レイチェル=ルッベルス、成人式に挑む
「ブフッ、こんなに面白いやつは久し振りだわ。そなたよく今まで無事だったな」
成人式、それは伝説として語られている英雄だけでなくこの国の大人なら誰もが口をそろえて「この式がなかったら今どうなっていていたかわからない」と答えるほど重要な式。
そんな式にわたしが参加しなくてはいけない年がついに来てしまった。きんちょうのあまり足がふるえるのを下を向いてさっきもらった記念メダルをぎゅっとにぎって必死にがまんする。
「これから何するのかしらねぇ?」
話すよゆうがあるなんてすごいなぁ、こんなふんいきなのにきんちょうしてないのかな。
「ねぇってばあたしの後ろのあなたよ!」
返事が返ってこない。声をかけられてる子はわたしと同じできんちょうして話せないのかな、友達になれそうだな~。話しかけてる子と話しかけられてる子はどんな子なんだろ。
顔をあげると前にいた――少しウェーブがかかったきんぱつで少しつり目ぎみの緑色の大きな目をしたかわいい――子がぷんぷんとほっぺたをふくらませてこちらを向いていた。この子が話しかけてたのかな、だから声がとても大きかったのか~。
「もしかしてわたしに言ってたの?」
自分をゆびさして聞いてみたけど他の子だったらどうしよ。
「そう、あなたよ。あたしの後ろだった幸せなあなたはと・く・べ・つ・に! あたしとお話してもいいことにしてあげるからいっしょにお話ししましょ! 順番までただ待ってるなんてつまんないじゃない」
かみの毛をふぁさーと手でなびかせてふふんとどや顔をしているのがかわいい顔ににあっている。高そうなドレスを着ているから上級貴族なのかな。わたしがじーっと見ているだけで不安になってきたのか女の子はスカートのはしっこをもって、もじもじし始めた。
「えっと、あたしの名前はコルネリア。コルネリア=ハシュテットですわ」
ハシュテット家といえば上級貴族の中でも昔からある名門貴族だ。さいきんハシュテットという名前をどこかでよく聞くけどどこでだったっけ。
「あなたの名前を聞いても大丈夫かしら?」
少しつり目ぎみな大きな目が不安そうに何度もぱちぱちとまばたきをする。
「わたしの名前はレイチェル=ルッベルス。レイチェルと呼んでくれませんか?」
その言葉を言ったら、ぱぁーっとコルネリア様の後ろがキラキラしてみえた。
「もちろん! あたしのことはネリアと呼んで。あと友達なんだから敬語も様付けもなしなんだから! ルッベルス家は中級貴族だけどトップクラスだからお父様も文句は言わないはずだわ。やったー! 友達1号げっとー! お兄様に帰ったら報告しなきゃ」
うれしそうにくるくるまわっていたネリアだったけど急に止まってうずくまり顔を手でおおった。
「今の見ちゃった?」
どうやら今の行動はむいしきだったらしい。冷静になったらはずかしかったようだ。わたしもしゃがんで指のすきまから見える緑の目を見ながら言った。
「何も見なかったけどどうかしたの?」
「今の聞いちゃった?」
「友達1号ができてうれしくてなんにも聞こえなかったよ」
「えっ、あなたも友達1号がわたしなの?」
「うん。もしかしてネリアちゃんもいっしょ?」
「うん。成人式までは外にでちゃダメだからってお兄様にあそんでもらってたから今日友達をつくろうと決めてたんだけど、前の子は男の子で話しかけられなくて」
「わたしもきんちょうしちゃって……、ネリアちゃんが話しかけてくれてうれしかった」
二人でにこにことほほえみあったあとに手をつないで立ち上がった。
「そういえば成人式って何するんだろね」
「お母様もお兄様も行けばわかるっていっていたけど」
「わたしもそう言われた」
「うーん」
二人で首をかしげながらいっしょうけんめい考える。
「記念のメダルはもらったけどまだ終わってないってことは十才のお祝いをするだけじゃなさそうだよね」
「みんなの言い方的に何か大切なことが決まるのかしら?」
「何か大切なことって何だろう?」
「うーん」
首の角度がさらに深くなっていく。
「あーもうやめましょ! もうすぐあたし達の順番だからもっと別の話をしましょうよ」
「そうだね、どうせわかんないし。そういえばお兄様がいるって言ってたけど何才なの? なんか気になって」
「お兄様は16才で勉強も運動もできるすごい人なんだから」
こしに手をあてて少しそってしまうほどじまんできる良いお兄様なんだ、うらやましい。それに比べてわたしのお兄様といったら……、ってもしかして。
「もしかしてお兄様って太陽の君と言われてるマティアス様?」
「そうだけれど、よく知ってたわね。お兄様にとってもぴったりな呼び名だと思ってるわ」
「実はわたしにもお兄様がいてラファエルという名前で16才なの」
「きぐうね、んっ? なんか聞き覚えのある名前だわ」
