後腐れは無し
辛うじて勝つことが出来た…必死に戦って何とか…
「で、でも、ふ、2人がかりは酷いと思います」
「ごめんごめん、ちょっと遊んでみたくなってね。
ほら、特別にあなた達の土俵で戦ったわけだし
少しくらいは私達も遊びたいと感じたのよ」
「お陰で楽しかったわ」
「しかし、こんな素晴らしい人間…いや、半獣かしら?
そんな奴が居る幻想郷に攻め込もうなんて
月の民は何を考えてるのやら。全く馬鹿げてるわね」
幻想郷にはいい人達が沢山いる。
私を受入れてくれたり、助けてくれたり。
仲良くお話ししたり、家族を持ってお互いに成長し合ったり。
どんな人も受入れる人だって、頑張って生きてる人間だって居る。
それなのに自分の都合でそれらを破壊しようとするのは間違ってる。
幻想郷は全てを受入れるんだったかな。
なら、月の民だって受入れてくれるはずなのに。
自分達が受入れるだけで。ただそれだけで幻想郷と戦う必要も無い。
「でもまぁ、正直あなたが居るのなら例え月の雑魚共が
束になって掛かってきたとしても、月に勝算はないでしょうがね」
「何を…月の民は本当に強いって」
「そうかしらね? 私達2人の掌の上で踊らされただけの連中よ?
月の都の凍結は確かに想定外だったとは言えあれは苦肉の策。
夢に逃げるのも純狐の想定内で対策だって私が取っていた。
私が少しその気になれば簡単に滅ぼせたのよ?」
「じゃあ何でそれをしなかったんですか?」
「私よりも純狐のほうが怨みが深いからね。
彼女の判断に全てを任せるつもりだったの」
だから独断で夢の世界にある月の都を攻めなかったんだ。
逃げ道も塞いで、完全に袋の鼠状態だったのに。
それなのに、純狐さんの為にあえて攻めなかった。
「まぁ、だから純狐が敗北を認めた以上。私もこれ以上は攻めない。
と言う事で純狐、月の民を解放しても良いかしら?」
「……良いわ、月の民を都へ戻しても。彼女に出会えたおかげで戦意喪失したから」
「オーケーオーケー。じゃあ、月の民は解放しよう。
これであいつ等は幻想郷からも手を引くでしょう。」
「はぁ…良かった…でも何だか攻めてきた人を助けた感じがしますね」
こっちが酷い目に遭ったのに、結局酷い目に遭わせてきた方を救う。
何だか釈然としない。
「そりゃあねぇ……」
「月の民は狡猾で無慈悲なのよ。何処までもね。
確実にあいつらはあなた達に恩は感じない。
自分達の作戦勝ちと思って全てを終わらせるでしょうね」
「え?」
作戦? これが作戦だったの? 何処が? 何処までが?
「幻想郷は人質に取られていたって考えられるでしょ?
幻想郷を救いたかったら月の都から手を引け、って非人道的な策よ。
まぁ正直、あなたが居る幻想郷を人質とか滑稽でしか無いけど。
全勢力割いてもあなた1人は絶対に倒せないし。
完全に幻想郷側の同情や憐れみで救われたみたいなもんだしね。
そう考えると、偉そうにしてるけど。実際はただ同情されたあげく
救われた馬鹿げた連中とも言えるわね。ふふ。
そう思うだけで、何だか気分が良いわ」
ヘカーティアさんは本気で笑っていた。
「そうでしょうね。今のあなたはあまり自覚が無いかも知れませんが。
私と戦ったときのあなたなら、月の都くらいは滅ぼせたでしょう。
どうです? この件が終わった後。私達と復讐をするのは」
「え? い、いえ、良いです。私は今の生活が今まで通りになれば
それだけで満足です。幻想郷さえ無事なら復讐も何もありませんよ」
「ではもし…あなたの大事な人が殺されていたら?」
「復讐しますよ。言うまでもありません」
最悪の場合を想定したとき。私の心にはどす黒い感情が浮き上がった。
これが復讐心と言う物なのかも知れない。
「良い殺気を感じたわ。どうやら月の民は命拾いしたようね」
「そうね、最悪が起こって無くて良かったとしか言えないわ。
最悪が起こっていれば…この規模では済まなかったでしょう」
「ど、どう言うことですか?」
「いえ、何でも無いわ…正し、あなたは少し自分の力を知った方が良い。
地獄の女神である私さえ認める程の力。その力を自覚しなさい」
「はぁ…しかしヘカーティア。随分とあの子を気に掛けますね。
前に幻想郷に行った理由も。もしや彼女が関わっています?」
「……いえ、関係ないわ。ただちょっと興味があっただけ」
うぅ、何だろう。私ってそんなにおかしい感じなのかな?
「うーん…」
「そう言えば、あなたがここに来たのはどうして?」
「えっと、永琳さんから夢の世界の月が襲われているから
月からの攻撃が未だに止まないって教えて貰って。それでここに来ました」
「永琳…それが地上にいる月の賢者の名前?」
「あ、はい」
「あ、はい。そうです」
「今度案内してくれる? その家まで」
「え!?」
「会いたくなったわ、あなたに会わせてくれたことの礼もしたいしね」
「え? あ、会わせて良いのかな…あなた達は月に怨みを抱いてるんですよね?
その月にいた賢者と遭遇なんてしたら、また」
「争うつもりは無いわよ。少なくとも今わね」
何だか意味深なことを…気に入らなかったら戦うって事じゃ?
「いいね、私も連れて行ってよ。私も興味があるから」
「でも…」
「ならばこう言い換えましょうか? 永琳という賢者に会わせないというなら
私達はこのまま月の民を拘束し続けると」
「うぅ…それは完全に脅迫ですよ…」
「言い方を変えただけよ。実際は解放すると言ってるのだから解放はする。
1度伝えた約束を無下にはしませんとも」
じゃあ、さっきのは…恐らく、そんな強行策も使う可能性があると
そう伝えるために私に伝えた。やっぱり脅迫だよ。
「…わ、分かりました。で、でも…もし幻想郷に何かをすれば」
「分かってるわよ。それ位はね。大丈夫、幻想郷には手は出さない。
あなたが大事にしている相手にも当然手は出さないわ。
まぁ、あなたに会いに来るかも知れないけど安心して。
あなたと戦うつもりも無いし、大事な奴にも手は出さないから」
「は、はい…」
少し恐いけど…でも、仕方ないよね。
永琳さん怒らないかな…うぅ…ちょっと不安だよ。




