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異能者との出会い。騒乱の予感

 フールと出会った翌日、彼方は学校が休みだった為、買い物がてら一人で出掛けることにした。


 「ったく。フール、別に付いて来なくてもいいんだぞ」


 不意に彼方が立ち止まり、着ているジャケットの中にいるフールに話し掛ける。


 「いえ!例え現代がどんな風に文明が進化しても危険はあります!マスターを守るためにもこのフール、貴方について行きます!」


 ジャケットの内ポケットにいるフールが今にも飛び出しかねない程の勢いで返事をした。


 「はぁ、わかったよ。分かったら静かにしててくれ。昨日言ったみたいに現代じゃお前みたいなやつはいないんだ。俺の日常の平和のためにもおとなしくしてくれよ」


 そう言われフールは内ポケットのなかに潜り込んだ。

 それを確認した彼方は再び歩き始めた。


 「おーい!彼方ー!」


 しばらく歩いた後、彼方は後ろから声をかけられた。

 後ろを振り向くと、真琴が彼方に向かい手を振っている。


 「お?今日は店の手伝いか?」


 真琴は実家である和菓子店、『しのみ屋』の和風な制服を来て、店の前の掃除をしていた。

 八重が来たことで目立たなくなっているが真琴も美少女と呼ばれる程の綺麗であり、和風な衣装は充分似合っていた。


 「うん、彼方は今からどこかいくの?」


 「昼飯を食べに行くのと晩飯の買い出しだな。夕方のセールにまでやることがないから散歩ってのもあるけどな」


 「ふーん。あ、そうだ!それだったらちょっとここで待ってて!」


 そういうと真琴は店の中に入っていき、しばらくすると入っていった。


 「はい。これ、うちの余り物持っていって。お父さんと一緒に作ったんだけど、私の作ったやつ不揃いでお店に出せそうにないから、処理手伝ってほしいの!」


 彼方は真琴から紙袋を受け取る。

 中を確認すると栗きんとんが入れられていた。


挿絵(By みてみん)


 「お、栗きんとんじゃないか!ありがとうな。帰ってから食べるよ」


 「彼方と隆太郎って昔から栗きんとん好きだよね。うちとしては定期的に買いに来てくれるから売り上げ的に助かってるけど」


 「まぁな。美味しいしな。特にしのみ屋の栗きんとんは俺好みだから何度でも買いにくるさ。そういえば真琴は食べないのか?甘いの好きだろ?」


 「えーと、最近少し食べ過ぎてちょっと……」


 「あー、太ったのか」


 「そ、そうだけど、もうちょっとオブラートに包んでいってよ!」


 真琴は彼方の胸をポカポカ殴るが腕力のないのであまり効果がなかった。


 「悪い悪い。おっと、もうこんな時間か……そろそろ行くよ。じゃあまた学校でな!」


 「うん、バイバイ!」


 腕時計でもうすぐ昼時になるのを確認した彼方は真琴に礼を言って別れた。

 その後、最寄りの喫茶店で昼食を済ませて人気ひとけのない公園まで歩きベンチに座るとフールが話し掛けてくる。


 「マスター、あのお嬢さんはマスターの恋人なのですか?」


 「はぁ?なに言ってるんだよ。真琴は子供のときからの幼馴染みだ。そんな関係じゃないよ」


 「ふむ、そうなのですか。もしそのような関係なら我らの守るべき対象になるかと思ったのですが違うようですね」


 ぼそぼそとフールが言うが、その声は彼方には届いていないようだった。


 「まぁ、そんなことよりフールも栗きんとん食ってみるか?て言うか食えるのか?」


 「本来であれば我らに栄養などは不要なのですが、一応摂取しエネルギー変換し、溜め込むことが出来ます。従来のゴーレムやホムンクルスなどはそのようなことは出来ませんが、稀代の天才であるキリュシリア様が咀嚼機能と味覚を付けてくれたお陰で私個人としては食べることは好きです」


