愚者とと主人の反省
組織の人物達が達也奪還の話を進めている一方、彼方達は平穏な学生生活を続けていた。
昨日の件で多少不安になっていたが、学業に追われている内彼方もそちらの方に意識が向き記憶の片隅に仕舞われていく。
そんな学校の時間も終わりを告げ、彼方は放課後一人で帰路についた。
八重は昨日の件でしないといけないことがあるため早々に帰宅し、遼太郎と真琴はいつものように部活動と家の手伝いで先に帰っていた。
「昨日の戦い、思ったより話題になってなかったな」
彼方がぼそりと呟く。
昨日の戦いは機関の情報操作で不良達が爆竹などを使用したり、喧嘩をしたときに老朽化した遊具が壊れ起きたものとして処理されいたのだった。
「ふむふむ、機関の方たちは仕事が早いのですね」
彼方の胸ポケットからフールがひょっこりと顔を出して手を口に当てながらしみじみと呟く。
「うわっ!?フール!いきなり出てくるなよ!」
彼方は周囲を見渡して誰もいないことを確認すると左手でフールを軽くこづいた。
「いたた……マスター、暴力はいけないと思うのですが」
「こづかれたくなきゃいきなり出てくるなよ。この前のこともあったんだからな」
ついこの前達也に見つかったことを思いだし、彼方は軽くため息をついた。
あの時もフールと話していたことか原因だった為、それ以降はフールも外で会話をするのを控えたいたのだが達也が捕らえられた事で気が緩んだようであった。
「……そうですね。申し訳ありません。」
仮面で表情こそわからないが落ち込んだかフールの声は小さくなっていく。
「まぁ、お前だけが悪い訳じゃないしな。俺だってもう少し周囲に気を配っていればなんとかなったかもしれないし……」
「そ、そんなことはありません!マスターはなにも悪くありません!私がもっとしっかりしていればよかったのです!私は周囲に見とれていて察知することが出来ませんでした……」
彼方の言葉にフールは慌てたように言う。
実際彼方が気を付けた方がよかったのもあるがフールにとっては違った。
フール達にとって彼方は自らの主人であり守るべきものである。
今回の自身の行動で起きてしまったことを主人である彼方の危険にさらしてしまった事がフールには心苦しかったのだ。
「……なぁ、フール。俺達まだ出会ったばっかりでわからないことばっかりだ。俺はお前達のことや組織とか全然わからないし、お前も前回の所有者からかなり年月が経って今の常識ってもんがわからないと思う。だからお互いわからないもの同士一緒に勉強していこうぜ」
そういって彼方はフールの方を見てニカッと笑う。
「はい!このフール命にかえてもマスターを守りサポート致します!」
彼方の言葉にフールは嬉しそうに答える。
彼方もその様子を見て先程とは別のまるでこの成長を喜ぶような笑みをこぼした。
「あっ、そういえばマスター、実は魔術師が召喚可能になったことでいくつかのアルカナ達の召喚が可能になりました!」
「マジでか!?いったいどんな奴等なんだ?」
急なフールの発言に彼方は大きな声をあげてしまう。
彼方もそれに気付き周囲を見渡すが、幸いなことに周囲に誰もいなかったのでこっちを見る人はいなかったようだ。
「……で、一体どんな奴等なんだ?」
周囲を確認した彼方は小声でフールに尋ねる。
「今回可能になったのは<魔術師>を除くと<女教皇><正義><恋愛>ですね。きっと女性を守ろうとする行為を見て召喚に応じたのでしょうが……それは召喚したときにでも確認しましょう。ん?」
そういっているとフールは突然周囲を見回すとポケットのなかに体を隠す。
「どうした?」
「マスター、そこの通路から人の気配がします。新たなアルカナについては帰宅した後、魔術師と共に紹介しますので一度カードに戻りますね」
そういうとフールはカードの姿に戻っていった。
「そういう察知出来る力があるなら前回発揮してくれればよかったのに……」
カードに戻ったフールを見て彼方は軽くため息をついて、フールが言っていた方向を見る。
十秒ほどしてその角から一人の女性が現れる。
「あら、貴方はこの前の……?」
出てきたのは達也に襲われる前に出会った女性、東雲朔夜だった。