1 原田兄妹、異世界へと足を踏み入れる 上
穏やかな秋口の昼下がり、とある私立高校の校舎から、一人の少女が颯爽と校庭へと駆け出して行った。
腰まで伸びる艶やかな黒髪がサラサラと風に靡いた。
頬を染めて走るその横顔は美しく、溌剌としていた。
彼女の名は、原田椛といった。
少し釣り上がったアーモンド型の目に、スッと伸びた眉。
セーラー服の裾から白く突き抜けた手足がスラリと伸びる。
やや細身で、身長は百五十を少し越えたあたりだろうか。
「兄さぁーん!!」
少女が向かった先は学校のグラウンドで、そこでは野球部が他校との練習試合を終え、撤収作業に入っていた。
ハアハアと息を弾ませ、少女は一人の男性の前で急停止し、そのままクルっと一回転してから真っ白な歯を見せて笑った。
「勝った!? 勝ったよね!!」
「やあ、妹ちゃん。勝ちましたよ」
少女の問いに、男性は丁寧な物言いで応じた。
彼は、トンボと呼ばれるグラウンド整備のT字の器具を使い、試合で荒れた土を整地していた。
その男の身長は二メートル近いだろうか。
筋骨隆々の体躯はまるでプロレスラーのようで、泥に塗れた野球のユニフォームは今にも弾けそうな程にピッチピチだった。
その上、彼は若干猫背で、極めて彫りの深い濃い相貌に、手入れされていないゲジ眉、褐色の肌は日に焼けたというより地の色であるらしかった。
美女と野獣。
薔薇とゴリラ。
美の女神とネアンデルタール。
そう言い切ってしまっても問題無い程に、彼らは対照的だった。
「兄さんは活躍した? 活躍したよね!?」
「ええ。適宜打に犠打、それに三塁打とホームランを打ちましたよ」
「凄い! 凄い!! 凄い!!!」
実際には少女は適宜打も犠打も知らなかったが、三塁打とホームランはとても凄い事くらいには野球を知っていた。
つまりは彼女は野球を殆ど知らなかったのだが、それでも興奮して拳を作った手をブンブン振り回し、靴をパタパタさせながら、兄と呼んだ男の周りで飛び跳ねた。
そこに、グラウンド整備をしていた野球部の面々が集合し始めた。
グラウンドに居たのは僅かに八人だけだったが、全員が集ると、彼らは野球帽を取って深々と兄妹に一礼した。
少女は若干人見知りするのか、今までの元気さは何処かに行ってしまった。
彼女は素早く兄の背中に隠れると、おずおずをその背中から顔だけを覗かせて様子を伺っていた。
「原田君。今日は助っ人ありがとう。お陰で練習試合を行う事が出来た上に、君の力で勝ったよ」
原田君。
そう呼ばれた男の名は、原田太一郎といった。
彼は巨躯に似合わないその丁寧な物言いを崩さないままに、答える。
「勝ったのは皆さんの力ですよ。キャプテン。俺は少し手助けしただけです」
「謙遜だな。また時間に余裕があれば応援を頼みたいんだが?」
「来週はサッカー部の遠征に同行します。再来週は弓道部です。もし、開いている日があれば言いに来ますね」
「あ、ああ。凄いな、君は。……あっ。妹さんが来てるんだったね。後は俺たちでやっておくから、先に上がってくれ」
「ありがとうございます」
原田太一郎は野球部の面々に挨拶すると、少女の手を引いてグラウンドを後にした。
少女は少しはにかみながらもペコリと頭を下げると、兄の手を握り締めたまま、ピョンピョン飛び跳ねながら帰っていった。
残った野球部員達は、トンボでグラウンドを均しながら、今日の出来事を振り返る。
「しかし、凄いですね!! ゴリラ先輩。打って良し、守って良し。ああ、あの人がウチに来てくれたら甲子園も夢じゃないのになぁ」
「ホント、ホント。聞いたかよ、次はサッカーだってさ。でもその次よ。弓道部!! パワーだけじゃないのな、あの人」
「噂によると、茶道部でも賞取った事あるらしいぜ」
『えっ、えええー!?』
部員達が手を止めて話し込み始めたが、キャプテンは彼らをチラリと見ると、黙々とグラウンド整備をしていた。
その内に、彼ら部員達の話は脱線し始める。
「でもさ。椛さん。見れて良かったぁ。俺、告白しちゃおっかな!」