 栗きんとんを受け取ると仮面の口の部分辺りに小さな穴が開き、ちびちびと咀嚼していく。


 「……!?マスター!このくりきんとん?とやらはとても甘くて美味しいですね!」


 「そうだろ?また買ってきてやるから楽しみにしてな」


 「おお!楽しみです!」


 しばらくして二人が食べ終わって公園を出ようとする強い風が吹き、なにかが飛んでくる。


 「帽子?」


 飛んできたものをキャッチした彼方は飛んできた方向を見るとワンピースに薄手のカーディガンを着た少女が走ってくる。


 「すいません。それ、私のなんです。返してもらえますか?」


 「あ、はい。どうぞ」


 言われるがまま帽子を返すと少女は嬉しそうに微笑む。

 彼方はその姿にドキッとした。

 肩ぐらいまでの黒髪セミロングで、彼方と変わらない位の年だろうが顔立ちは少し大人びており、すらりと伸びたモデルのような肢体に目が奪われそうになる。

 もし八重や真琴を可愛い系というなら、目の前にいるこの少女は綺麗系であった。


 「ありがとうございます。急な風で飛ばされちゃって、あの……この辺りの方なんですか?」


 「はい、ここから少し離れた所に住んでます。もしかして旅行でここに?」


 「いえ、最近こちらに越してきたばかりなんです。あの、この町のことまだあまりわかっていなくて、もし良ければこの町ことを教えてくれませんか?」


 「うーん」


 彼方は右手の腕時計で時間を確認する。

 まだ正午を過ぎたばかりで、セールの時間までまだまだ時間があった。


 「わかりました。夕方までで良ければ案内しますけどそれでもいいですか?」


 「はい!ありがとうございます!」


 そして、夕方になるまで彼方は少女を連れて、駅、図書館、公園、商店街、名物の建物などの場所に行く。

 その道がてらに自分の名前を教え、名前や年齢のことを聞くと、名前は東雲朔夜しののめさくやといい、年齢は彼方の二つ上の大学生だということがわかった。

 事情を聴くに、どうやら朔夜は大学のサークル活動の一貫でこの町に来たらしく、どんな集まりか聞こうとしたが軽く流されてしまった。

 そんな風にしていると、いつの間にか日は暮れ始めセールの始まる時間が迫っていた。


 「そろそろ時間なので、俺は行きますね」


 「はい。今日はわざわざありがとうございました。もしまた会う事があればお礼をさせてくださいね」


 「いやいや、そんなの別にいいですよ。ただの案内しただけなんですから」


 「まぁ、なんて謙虚な方なんでしょう!じゃあせめてなにかあったらここに連絡してください。力になりますので」


 朔夜は鞄からメモ用紙とペンを取り出し、すらすらと連絡先を書いて無理やり彼方に手渡した。


 「あ、ありがとうございます。なにかあったら連絡しますね」


 そう言って彼方は朔夜と別れてセールがあるスーパーに向かった。

 そして、朔夜は彼方と別れた彼方と逆方向に歩き続ける。


 「ふふふ、親切な人に会えるなんて私ったらついてますね。御空君……また会えるといいんですけどね。あらあら、もうこんな時間ですか。彼らを待たせる訳にもいけませんし、急ぎませんと」


 時計を見て少し急ぎ足で目的地に向かい歩いていった。

 一方、朔夜と別れてしばらくしてスーパーのセールに間に合った彼方はたくさんの野菜の入った袋を手に持ち帰路についていた。

 