「お兄様同士も友達だったみたいだよ。お兄様が、マティアスとずっといたら太陽の君と月の君って呼ばれるようになったって前に楽しそうに語っていたもん」
「まさかお兄様同士も友達なんて、こんなにめずらしいことはそうそうないわ。いやもしかして運命だったのかも!」
「わたしもそんな気がする!」
「ゴホンッ」
二人でまた手をつないでぴょんぴょんはねていたらとびらの前の兵士さんがこちらを見ながらせきばらいをしたのであわてて手をはなして、ふたりともぴしってしせいをよくした。それすらも面白くてまた向き合って笑いあった。
「そろそろあたしの番だから静かにしていたほうがいいかもしれないわ」
「そうだね、今度は学園か、ネリアちゃんと会うの楽しみにしてるね」
「あたしも楽しみにしてるわ」
できるだけ小さな声で話しながらあくしゅをしたあとネリアちゃんは前を向いた。早く学園に行きたいな。お母様やティルダに会ったらネリアちゃんのことをなんて話そうかしら、今から考えないと……。
「次の者入れ」
ついにネリアちゃんの番が来た、ネリアちゃんはわたしにこっそり手をふって兵士の開けたとびらの中に消えていった。わたしもこっそりとふりかえした。
ネリアちゃんがいなくなったらとたんにきんちょうが戻ってきた。あのとびらのおくには何が待っているのだろう。おなかも少しいたくなってきた。ただでさえ昨日はきんちょうでねるのがおそくなってねむいのに。
「……のも……」
どうしよう。なんか悪いこと言われたら、どうしよう。おこられちゃったら、どうしよう。もしかして今日が命日だったりしちゃうのかな。せっかくネリアちゃんと友達になれたのに。
「次の者早く入れ!」
「うわっ、はい!」
兵士さんにかたをたたかれるまで気づかなかったなんてもしかしてさらにおこられちゃうかもしれない、どうしよ。
とびらの中に入ると目に入ってきたのは玉座に座る――左目に眼帯をつけた―――女の子だった。一見わたしと同じ高さくらいのかわいい子だがくるんとした羊のようなツノがある人はこの国に1人だけ、その人とは魔王様だ。
「我の名はマリエッタ、魔王である」
うでを組んでどうだっと言わんばかりの顔をしている彼女ははっきりいって魔王様には見えない。けれど周りでひざをついていた人が手でキラキラアピールをしているから本物のようだ。キラキラアピール楽しそう、1人目が死んでるけど。
「このキラキラアピールなくてもいいですよね、そろそろやめてもいいですか」
「うむ駄目だ」
いっしゅんだった。"うむ"という言葉に少し目に生気が戻ったと思ったがまた目が死んだ魚のようになり、最後はたおれてしまった。その様子を魔王様はニコニコと笑顔で見守っていた。
「1000人ごとに言って倒れてを繰り返して、そろそろ学習したらいいのに」
「馬鹿だから仕方ない」
最初はどうすればいいかわからずあたふたしていたが周りの人が何事もなかったかのような対応だったので冷静になれた。
「さてと茶番はさておき、そなたのことを我が見てやろう」
魔王様は目を閉じてから左目の眼帯をはずし、両目を開けた。右目はかみと同じ黒だが左目は金色だった。
「魔王様は今あなたのことを分析してるから待っててくれ」
いつの間にか倒れていた人は復活していた。分析ってどういうことなんだろ。
しばらくして魔王様はまた両目を閉じて眼帯をしたら急に笑いだした。
「ブフッ、こんなに面白いやつは久し振りだわ。そなたよく今まで無事だったな」
どういうことだろう、悪い結果でもでたのだろうか。心配でなみだ目になってきた。
「レイチェル=ルッベルス、落ち着くのだ。まずは説明をしよう。この部屋では成人式後の子どもたちを我が分析し将来について話しあったりしている」
「わざわざ箝口令を敷くからこういう子がときどきでてくるんですよ」
「うるさい! 箝口令を敷くのは反応が面白いからだ。お前みたいにわんわんと泣きだす奴なんてそうそういないわ! さてと我が分析する内容は頭脳や運動能力、適性などだ」
理解できたのでこくこくと何度かうなづく。
「ずばりそなたの結果は――――、運動神経・体力人並み以下、しかも結構下だ。器用度も人並み以下、そなた紙を綺麗に折ったり整えたりするのも苦手だな。幸運もかなり不運で、魔力は多めだが魔法は使えぬ、まぁそれ自体はそう珍しくないから気にしなくてよい。しかしここまで著しく全体的にひどいのは3年で数人レベルだな、不運エピソードも面白いのが多くつい笑ってしまった」
自分でも運動おんちな上に不器用で取りえがなくて、不運なことはよく――というかかなり――あることは自覚してたけど、じっさいに人に言われるとふつうにつらいよ。天気がいいからたまには外でピクニックとかいいかもって出かけた10分後にあらしになってかみなりの雨の中お家にもどったり、外に飛んでいったハンカチをひろいにいったらお兄様が遊んでいたボールが全速力で真横を通ったり、よく無事だったなって事は色々あったけど、まさかそこまで見られた上に笑われるなんて。けっこうつらい。