「馬鹿か、お前は。学校一の美少女。原田さんがお前となんか付き合う訳ないだろう!」
「いやいや、もしかしたら、ワンチャンあるかもしれんだろ!! お前は何でそんなに夢が無いんだ」
「だいたい、あの人が極度のブラコンだって周知の事実だろうが!!」
「うるせぇ!!」
遂には取っ組み合いを始めた部員達にキャプテンが雷を落とす。
「いい加減にしろっ。後な、原田君をゴリラと呼ぶな!!」
部員達はシュンとなって作業に戻り始めた。
日が暮れ始めていた。
◇◆
夕暮れ時の商店街を、太一郎と椛が連れ立って歩いていた。
「ほらっ。タイ!! コロッケ食べてきな!」
「ありがとうございます」
顔見知りの揚げ物屋がコロッケを二つ、小さな紙袋に入れて寄越した。
それを兄妹で齧りながら、歩みを進める。
すれ違う人達が、椛の美貌に足を止め、振り返る。
時折、声を掛けようとする者も居るには居たが、横に居る太一郎を見てギョっとし、ソソクサと逃げるようにして立ち去っていった。
「あらっ。椛ちゃん、お兄さんとお買い物?」
「はいっ」
椛が受け答えしたのは行きつけのスーパーのパートさんだ。
もう兄妹で二年も通っているので、始めは会話が成立しなかった椛もようやく慣れてきたのだ。
スーパーの入り口でコロッケを食べきると、太一郎は腰の所で手をゴシゴシやった。
椛は上品にハンカチを取り出すと、手を拭った。
そうしてから、また二人は手を繋ぐと、食材を買って帰宅した。
「ただいまぁ」
椛の声に誰からの返答も無かった。
玄関で靴を揃え、手を洗ってから居間に向かう。
少し後で、食材を台所に置いてきた太一郎も追いついた。
「お父さん、お母さん。ただいま帰りました」
椛は仏壇に手を合わせる。
太一郎もそれに続く。
そうしてから、二人で仲良く線香を灯すと、交代で風呂に浸かり、夕食にした。
「兄さん。モグモグ……。えっとね……。ゴックン。今日ね……。モグモグ」
「椛、話すか食べるかどっちかにしなさい?」
「ゴックン。……はぁい」
夕食は太一郎が作ったひき肉オムレツに、椛が作った具沢山のコンソメスープだった。
太一郎のオムレツは、皿に六枚は乗っていたのだが。
「えっとね。兄さん。今日、前から言ってたVRMMOのオープンベータテストの開始日なんだよ」
「ええ。覚えていますよ。一緒にやろうと約束しましたね。その為にパソコンを居間に二つ用意しました」
「うん!! それでね、今日は徹夜でリセットマラソンしながら、キャラクタ・クリエイトするの!!」
「俺はそういうのに疎いんですが、大丈夫でしょうか?」
太一郎は少し不安そうな顔をしたが、椛は満面の笑顔でオムレツの最後の一欠けらをパクリとやると、「私にまっかせなさい!」と胸を叩いた。
食後にと冷やしておいた果物ゼリーを片手に、椛は早速居間に向かい、パソコンのセットアップを始めた。
太一郎は皿洗いを終え、仏壇にお供え物を持っていってから追いついた。
「兄さん。おっそーい!! もう二台とも準備万端よ」
「ごめん、ごめん」
太一郎が頭をゴリゴリと掻きながら、居間のちゃぶ台上に置かれた液晶モニタに目をやると、そこにはVRMMO<タイタンクロウ・オンライン>のオープニングムービーが流れていた。
『タイタンクロウ・オンラインの世界へようこそ。このゲームは基本無料です。キャラクタ・クリエイトをリセットする場合と、アバターなどのアイテムを購入する場合のみ、有料となります』
『キャラクタ・クリエイトは完全ランダムとなっております。この初期に割り振られるステータスやスキルは変更不可能です。ゆえに、その初期ステータスが気に入らなかった場合、それをクリアし、一から再スタートする為の課金アイテムを、有料で販売致しております』
テロップではCGらしい綺麗な女性が、更に詳細な説明を始めるが、太一郎はこの時点で最早思考が追いつかず、妹に助けを求めた。
「妹ちゃん。これはどういう事?」
