完成!
…そう言えば、レシピを教えて貰ってなかった。
どうしよう、カレーのレシピってどんな感じなんだろう?
うぅ、とりあえず帽子を被ろう、耳の毛が入っちゃったら大変で
あ、もう被ってた、いつの間に…まぁ、いいや。
それよりもレシピだよレシピ、咲夜さんに聞きに行こうかな…
「あれ?」
だけど、周りを少し見てみると、私の近くにカレーのレシピが置いてあった。
こんな物、さっきまでなかったと思うけど…
「わぁ、丁寧…」
そのレシピには料理の材料と切り方の絵も描いてある。
それに何分間暖めたりするのか、とかが事細かに書いてある。
どのタイミングに切った野菜を入れるのかも
お肉を入れるタイミングも切り方も暖める時間も
本当に正確に書いてある!
だけど、ここまで細かい事を書いたレシピなんてあったんだろうか?
咲夜さんは何だかレシピとか無くても当たり前の様に作りそうだし
そんな人がこんなレシピを持っているのかな?
じゃあ、私の為に書いてくれたのかも…
でも、短い時間しか無かったし、こんなに細かく掛けるのかな?
「あ!」
そうだった! 咲夜さんは時間を操るんだった!
その間に書いてくれたのかも知れない!
うぅ、私の為にここまで…私! 頑張らないと!
「よーし!」
咲夜さんの期待に応えるためにも! 美味しい料理を作る!
えっと、まずは…こうして…こうして…あだ!
うぅ、指先切っちゃった…でも、めげない!
次は野菜を…あだぁ! ま、まだまだ! いたぁ!
何度も何度も指を切りながらも私は頑張って野菜を切った
よし、まだまだ最初だけど、頑張るぞ!
「ねぇ、咲夜…今日は長い間ここにいるのね」
「はい」
「何故かしら?」
「いえ、たまにはのんびりしても良いかと思いまして」
「……あぁ、もしかしてフィル? 何か仕事を任せたのかしら?」
「えぇ、料理を少々」
「あの子が料理…ふふ、じゃあ、あの子の料理の腕が上達したら
私の料理を作らせて頂戴、少し興味があるわ」
「はい、ですがまだ時間は掛かるかと、色々と至らない所が多いです」
「まぁ、気長に待つわよ、時間は無限に近いほどあるのだから」
「はい、では、私も気長に教えたいと思います」
「頼んだわよ、あむ…からぁーー!! 咲夜ぁ! 水! 水持ってきなさい!」
「はい、ここに」
「ふぅ、甘口にしろと言ったでしょ、う! にっがぁー!!
咲夜コラ! 少し満足げな表情するな! 普通の水持ってきなさい!」
「はい、お待たせしました」
「ったく……くんくん…これ、苦くないわよね?」
「大丈夫ですわ」
「そ、そう…信じるからね? んむ…あ、普通だ」
「よ、よし…こんなんで良いはず」
何回も指先を切っちゃったけど、何とか料理出来た!
それにしても、切り傷って結構痛いなぁ
ちょっと涙出て来ちゃったよ…
うん、怪我はしたくないや…そう言えば、怪我をしたら
どういう風に処置するのが良いんだろう。
私は指を舐めたけど……
考えてみれば何で指を舐めたんだろう。
確かにこれで痛みは引いたけど、なんでこれで痛みは引くのかな?
よく分からないけど、とにかく怪我をしたらそこを舐めれば良いんだね!
「うん! 出来た!」
「頑張ったわね」
「あ! 咲夜さん! はい! 出来ました! この通り、ありゃ?」
咲夜さんの方にお皿を向けたとき、自分の指先に違和感を感じた
さっきまで何もなかったはずなのに、指先に変わった物が巻き付いている。
何これ? あれ? 怪我をした場所が…あれ?