「まぁ、勉強はやればできるタイプだからそういう仕事に就くのが一番かも知れないな。何か新しいことを発見するかもしれないが、今まで我がそう言ったやつの中にはくだらない発見をした人が何人もいたので気をつけるように。興味をもったことをとことん調べ尽くせばいつか発見できるだろう」
今までの人生からうすうす気づいてたけど勉強以外はいいところないのか、ですよね~。勉強に関わる仕事ってだいぶしぼられるよね、先生とか学者くらいしか思いつかないけど学者のほうが発見しそうな感じ。まあ発見すらくだらないことかも知れないし……けっきょく勉強だけか、はぁ。
「まあそう落ちこむな。普通ここまで悪いとだいたいずば抜けてめっちゃ良い点が一つはあるのだが勉強も上の下くらいなんて誇っていいほどほんとに珍しいことだぞ」
勉強もほんとにすごい良いわけじゃないのか、はぁ~。
「魔王様逆効果ですよ、それ」
「うぬっ? まじか」
「まじです。勉強はやればできると言われたのだから伸び代は十分あると思うので頑張ってくださいね」
そうだよね、勉強がんばって魔王様のよそうをこえてやるぜくらいのいきごみじゃないと。
「そうですねがんば、ってえっ?」
「お帰りはあちらですよ」
「また会えるといいの。じゃあな」
「あっ、ありがとうござっ――いました」
たおれていた人のとなりにいた大きな男の人にかかえられて外に出されたからお礼を最後まで言えなかった。お礼は大事だからちゃんと言いなさいって言われてるのに。あっ、おろされた。
「ありがとうございました」
手をゆるりとふってくれたのでいっしょうけんめいふり返していたらとびらの中に入っていってしまった。イケメンやった。
「レイチェル!」
あっ、お母様だ! 走って向かおうとしたら転びかけたが、だれかが支えてくれた。顔をあげるとお兄様だった。
「ありがとうございます」
お兄様にお礼を言うのはなんとなくいやで本当は言いたくないが、言わないとティルダにおこられるのでななめ上を見ながら言った。
「ずいぶんと鈍くせー姫様だな」
「むっ別にどんくさいわけじゃないし」
「普通の人は何もないところで転びませんしー」
「二人とも喧嘩してないで早くこちらに来なさい。エミーリア様が待ってますよ」
「了解、よいしょって重いなお前」
「そんなことないし! おろしてよ!」
「暴れんなよ。どうせまた転ぶだろうから持ってやってんのにさ。おろしてやっからバタバタするのはやめろ」
「レイチェルとラファエルは本当に仲がいいのね」
「せっかく兄妹なのだから仲良くするのは当たり前です」
「「ちがうし!」」
お兄様と声がかぶってしまったせいでてれてるみたいになってしまった。仲がいいなんてどこを見たらそう思うのかお母様はふしぎだ。
「そういえばレイチェル成人式はどうだったの?」
「魔王様にさっき言われたのはね~」
「魔王様の分析は誰にも言ってはならないという規則があるから言わなくていいわ。そうじゃなくてお友達は出来たかしら?」
「どうせレイチェルは誰とも友達になれなくて、しくしく泣いてたんだろ」
「しつれいな! ネリアちゃんと友達になれたし!」
「まあっ、ネリアちゃんって子と仲良くなれたの。良かったわね」
「ネリアちゃんって何処の子だ? 同年代で知ってるのはコルネリア=ハシュテット様だが、まさかそんなわけないか」
「よくわかったね、お兄様」
「何回かマティアスの家に遊びに行ってるからな。まさかあの可愛いコルネリア様とお前が友達になるとはな」
「別にいいでしょ! 何かもんくあるの?」
「まあまあ落ち着いて下さいませ。念願の友達が出来てよかったではないですか」
「ティルダの言う通りよ。ネリアちゃんがどんな子でどんな風に友達になったかは馬車の中で教えて貰えるかしら」
「わかりましたお母様!」
「さてと馬車はあちらにご用意してありますので向かいましょう。エリアス様もレイチェル様のお話を楽しみにして館で待っていると思いますよ」
「はーい」
ティルダがあんないする馬車へとお母様と手をつないで馬車に向かって歩きだした。お母様たちにネリアちゃんのことどうやって話そっかな。反応が楽しみだな。
十歳の漢字や言葉のレベルがよくわからなかったので、途中途中変になってるかもしれません。ごめんなさい。
あとこの世界で魔王は別に悪いやつじゃないです。闇の魔法極めまくってる人です。不老不死の魔法があるものの普通に世代交代とかしたりします。する場合は血縁関係じゃなくて師弟関係から現魔王が選びます。魔王の角は闇の魔法極めまくった証的なので、継承式です。(取り外し式ではなくて、魔法で次の魔王に生やすと自分のは消える感じです)