えー、こ、こほん。では、僕の能力をお話ししよう。
興味を持ってくれた以上はしっかり話さないとね。
えっとね、聞いて驚け! 僕の能力は1人では何も出来ないのだ!」
「……え?」
「あぁ! そんなゴミを見るような目で僕を見ないで!」
私はそんな風な目で英子さんを見たつもりは無かったんだけど
きっと英子さん、ちょっと自分でも能力、あまり強くないとか思ってるんだろうなぁ。
私は内容分からないからなんとも言えないけど。
「ま、まぁえっとね、僕の能力は祈りを繋げる程度の能力でね。巫女さんみたいでしょ?」
「祈りを繋げる? よく分からない能力ですね」
「あはは、自分でもそう思うけどね。
でも、分かりやすく言えば、全員の祈りを繋げて
ドンドン巨大にしていく能力なのさ! 攻撃力は無いけどね」
「攻撃に使える能力では無いんですね」
「まぁね、それに1人じゃ何も出来ない能力でもあるし。
確か満月の夜は違ったっけ、妖気を操る程度の能力だったかな」
妖気を操る程度の能力って、何だか凄く強そうなんだよね。
でも、何だか凄く強そうな雰囲気だったし強いのは当たり前なのかな。
「いやぁ、でもなぁ、僕も満月の僕に会ってみたいなぁ。
皆は満月の夜の僕に会ってるみたいだけど僕は会ってないからね。
自分に会うって言うのも変な感じかも知れないけどさ。
でも、九尾なんだよね! うぅ! もふもふしたいなぁ! 自分の尻尾を!」
「す、凄い過去があるって聞きましたけど…本当に元気ですね」
「ん? あぁ、聞いたの? あはは、まぁ今の僕には関係の無い過去だよ。
半獣の姿とか、迫害とか、色々とあったことは覚えてるよ。
お母さんが九尾だったのも覚えてる。追い出されたのも追いかけ回されたのも。
でも僕にはもうどうでも良いの、僕にはこのお店がある。
僕の居場所はここにある。それだけで、僕は幸せなんだから!」
英子さんがにっこりと笑った、曇りなど一切ない笑みで。
「英子さ」
「で、出た!」
英子さんにお礼を言おうと思ったときだった、外から大きな叫び声が聞える。
「な!」
私は急いで英子さんのお店を飛び出し、その声が聞えた方へ走る。
そこには私そっくりだけど、私とは違う何かが居た。
「あ、あなたは!?」
「…現の世界の私、ねぇ! ねぇ! ねぇ!」
「な、何!?」
「何でさ! 何であなたはそんなにのんびり出来るの!」
「え!?」
「人が居るの、こんなに沢山の人が! 人が! 人が!」
「……ど、どうし」
「憎くないの!? 怨みは無いの!? こいつらが!」
「あ、あなたは何者なの!? 誰なの!? 何で私の姿をしてるの!?」
「……それは、私があなただから、私が夢の世界のあなただから。
完全憑依異変で、私は夢の世界から出て来た、この世界に出て来た。
あなたの夢の世界から、私は出て来た」
夢の世界の…私……何だろう、嫌な思い出が頭によぎる。
そう、あの時の夢…私が自分の耳を切り落とした、あの…忌々しい夢。
「だから、私はあなた、あなたがしまい込んでる私」
「分からないよ! あなたが私だって言うなら! 何で人に怨みを抱いてるの!?」
「……やっぱり覚えてないんだろうね、そう、そのマフラーの影響で」
「ま、マフラー…」
私のマフラーに何があるって言うの?
「でもね、よく忘れられるよね、あんな! あんな思いをして!
良いよね! 忘れられて! 知らない方が良い記憶を都合よく消して貰って!
でも! 私は覚えてる! 忌々しい記憶は永遠に私を蝕み続ける!
あなたが! あなたがそんな風に平和で居られるのも、私のお陰!
あなたは! あなたは私と違って! 色んな奴に愛されてる!
羨ましい! 本当に羨ましい! でもね…どうしようも無く哀れよ! 何も知らないなんて!
何も知らないで、こんな仮初めの偽りの平和を生きるなんて哀れ!
何も知らされないで、こんな牢獄の中で生かされ続けるなんてね!
八雲紫は、最初からあなたにあなたの記憶は伝えるつもりは無いの!」
「そ、そんな訳! ちゃんと約束も!」
「…教えられる筈も無いのよ、私が…あなたが本気で暴れれば
こんなちっぽけな世界は簡単に滅びるのだから。
外の世界も簡単に滅びるし、月だって容易にかみ砕ける。
それが私なのよ、望まずして手に入れた、どうしようも無い程に強大な力」
「どう言う…あなたは何を知ってるの!?」
「あなたの全てを、私は知って」
私達が話していると、もう1人の私の近くに隙間が開く。
そこから、普段からは想像も出来ないほどに切羽詰まった表情をした紫さんが出てくる。
「させないわ! それ以上は!」
「八雲紫…夢の世界の私なら止められると踏んだ?」
でも、私じゃ無い私は紫さんの攻撃を容易に躱して逆に紫さんを引きずり出した。
「紫さん!」
「これが本来のあなたの力、幻想郷の賢者なんて足下にも及びやしない。
力ある神だろうと、私は止められない、だって私は神殺しなのだから」
「へ? 神殺し?」
「まぁ良いよ、あなたを殺して私がこの世界を滅ぼす。
あなたさえ居なくなれば、私は誰にも止められないのだから」
「そ、そんな事…あなたが私だというなら、そんな力は」
「あるのよ? あなたにはそれだけの力が!」
一瞬で間合いが!
「う!」
「そう、この速度に反応出来るのはあなた位」
どう言うこと!? もう訳が分からないよ! 何なの!? 私って本当に何なの!?
分からない! 分からないけど、私は戦うしか無い! 戦うしか!
このままだと…殺される!