「ん? んん? あ、あれ?」
「どうしたの?」
「い、いえ、指先に変わった物が」
「あら、知らないの? 絆創膏よ、怪我をしたときは巻くの」
「へぇ! 絆創膏って怪我をしたら生えてくるんですね!」
「…違うわ、私が時間を止めて付けたのよ
全く、どういう発想をしたら絆創膏が生えてくると思うのよ」
「え!? あ、す、すみません! 私、記憶が無いので!」
「そう言えばそうだったわね、ま、良いわ
とにかく怪我をしたらそれを張るの、しかし、そうね
記憶が無いと言う事は時間を止めて色々とやるよりも
時間が動いてる間にやった方が良いわね、その方が勉強になるか」
「あ、えっと、ご、ごめんなさい! 私が記憶喪失なばっかりに!」
「謝らないで良いわよ、あなただって
なりたいと思ってなったわけじゃ無いでしょ?」
「そ、そうですね…」
うー、記憶喪失って、何だか嫌だなぁ…でも不思議だよね
色んな事は忘れていても、ある程度の言葉は覚えてる。
単語の意味も分かるし、ある程度の名称も覚えてる。
なのに、変な所が欠落してたり、記憶喪失って訳が分からないよ。
でも、こんなに記憶があるって事は、きっと記憶を失う前の私は
ちゃんと存在してて、色々と経験してきたって事だよね。
だから、昨日生まれたわけじゃ無くて、前からいたって事かな?
だったら、私の故郷は一体何処なんだろう。
「さて、それじゃあ、ちょっと味見してみましょうか」
「あ、はい! お願いします!」
咲夜さんはゆっくりと自分の口に私のカレーを運んだ。
どんな評価が帰ってくるかな? ま、不味かったり。
もしかしたら、焦げちゃって苦くなってたり…
い、いや、き、きっと大丈夫! 美味しく出来たはず!
ちゃ、ちゃんと咲夜さんのレシピを見て作ったんだもん!
大丈夫! だ、大丈夫! …大丈夫だよね? 大丈夫かな?
うぅ、怖いよ…咲夜さんが味わって食べてるところを見ていると
何か言われそうで怖い…何か悪かったかな?
「……うん、妖精メイドには勿体ないくらい上出来ね」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ、ただまだお嬢様にお出しできる程では無いわ
だから、褒められたからと言って満足しない事ね」
「は、はい! ありがとうございます!」
やった! 完璧って訳じゃ無いみたいだけど!
まだ大丈夫だって事! じゃあ、このまま頑張らないと!
「それじゃあ、この料理を妖精メイドに出してきて頂戴」
「はい!」
私は急いで鍋を持って、妖精メイドさんが居るところに向った。
だけど、すぐに私は問題に突き当たる。
「…勢いで走って出て来ちゃったけど
妖精メイドさん達って、何処にいるのかな?」
考えてみればこの広い紅魔館の中で妖精メイドさんの場所なんて分からない。
ど、どうしよう! 聞いておけば良かった! いや、そもそも
もし咲夜さんに聞いたとしても迷いそうだよ!?
道なんて分からないし…う、うぅ! ど、どうしよう!
「はぁ、せっかちね」
「さ、咲夜さん!」
「場所が分からないのでしょ? ついてきなさい」
「は、はい! すみませんでした!」
「少しそのせっかちな性格を直した方が良いわ」
「は、はい…が、頑張ります…」
私は咲夜さんに案内して貰って、妖精メイドさん達がいる部屋に行った。
「ご飯の時間だ!」
「ご飯!」
妖精メイド達は何だかお部屋で遊んでばかりだった。
お部屋も汚いし…お掃除、出来てるのかな?