 「マスター。目的の物が買えて良かったですね!」


 「あぁ、これならしばらくの間は飯の心配は無いな。今日は腕によりを掛けるからから楽しみにしてな」


 「おぉ、それは楽しみです!」


 フールが嬉しそうに内ポケットから飛び出し空中に浮かぶ。


 「お、おい!もとに戻ってこい!人に見つかるだろ!」


 「いーや、もう遅ぇよ」


 突然の声に彼方が後ろを振り向くと、大きなゴルフバックのような鞄を持った男が立っていた。

 大学生位の見た目をしており、髪を金色に染めていてパッと見た感じ不良のような印象を感じる。


 「まったく。任務でこちらに飛ばされたと思ったらすぐに異能者と対面かよ。おいそこのガキ。お前は“機関”の所属か?」


 「き、機関?なんのことですか?」


 「しらばくれてんじゃねぇ。そこの小さいのがお前が異能者の証拠だろうが。……まぁ、いいか。とっとと捕まえて吐かせればいいしな」


 すると男は持っていたゴルフバックを降ろし、中から鉄パイプを取り出す。


 「鉄のアイアンビースト


 男の言葉と共に手に持っていた鉄パイプがまるで生きているかのように動きだし、手から地面に放たれると蛇のように這いながら彼方の足に絡み付いた。


 「な、なんだ!?痛っ!」


 彼方は慌てて足についた鉄の蛇を剥がそうと、手を掛けるが締め付けが強く引き剥がせない上にコンクリートに穴を開け、体の一部をアンカーのようにして動きを封じ込められてしまう。


 「さてと、他の一般人に見つかる前に一発ぶん殴ってとっとと気絶させてからアジトに連れていくか」


 男はゴルフバックからもう一本鉄パイプを取り出し、振りかぶり彼方の頭に向けて振り降ろす。

 彼方は咄嗟に手で頭を守るようにし、目を閉じる。

 すると、ブンッと空振る音がし、鉄パイプは彼方に当たらなかった。

 彼方が目を開けると彼方に間に合った当たるはずだった鉄パイプの部分はまるで元から無かったかのようにくり貫くように無くなっていた。


 「あ?」


 次の瞬間、彼方の後ろから黒い巨大な針のようななにかが飛んできて男を狙うが回避する。


 「ちっ、新手か」


 そして、再度黒い巨針が男に向かい飛び込んでいく。

 またしても男は回避するが、回避した直後に巨針は腕のように形を変えて男を掴み、近くの雑木林の方へ向かい投げた。


 「うおぉぉ!?」


 急な変化に対応できなかった男はそのまま叫びながら飛んでいった。


 「そこの貴方、早くこっちへ!」


 黒いなにかが飛んできた方向からフードを深く被った黒いパーカーの人物が彼方の方に駆け寄り、避難を呼び掛ける。

 声から察するに若い女性だと予測ができた。

 不思議なことに彼方にはその声に聞き覚えがある声だった。


 「そうしたくても脚が……」


 彼方は今でも足に絡み付く鉄の蛇を見る。

 先程のように締め付けてくることは無くなったが手で外れるような強度ではなく、いまだにアンカーのような状態で彼方の動きを封じていた。


 「なるほど、影のシャドーガーデン!」


 掛け声と共に女性の足元から先程より小さな黒い針が現れて彼方の足に付いていた蛇を貫き、もう動かないことを確認しながら女性は彼方の手を引いてその場から離れていった。

 それから10分程して、投げ飛ばされた男が戻ってくる。


 「ちっ、逃げられたか。あー、くそ。成果なしに約束時間には遅れるなんてまたあのクソ野郎にバカにされるじゃねぇか」


 ぶつくさと文句を呟きながら男は鉄パイプの残骸を回収しその場を去った。

 一方、彼方は女性に手を引かれ町の郊外まで走っていた。


 「なぁ!奴等は一体……あんたは何者なんだ!?」


 彼方の声を聞き、周囲の安全を確認した女性は立ち止まり、手を放す。


 「奴等はある目的の為に異能者を勧誘、拉致等を行う集団。通称 世界の解放者ワールド・リリーサー。そして、私は対立する異能者の保護、奴等の目的を妨害する組織。異能保護機関、通称機関と呼ばれる組織のエージェント」


 女性はフードを脱ぎ、その顔を彼方に見せる。


 「な!?あ、あんたは……」


 女性の正体は彼方のクラスの転校生である卯木八重だった。

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