温泉への道中
地上の温泉…前に地霊殿で一緒に入ったときは
楽しかった記憶がある。
いつの間にかこいしさんが居て、家族が揃った場面も見られた。
今回は紅魔館の全員での温泉…あぁ、なんて楽しみなんだろう。
「…お姉様、あそこにある明らかに不自然な黒い空間は何?」
「こんな夜に出歩くって事は、あなた達は食べてもいいじんる…」
「まぁ、食べられる物なら食べてみなさいな」
「その前に壊れても知らないけどね?」
「……に、逃げろ-!」
「咲夜」
「はい」
うん、私達の感覚では一瞬だった。
その一瞬で、咲夜さんはルーミアさんを担いでいた。
「え!? 何で!? どうなってるの!?」
「おい、常闇の妖怪」
「は、はい!」
「…臭いわよ?」
「え? そうかな…こんな物だと思うけど」
「これから温泉に行くからさ、あなたも一緒にどう?」
「えぇ!? わ、私なんかが!?」
「…そうね、それも良いかも知れないわ」
「お嬢様、どう言う気まぐれですか? 妹様が誘うのは多少予想は出来ても。
お嬢様がそれを承認するとは予想外でした、他人に殆ど興味を抱かないのに」
「うっさいわね、フランがこいつを連れて行きたいと言うから仕方なくよ」
「ありがとう、お姉様!」
「うぅ…」
「……本当に仲良くなりましたね」
「え?」
美鈴さんが私にだけ聞えるくらいの小さな声でそう呟いた。
私はすぐに美鈴さんの方を向く…美鈴さんはニッコリと笑っていた。
「……私はただ、ペットの仕事をしただけですよ」
「ふふ、変な所で恥ずかしがり屋さんですね」
「あはは、そうかもです」
「本当、レミィったら、随分とフランと仲良くなって。
少し前までは軟禁してたくせに…あ、いや、もしかしたら
軟禁したくなるほどに最初から好きだったのかしら?」
「はぁ!? そんな訳!」
「……」
「あ、あるわよ!」
「お姉様ぁ!」
「だ、抱きつかないでよ…もう、恥ずかしい…」
「負けましたね、お嬢様」
「妹より優れた姉って、あまり居ない気がするしね」
そうなのかなぁ…今まで出会った姉妹はリリカさん、メルランさん、ルナサさんの
プリズムリバー3姉妹、後、さとりさんとこいしさんの古明地姉妹
お嬢様とフランお嬢様のスカーレット姉妹かな。
「何だか楽しそうなのだ」
「緊張の糸がほぐれたのかしら? 喋り方が変ったわね」
「最後の瞬間くらいはありのままの自分で…」
「最後じゃ無いわ、とにかくあんたも付いてきなさい
温泉に行くから、人数は多い方が良いでしょう?」
「そーなのかー?」
「無駄に広い風呂場に少数だと何か物足りないでしょう?
折角だしお酒も浮かべましょう、風情くらいはゆったりとね」
「そーなのだー!」
「はいはい、ほら行くわよ」
「はーい」
「うおぉおお! あたい、参上!」
「チルノちゃーん!」
今度はチルノさんが私達の目の前に立ちふさがった。
「何よ、なんの用?」
「フィル、ようやく見付けぞ!
さぁ、どっちが最強か決めよう!」
「え? 戦うんですか?」
「そうだ! ずっと探してたんだからな!