「休憩時間だったんですね」
「いえ、こいつらは基本的に遊んでるわ」
「えぇ!? メイドさんなのにですか!?」
「私達妖精メイドは!」
「紅魔館に花を持たせる!」
「超特殊部隊なのだ!」
「……花? 何ですか? 花って」
「知らないわ、まぁ、所詮いざと言うときの鉄砲玉だし」
「咲夜さん酷い! まぁ、間違ってませんけどね!」
「あっはっは! 掃除なんて訳分からない!」
「お料理なんて作れない!」
「でも! 弾幕と突撃ならお任せあれ!」
「「「私達! 超特殊部隊なら完璧だよ!」」」
「……えっと、つまり?」
「ただの猪馬鹿の集まりよ」
「咲夜さん酷い!」
「まぁ、間違ってませんけどねー!!」
「ご飯-、お腹すいた-」
「全く、ろくに働かないくせに食欲だけは一人前何だから
お嬢様もさっさとこんな無能どもクビにしてしまえば良いのに」
「咲夜さん酷い!」
……こ、これが…妖精メイドさん…思ってた以上に馬鹿っぽい。
これが妖精? 妖精って皆こんな感じなんだろうか。
私、妖精って何処か神秘的でメルヘンチックな感じだと思ってたけど
案外そうじゃ無いのかもしれない。
「はぁ、ほら、一応食事よ」
「おぉ!」
「カレーだ!」
「美味しそう!」
「いただきます!」
妖精メイド達は一斉にカレーに食い付いた。
「かりゃぁーーー!!」
「あぁ! 舌が! 舌が焼けちゃう!」
「えぇ!?」
だけど、カレーを食べた途端、妖精メイド達は激しく悶え始める。
か、からかったのかな!? 私が味見したときはそんなに辛くなかったのに!
「かっりゃーー!!」
「ど、どうしよう、か、辛すぎたんだ…うぅ、失敗しちゃった…」
「いや、私が辛くしただけだから気にしないで良いわ」
「え!? 咲夜さんが!?」
「ちょっとお仕置きをね、あなたのカレーはそうね、中辛位だったけど
そこに大量の唐辛子とかを入れて辛くしてやったわ
まぁ、お仕置きをしてあげないとこいつらは学ばないから」
「かりゃーー!!」
「あ、昼食はそれしか出さないからちゃんと食べなさい」
「ひぃ! 咲夜さんの鬼-!!」
「褒め言葉ね」
「うぅー!」
そんな風に嫌そうにしながらもカレーを食べている。
で、1口食べる度に火を吐くように辛いと悶えだし。
しばらく床の上をころころと転がり、水を飲んだ後
苦いと叫びながらもカレーを食べている。
な、何だか可哀想だな…
「ちょっと可哀想ですね」
「そうね、あ、ほら、これがフィルの分よ」
「え? あれ? 赤くない」
「あなたの分は別に取ってあるわ、あのカレーは無理でしょう?」
「そ、そうですね」
私は咲夜さんに出されたカレーをその場で食べた。
「くぅ! 美味しそう! 私達も食べたい!」
「あ、食べま」
「駄目よ、これはお仕置きなんだから」
「あ、は、はい」
「咲夜さんの鬼-!!」
そのままカレーを食べた…だけど、案外お腹が膨れない。
「うーん」
「どうしたの?」
「あ、いえ、何でもありません」
「まさか、足りなかったとか?」
「えっと…」
「そう言えば、前の歓迎会も異常な程に食べてたわね
その華奢な体の何処に入ってるのか分からない程に」
「あ、あはは、す、すみません」
「まぁ、もう無いけど…妖精メイドのカレーならあるわよ?」
「……よ、よし、食べますよ!」
うん! 食べよう! 自分のカレーだもんね!
覚悟を決めて、えい! …うん、舌がピリピリする
でも、結構食べられるじゃん。
「あむあむ」
「ひぃ! あの激辛カレーを平然と食べてる!」
「どんな舌してるの!?」
「ピリピリしてて美味しいですね、あむあむ」
「私なら絶対無理だわ、あなた、何でも食べられるんじゃ無いの?」
「そうかもしれません」
そのまま私は沢山の激辛カレーを自分で食べてしまった。
「…ふぅ、美味しかったです」
「妖精メイド分の量をほぼ1人で食べるのね、何人前かしら…相当よ?」
「あ、ご、ごめんなさい! ピリ辛が食欲を刺激して!」
「あれでピリ辛…怖い! この子怖い!」
「えぇ!? 怖くないですよ!」
「恐ろしい程の食欲ね」
「ごめんなさい」
「謝らなくて良いわ、ま、これからフィルの分は多めに作るわね」
「ありがとうございます、でも、ごめんなさい」
うぅ、自分が思った以上に沢山食べるなんて…はぁ、少し複雑