「キャラクタを作る毎に最初に貰えるステータスやスキルがランダムなのよ。兄さん。それで、今はベータテストだから課金無しでリセットし放題なの!! つまりはリセットマラソンで最初から強いキャラクタ作れるの!!」
「そ、そうなんだ」
椛はその可憐な外見からは想像もできなかったが、かなりのゲーマーでコアなユーザーだった。
オンラインに限れば、対戦型格闘ゲームやカードゲームでの優勝経験もあったし、VRMMO界隈においても知る人ぞ知るPvPのトップランカーだったのだ。
その彼女が、この新作VRMMO<タイタンクロウ・オンライン>に食指が動かない訳が無かったのだ。
「で、ね。ここをクリックするとウェブカメラが起動して、兄さんの外見をスキャンしてくれるの。勿論、後からアバターは買えるけど まだ未実装なんだってさ」
「うーん。俺の外見……」
「私、兄さんの顔、好きよ?」
さり気なくフォローを入れる椛。
微妙な顔をする太一郎。
しかし、ウェブカメラは無常にもその太一郎の顔をスキャンし始めたのか、モニタ内のCG女性の横に緑のワイヤフレームが出現し、しかめ面の、太一郎そっくりのアバターを形成していった。
『ぷっ』
「今、CGのお姉さんが笑いませんでしたか?」
太一郎が椛に聞こうとすると、画面の中の女性が手で、「ちょっと待って」という仕草をしながらモニタから引っ込んだ。
流石の椛もそれには驚いた。
「えっ!? 今の人、GMか何かなのかな?」
「ジ-エム?」
「ゲームマスターよ。運営側の管理者」
「それなのかもしれませんね」
そこに、けたたましい笑い声が響き渡った。
『あーはっはっはっ。いっひひー。見て、見てよ!! ゴリラがゲームやってんの!! いや、本当よ!! 本当だってば!!』
どうもパソコンと接続しているオーディオから、その声は聞こえてくるらしかった。
そして、事もあろうか、数人の女性がチラチラとモニタ越しに現れては、大爆笑しながらモニタ枠外に消えていった。
『アハハハハッ。ホントだ!! ゴリラ! ゴリラがいる!! もしかしたらネアンデルタール人かも!!』
『うっわーあ。うっわーあ。うっわーあははははははぁぁぁぁッ。ゴリラだぁぁぁぁ。ゴリラだよぉ!! あはははははは……』
流石に太一郎が憮然とし始めたその時、椛が大声を張り上げた。
「ちょっとアンタ達!! うちの兄さんに何言ってるのよ!!」
恐らく、これが実際に椛の眼前で起こった出来事であったなら、彼女は兄の影で隠れながら小さく抗議の声を挙げるだけだっただろう。
だが、これはモニタ越し。
それが椛の声を大きくしたのだ。
椛の言葉に、オープニングムービーに出ていた、兄妹がCGだと思っていた女性が息を切らしてモニタまで戻ってくると、驚愕の顔で頭を抱え始めた。
『エッ!? ちょっと……。どうなってんの? 音、向こう側にも漏れてるっぽいよぉぉぉぉ!?』
「そうです!! 漏れ聞こえてて、あなた方が私の兄をゴリラと連呼した事も聞こえてましたっ」
『エッ……? エッエエエエエ!????』
その後すぐに、モニタ越しに三人の女性が慌てて現れ、小さく頭を下げた。
三人は揃って淡い金髪の北欧風の美女で、運営側の意向なのだろうか、揃って刺繍の沢山入った純白のロングドレスで、頭にティアラを載せていた。
そのティアラの色にだけ若干の差異があり、最初からモニタ前に出ていた女性は青いティアラ、太一郎をネアンデルタールと呼んだ女性は赤いティアラ、笑い続けた女性は黄色いティアラを付けていた。
彼女らは姉妹で雇われているのだろうか、均整の取れた顔立ちはそっくりで、僅かに身長や髪の長さに差異がある程度だった。
『あ、あの。すみませんでした。私、ヴェルダンディと申します。こ、この事は上に報告しないで頂けると、ま、真にありがたいのですが……。その、三姉妹揃って首になると、その……大変困るのです』
やはりと言うべきか、三人の女性は姉妹であるらしかった。
彼女らは、一様に取り繕いだした。
『あたしはウルズ。そ、その。なんだ。悪かったよ。ホントに……。ネアンデルタールは言いすぎた』
『僕、スクルド。……イヒッ』