ここであったが9年目! いざ勝負!」
「9年所か、9ヶ月も経ってませんよ」
「うるさーい! さぁ、勝負だ!」
「チルノだったっけ」
「ん? そっちの金のレミリアは何者!」
「ちょっと、それじゃあ、まるで私が下位互換みたいじゃないの!」
「私はフランドール、フランで良いわ、あなたもフィルの知り合い?」
「おう! あたいのライヴァルだ!」
「ば、です、ば、なんでわざわざ言いにくい方を…」
「そもそも、あなたとフィルじゃ格が違うでしょうが、前とか一撃だったし」
「あ、あれは! 氷にヒビが入ってただけで、でも今回は!」
「ご、ごめんなさいごめんなさい! チルノちゃん! 駄目だよ!」
「大ちゃん! あたいはフィルとの戦いに決着を着けないと!」
「無理だよ! 勝てるわけ無いよ!」
「緑の方は大変そうね…」
「家の緑は役立たずですがね」
「さ、さらっと酷い事を言いますね…一応ちゃんと守ってますよ?」
「ま、天人を退けたときは良くやったと思うけど、寝過ぎよ」
「今日は寝てませんよ?」
「門を守ってたときはサボってるのに、フィルを探すときは
一切眠らず、終始血眼だったしね」
「当然です」
「わ、私の為に…ありがとうございます! でも、ごめんなさい…」
「いえいえ、私だけではありませんよ」
「ふ、ふん、役立つ犬を捨てたくなかっただけよ」
「フィルは大事な家族だからね、あぁ、そうだ、チルノ」
「な、何?」
「温泉行かない?」
「お!?」
「フラン、こいつは氷精、温泉が冷めてしまうわ」
「大丈夫! あたいなら!」
「謎の自信ね…信頼ならないわ」
「でも、あたいは行きたい!」
「だって、一緒に行こうよ」
「それに、ルーミアも行くみたいだし、あたいも行く!」
「私は行くと言うか攫われてるのが近いと思うけど
あ、でも、どっちかという行くの方が近いと思うのだ」
「のだ!」
「…はぁ、仕方ないわね」
「ありがとうお姉様!」
「おぉ! 吸血鬼太もも~!」
「それを言うなら太っ腹よ!」
「太ってるの?」
「言葉をそのままで受け取るな! 私の何処が太ってるって言うのよ!」
「…確かにスマートだ!」
「そりゃそうよ、何てったって私は誇り高き吸血鬼よ
そして、紅魔館の主にして夜の王、美しいのは当然よ」
「そこまで強くないじゃん」
「おいチルノ、そこに直りなさい、吸い殺してやるわ」
「お嬢様! ストップ! そんな軽い挑発に乗らないでください!」
「離しなさい! 私の邪魔をしないで!」
「あ、相手は妖精ですし、多分死にませんし!
そ、それに、そ、そんな軽い挑発に乗ってたら
こう、カリスマとかが消えてしまいます!」
「そ、それは不味いわね、良いでしょう、我慢しましょう」
は、はぁ…よ、良かった、落ち着いてくれた。
「吸血鬼こえー!」
「あ、当たり前だよ…」
「でも、あたいは温泉に行く!」
「会話をしようよ、チルノちゃん」
「まぁ良いわ、来るなら来なさい、チビ」
「そっちもチビじゃん」
「今度こそは」
「落ち着いてお嬢様!」
「そうだよお姉様、恥ずかしいよ?」
「ぐは…わ、私の心臓にグンニルが刺さったわ…」
「レミリアお嬢様、我慢しましょう。
その程度で怒ったりヘコんでしまってはまるで子供ですわ」
「わ、分かってるわよ…」
「咲夜、今更レミィに何を言っても無理よ、この子は見た目通りだし」
「何が言いたいのよ」
「そのままの意味よ、レミィ」
「く!」
「パチュリー様、あまり言わないでくださいよ、おふたりが仲良しなのは知ってますが」
「何を言ってもどうにもならないと分かっているからあえて言ってるのよ。
ある意味での信頼関係という物ね」
「そりゃね、結構長いし、パチェに何を言われようと問題無いわ」
「そう言う事、さ、この話は後にして、早く温泉とやらに行きましょうよ」
「分かってるわ、確かこっちよね、八雲紫がよこした地図によると」
「そうですね、向いましょうか」
「おー!」
「あの、そろそろ降ろして欲しいのだ…」
「温泉に着いたら降ろしてあげるわ」
「なんで私は担がれているのだー?」
「その方が滑稽だからよ」
「酷いのだ!」
結局咲夜さんがルーミアさんを降ろすことは無く。
そのまま温泉に着くまで、ずっと抱えたままだった。