スクルドと名乗った黄色いティアラの女性が、一瞬しまった!! という顔をして笑いを噛み殺した。
椛はバンッとちゃぶ台を叩くと、猛烈な剣幕で抗議し始めた。
「アンタ達!! 今から特設サイトに行って、この出来事を一から十までメールフォームで送っちゃうんだから!」
『あ・あ・あ……。それだけは、それだけはご勘弁を……。ホラッ、スクルド、もう一回謝んなさい』
『ごめんなさぁい』
スクルドが、泣き真似をしたが、それがより一層椛の怒りを招いた。
彼女は自身のパソコンに猛然と齧りつくと、カタカタとキーボードを連打し始めたのだ。
『あ・あ・あ……。お待ち下さい!! 改めて謝罪した上で、私達しか知らない取って置きの情報をお教えしますので!!』
ヴェルダンディと名乗った女性のその言葉に、椛の手が一瞬止まった。
太一郎は急展開するこの事態に付いて行けず、果物ゼリーを食べ始めた。
『ウヒッ!! ゴリラがゼリー食べて……モゴッゴゴゴゴ……』
またスクルドが余計な事を言い、それを慌ててウルズが口を封じて愛想笑いで誤魔化した。
だが、椛はそのやり取りを全く見ておらず、ヴェルダンディに、「ま、内容次第ね。私が納得したらこの件は水に流すわ」と言い放った。
ヴェルダンディはホッとした様子で、椛に促されるままに話し始めた。
『このゲームはリセットマラソンせず、一番最初のキャラクタ・クリエイトのみでゲームを開始すると、かなりの恩恵があるのです』
「ほほう! それは盲点ね。リセットマラソンする事を前提に課金システムを構築したこのゲームで、それをせずに開始するプレイヤーなんて居ないものね」
『はい。それでですね。恩恵なのですが、一度もリセットしなかった場合、このゲームでは無く、このゲームの元となった異世界に飛ぶ事が出来るのです』
「は?」
椛はこの期に及んで冗談を言うヴェルダンディに青筋を立て、眼光鋭く睨みつけた。
兄はそんな妹の為に果物ゼリーの封を空けると、スプーンで彼女の口元へ運んでいった。
「ほら、妹ちゃん。可愛い顔が台無しだよ?」
「んぐぐっ」
野球部員から極度のブラコンと称された妹は、顔を真っ赤にしながらゼリーを飲み下し、一呼吸してからヴェルダンディに向き直った。
「ふーっ。ここでそんな冗談を入れてくるなんて、夢にも思わないわ」
『いえ、冗談ではなく、本当なんです』
「本当に、本当?」
『ええ。証拠をお見せします』
ヴェルダンディが画面越しにモニタへと近づいてくると、そのまま某ホラー映画のように抜け出てきて太一郎と椛の横に立った。
唖然とする椛、よく分かっていない太一郎を尻目に、ヴェルダンディが改めて口を開いた。
「私は運命の女神が一柱、ヴェルダンディ。今からあなた方にお見せする『世界』は現実に存在する異世界ガングニア。さあっ!!」
ヴェルダンディは椛と太一郎の手を掴むと、彼らを未知の世界へと連れて行った。
そこは、鬱蒼とした針葉樹林が生い茂る巨大な森の裾野で、一面に雪が降り積もっていた。
「うわっ。寒い!! 寒いよっ」
椛が悲鳴を上げると、太一郎が慌てて上着を一枚脱いで椛に羽織らせた。
ヴェルダンディがハッとして、何やら二言三言呟くと、兄妹の周りにだけ、暖かな風が流れ始めた。
針葉樹林から、恐竜の頭がガサガサと音を立てて出てくる。
恐竜図鑑に載っていそうな、首の長い鈍重そうな爬虫類が、眠そうにウツラウツラしながら針葉樹の葉に齧りついていた。
「ブラキオサウルスかな? 実物見るのは初めてですね」
「兄さん!! 恐竜は一億年以上も前の生き物です!! 今は絶滅しています」
「そうでしたっけ?」
「そうです!」
兄妹はここがヴェルダンディの言う異世界だと漠然と理解し始めた。
椛がヴェルダンディに聞く。
「ええっと。リセットマラソンしなかったらこの世界に来れるの?」
「はい。しかも、<タイタンクロウ・オンライン>のステータスやスキルを保持したままで」
「うわー。それって楽しそう! 早速帰って続きしようよ、兄さん!!」
「はい」
そこでヴェルダンディがモジモジし始めた。
その意味を察した椛は、「これは本当に取って置きの情報よね。さっきの件は水に流すわ」と笑顔を作った。
「あっ、ありがとうございます!! ここで首になったら、オータン様にこっぴどく叱られてしまいましたので」
「そのオータンって人が上司なの? あなた、自分を運命の女神って言ったわよね。だとしたら、そのオータンって主神クラス?」
「ええ。まさしくその通りです。で、では、一旦お部屋に戻りますね」
椛はこのどこか抜けている北欧美人が、人ならざる者なのだと理解した。
太一郎はなんとなく理解してはいたが、妹が喜んでいる、ただそれだけで彼には十分だったので、特に口を挟む様な事はしなかった。
部屋に戻ると、ヴェルダンディは太一郎側のモニタから、ゴソゴソとゲーム画面に入り込んだ。
ヴェルダンディのスカートが捲くれ、少しパンツが見えたが、太一郎は見ないフリをした。
椛が少し嫉妬して、ヴェルダンディのお尻をパーンと叩いた。
『キャッ!?』
妹はメールを作る為に最小化していた<タイタンクロウ・オンライン>を元に戻すと、自身のアバターを作る。
アバターを作成し終えた椛は、早速キャラクタ・クリエイトのランダムボタンを押した。
「あんまり酷いステータスだったら嫌だなぁ」
椛がチラチラと太一郎側のモニタに視線を送る。
意図を理解したヴェルダンディが、横に居たスクルドに肘鉄を入れると、スクルドはモニタ外に消えていった。
次の瞬間、椛のキャラクタのステータスが次々と決定して行く。
■女性アバター:名称未設定
体力:12
知力:20
生命:12
敏捷:12
固有ボーナス:初期所持金二万倍。
バッドステータス:恋愛が拗れ易い。
スキル:<機転><応用><文字理解><言語理解><細剣熟練>
エクストラスキル:<起死回生(神話級)>
ユニークスキル:<魔法吸収(神級)>
椛のステータスが決定すると、彼女は早速自身の名前を打ち込む。
「名前はモミジっと。バッドステータスって必ず一個は付くんだっけ?」
『はい。出来る限り影響の少ないのにしました』
「やるじゃん。えっと、スクルドだっけ」
『はい。イヒヒッ』
実際には、このバッドステータスが椛をずっと苦しめる事になるのだが、それよりも彼女はこの優秀なステータスに満足げであった。
椛が下調べした時の情報だと、能力値はせいぜい7か8程度が限界だったし、スキルは一つか二つ。
その上、コンマの世界の確率であるエクストラスキルの取得と、その上を行く最難関であるユニークスキルまで持っているのだから、満足しない訳は無かったのだ。
「さて、次は兄さんね」
「うん」
太一郎が準備を終え、ボタンを押した。
今回もヴェルダンディから肘鉄を食らったスクルドが、モニタ外へと消えていった。
次々と決まるステータスに、椛は食い入るように見入っていた。
太一郎はゼリーを食べ終え、台所にアイスを取りに行こうとしたが、中腰になった所を妹にガシっと腕を掴まれ、半ば無理やりに座らされていた。
「妹ちゃん。アイス……」
「後にしてっ。折角良い所なんだからっ」
「はい……」
■男性アバター:名称未設定
体力:33
知力: 7
生命:33
敏捷: 7
固有ボーナス:モテる。
バッドステータス:女難の相。
スキル:<鈍器熟練(英雄級)>
エクストラスキル:<鈍器熟練(神話級)>
ユニークスキル:<鈍器熟練(神級)>
「ちょっとぉぉ!! なんなのよ、これ!! 全部鈍器じゃない!! スクルドぉぉぉ!! これじゃあ太一郎兄さんじゃなく、鈍器兄さんじゃない!!」
椛は絶叫した。
スクルドはモニタ外から戻ってくると、「ゴメン。バレた……。ゴリ……いや、そっちの人のは完全ランダムだわ」とだけ呟いた。
ヴェルダンディとウルズの顔がサーッっと青ざめた。
「ええっと。ど ん き に い さ ん。っと」
「え、ちょっと兄さん、今何したの?」
「名前を入れてました。……変換、決定と」
この兄の言葉に、椛の顔がサーッと青ざめた。
気分転換です。